48 クーイヌ
「うーん、今年は誰がいいと思う?」
王宮の庭で侍女たちが話し合っていた。
話してるのは仕事の話ではなく、今年の新人たちの話だ。
「今年は粒ぞろいな感じよね」
でも侍女の新人たちの話ではない。
彼女たちが話しているのは見習い騎士の新人たちの話だった。
「やっぱり東の宿舎なら、パーシルくんかな。メガネで理知的でかっこいいし!」
「クーイヌくんも美形だよね。金色のさらさらの髪と、エキゾチックな顔だちが魅力的」
「美形っていうならリジルくんも、整った顔立ちだよ」
「でも、髪型がちょっとねぇ……」
「それはたしかにいえてる……」
「ルーカくんもなかなかよね。ちょっとキザでナンパなところがクロウさまを思い起こさせるわ」
「クロウさまをあんなのと一緒にしないで!」
ひとりの侍女がそういった途端、隣にいた侍女がすごい形相で噛み付いた。
「ちょっとだめよ。キリアはクロウさまのファンなんだから、似てるなんて言ったら意地でも否定するわよ」
「えー、わたしは結構似てると思ったけど」
「確かに似てるけどまたちょっと違った感じだよね。クロウさまはフランクな感じだけど、ルーカくんは本当にキザっていうか」
「ぜんぜん似てない!」
「わ、わたしにまで噛み付かないでよぉ……。もうサリアのせいだからね」
「ええ、わたしのせい!?」
強固に似てないと主張するキリアによって、場は変な空気になってしまった。
そこで、会話を和ますのが上手な侍女が、話題をちょっと変えてもとの空気に戻そうとする。
「それじゃあ、北の宿舎はどうかな?」
「わたしはギースくんがいいな」
「たしかに無口で影がありそうな感じがかっこいいよね」
「ゼリウスくんは?」
「スタイルがいいよね。顔も男らしいし」
「ゴ、ゴルムスくん……!」
ひとりの侍女が赤面しながらその名をあげると、ほかの侍女があきれの混じった目でその侍女を見返した。
「ええ、ちょっと……」
「あんたそれは……」
「まあわからなくもないけど、いま話してるのとはちょっと違うからパスで」
「ええええ……!」
結局、ゴルムスをあげた侍女の話は、まとめ役的な侍女によって流された。
「レーミエくんは?」
「ああ、かわいいって感じだよねぇ。それにすごく人当たりいいし」
「私たちにも笑顔で話してくれるの!」
「かわいいと言えばヒースくんは?」
「ヒースくんって?」
「あのちっさいこ!」
「ああー、確かにかわいさではぶっちぎりかも」
「自分より身長小さい子は、私はちょっと……」
「でも、笑うととっても可愛いんだよ」
「うんうん。天使の笑顔って言われてるの!」
「天使の笑顔かぁ。たしかにそんなイメージかも」
そんな話を侍女たちがしているとは露知らず、北の宿舎の見習い騎士の少年たちは、今日も午後の訓練に入ろうとしていた。
そんな彼らの視線の先には、見慣れない光景があった。
教官のヒスロの横に、フィーの知らない少年が立っている。
褐色の肌に金白色のさらさらの髪、どこか異国の血をひいてるようなエキゾチックな整った顔立ち。背は高くも低くもない。
手を後ろに組んで、真剣な表情でヒスロの横に立っている。
その姿を見て、「あ、あいつは……」と何人かの少年たちがざわついた。
しかし、フィーとしてはまったく見覚えがない少年だった。まあこの国に来て1年未満なので当たり前なのだが。
フィーは小声で隣のゴルムスに聞いてみる。
「あの子、有名なの?」
ゴルムスはわずかに真剣になった表情で頷いた。
「ああ、俺と同じ今年の優勝者の一人だ」
ざわつく見習い騎士たちを前に、ヒスロが大声で言った。
「静かに!今日は転入者を紹介する。
本人の強い希望で東の宿舎から北の宿舎に移ってくることになった、第一騎士隊所属の見習い騎士クーイヌだ。
かつてロイ陛下の剣術指南役を務めていたカイザルさまの弟子でもある。
カイザルさまから直接教えを受けた彼の剣術は、きっとお前たちのいい勉強にもなるだろう
クーイヌ、挨拶しなさい」
そう紹介されて、クーイヌは一歩前にでた。
フィーはてっきり、彼が自己紹介するものだと思っていた。ほかのみんなもおそらく同じだったろう。
しかし、クーイヌの第一声は違った。
「ヒースという見習い騎士はどこだ」
「へっ……?」
急に名前を呼ばれて、フィーはびっくりして目を見開く。
みんなの視線が一斉にヒースのもとに注がれた。それでクーイヌも誰がヒースかわかったらしい。きりっとした灰色の瞳がフィーの方へと向く。
フィーを見たクーイヌは、こちらも少し目を見開いて「この小さいのが……?」などと呟いてくれたが、すぐに真剣な表情に戻ると、フィーに木剣を突きつけて宣言した。
「ヒース、お前に勝負を申し込む。男同士の1対1の真剣勝負だ。
もしこちらが勝ったなら、第18騎士隊の見習いの座を渡してもらおう!」
※ルジールの名前をルーカに変更しました 2016/01/04




