4 見習い騎士試験を受ける!
二週間後、フィーは騎士団への入団試験をうけるものたちが並ぶ長蛇の列の前にいた。
(いっぱいいるなぁ。最後尾にはやく並ばないと……)
列は開かれた近くの門の外から、騎士団の入団者をうけつけている城の中へと続いている。
フィーは今朝、見張りが起きだす時間の前に、離宮から抜け出し、城の中にひそんでいた。
騎士団への入団試験をうけるためだ。
そして城の人間に見つからぬよう、こそこそと外周をつたって、入団試験の場所までやってきたのだった。
フィーとしては、城の外から来た人間のようにしれっと列に並びたかったが、フィーが本当に来たのは城の中から。
はやく抜け出して最後尾に並ばなければならない。
この二週間、フィーは朝も夜も素振りを続けた。
ひとりだからそれぐらいしかできなかった。でも、この二週間でできるだけの努力はしたつもりだ。
正直、体調はよくなかった。
ご飯をたべることができなかったのだ。
この城にきてから、フィーの立場は本国にいたときの空気から一歩進み、厄介者のカテゴリーに入っていた。
食料や生活品、その他何か与えられたことはない。
まあ、考えてみれば当然のことかもしれない。
この国の人間にとってフィーは、妹の恋愛結婚に便乗して無茶な要求で一緒に嫁いできた、オーストルにとって本来は塵ほどにも気にかけない小国の女。
そんな女を誰が進んで面倒なんてみようか。
頼まれたら、最低限のものでも与えてやるという態度でも仕方のない話だった。
フィーがこの国にきて与えられたのは、やる気のない見張りと、おそらくフィーがくる前は倉庫扱いされていた壁ばかり立派な離宮だった。
そういった理由で、フィーがここに来てからたべた食事の材料は、料理長がフィーの金から調達していた。
おそらく城の中にくる商人から買っていたのだろう。
冷たいまずいスープとパンばかりだったが……。
そして料理長が辞めた今、離宮の外に食料を買い出しにいける存在はいなかった。
このことに気づいたときは、さすがにフィーもしまったと思った。
でも、どうしようもない。
そして見張りの兵士たちに、助けをもとめるわけにもいかない。
フィーはこれからふたつめの人生を歩いていくつもりなのだ。この城でフィーの顔をしる人間は、ひとりでも少なくしておかなければならなかった。
そんなわけでフィーはこの二週間、料理長が買ってきた食料のあまりをほそぼそと食いつないで生きてきた。
なにが悲しくて、世界でも有数のめぐまれた大国、オーストルの王城の中で、いきなりのサバイバル生活をはじめなきゃいけないのか。人生とは不条理なものだった。
そんな食料もついには二日前に尽き、フィーはこの二日はご飯無しで過ごした。
それでも素振りは欠かさなかった。
(こんなチャンスいちどっきりかもしれない)
今日はフィーが、フィーではない別の人生を歩めるかの瀬戸際なのだ。
失敗するわけにはいかない。
フィーがいるのはまだ城の中だ。
ここから城壁を抜けて、そこから並びなおす。
それが第一の関門。
あまり目に付かず、人の列をよけて外にいける道をさがしていたとき、後ろから声がかかった。
「おーい、かわいいお嬢ちゃん。迷子かい?」




