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44 番外編 リネットとフィー

 それはリネットがまだ子供で、フィールに仕えはじめて間もないころの話だった。


「なんであんな子供が侍女の服を着てるの?」

「ほら、あれよ。『侍女の名家』の」

「ああ、あれが~」


 リネットがデーマンの王宮を歩く姿を見て、そうひそひそと噂するのは、リネットよりも10歳は年かさの侍女たちだった。


「フィールさまと同い年だからって、一気に側仕えなんてずるいわ」

「それにあんな子供にフィールさまのことを任せるなんて心配よ。わたしたち大人の侍女が付いていてあげるべきなのに」


 彼女たちの声はリネットの耳にちゃんと届いていた。


(ふんっ、お茶いれの手順すら、ろくに守れないくせに何が大人よ)


 幼いころから侍女になるべく教育を受けていたリネットにとって、この国の侍女たちの怠慢さは目に余るものだった。

 彼女たちは掃除も衣装の管理も、ところどころ仕事に手を抜いていた。

 お茶の淹れ方ひとつとってもそうだ。蒸らす時間や、カップを暖める時間を省いているから、彼女たちの入れるお茶は、香りがあまりでずに、温度が適温から下がっていて。紅茶の美味しさがでていない。

 それなのに国王陛下も王妃殿下もそれに気づきもしない。だから、どんどん侍女の仕事の質がさがっている。


 はじめて王宮に来たときは、唖然としたものだった。

 ほとんどのものは仕事を適当に流しでやっている。たまに比較的まじめにやってるものもいたが、彼女たちはそれを嫌そうな表情でこなしていた。やる気があるわけではないのだ……。

 同僚の者たちは皆、彼女より年上だが、尊敬できる人物というのはいなかった。


 リネットがこの王宮にきて幸いだったのは、フィールさまにお仕えできたことだった。

 失礼な言い方かもしれないが、この国の国王陛下も王妃殿下も、物がわからない人だった。リネットが誠心誠意淹れたお茶も、彼らはいつもの手抜きのお茶と同じく、ただ飲んで何も感じた様子はない。

 能力や人格を見たわけではなく、『侍女の名家』の娘という肩書きと、同い年だからという理由だけで、フィールさまの侍女にふさわしいだろうと召抱えようとされていた。

 その中でフィールさまだけが「とっても美味しいわ。こんなお茶はじめてよ」と言って微笑んでくれた。


 あの方は、リネットと同い年ながら聡明で賢く物事の価値を見抜いている、まさに侍女や侍従が理想とするお仕えする価値のある方だ。

  そんな方にお仕えできて良かった。


 そんなことを考えながら、リネットは水場の方へ向かっていた。

 侍女は主人の世話以外に、自分の身の回りも管理しなければならない。でも、フィールさまの側仕えであるリネットは、服などの洗濯をしている時間はなかった。

 だから、他の侍女に任せて、こうして洗濯がおわったら取りにいかなければならない。


 水場につくと、放り出すように乱雑に、洗濯し終えた彼女の服がおいてあった。


(タイがない……)


 彼女はすぐにそれに気づいた。

 わかっている嫌がらせだ。

 この国の侍女たちは、みんなフィールさまの世話役になりたがっている。だから、幼くして側仕えに選ばれた彼女のことをみんな僻んでいた。

 タイは王女の側仕えという立場をあらわすため、特別な布で作られたものだった。

 予備はあるけれど、極力無くしたくはない。


(すてる勇気なんかないでしょうから、きっとどこかわかりにくいところに隠してあるはず)


 陰湿な嫌がらせをする彼女たちの性格を読み取り、リネットはそう考え自分のタイを探し始める。

 でも、当然ながら心中は穏やかではない。


(もうっ!時間がないのに!)


 側仕えというのは、自分のために使える時間というのは少ないのだ。

 それなのにその足を引っ張るというのは、フィールさまにも迷惑をかけるということだった。


「だから三流なのよ」


 思わず口から毒がでた。


 そんなリネットの肩を誰かがぽんぽんっと叩く。


「探してるのはこれ?」


 その手に握られてたのは、リネットが探していたタイだった。


「あっ、ありがとうございます」


 リネットはそういってタイを受け取ってから、その手が同い年の少女のものだということに気づいた。

 顔をあげると、この国の王族と同じ金色の髪をした少女がこちらを見ていた。

 リネットはその少女のことを知っていた。この国のもう1人の王女。フィー。

 フィールさまの双子の姉上。


 リネットは王宮に入る前に、母から一応といって肖像画を見せてもらったことがある。

 なんだか、ずいぶん適当というか、乱雑に書かれた肖像だったけど。

  本物を目の前にすると、似てないとすら感じる。

 どちらかというと、リネットが相手をもう1人の王女とわかったのは、いま宮中にいる自分と同い年の少女は、フィールさまとその姉上しかいなかったからだ。


 彼女がもうひとりのこの国の王女であるという話はリネットも知っていた。

 なのに彼女はどこにもいなかった。

 国王夫妻とフィールさまにお目通りしたお茶の場にも。彼らが一家団欒として過ごす晩餐の場にも。彼らがフィールさまを連れて参加するパーティーの舞台にも。


 侍女たちも仕事を終えたらさっさと出て行く暗い水場、はじめてリネットはその王女の姿を目にした。



リネットとフィーの過去話。

正直ちょっと話のできはよろしくないのですが、これ投下しないとストックがごっそり無くなっちゃうので……。

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