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次にフィーがやってきたのは、コンラッドのところだった。
クロウに、徒手ならコンラッドがいちばん強いと聞いたからだ。
コンラッドはあの任務以来、フィーがいるときはだいたい女装姿だった。そして誰もそのことに突っ込まない。
フィーも気にするのをやめた。
「コンラッドさん!僕にコンラッドさんの技を教えてください」
「あら、化粧の技術ならちょっとずつ教えてあげてるでしょ?」
コンラッドはフィーの頼みごとに、テーブルに肘をついた気だるげな美女の姿で首をかしげた。
フィーはそれに首も振る。
「ちがうんです。そっちじゃなくて、コンラッドさんの素手の技を教えてください」
あのとき男たちを一瞬で倒していった技術。
それを身につけられれば、みんなをあっと言わせられるはずだった。
「うーん……」
コンラッドは少し考えたあと、テーブルにおいてあったりんごをひとつ取った。
そしてそれを肘をついてる方と、逆の手でにぎる。
「こうしてね」
「……?」
今度はフィーのほうが、コンラッドの行動に首をかしげてると。
「こう」
そう言ってコンラッドがにっこり微笑んだ瞬間、手の中のりんごが爆発した。
火薬でも入ってたかのように弾け飛んだりんごは、周囲に破片をまき散らして飛んでいき、コンラッドの握られた左手にはりんごだったモノの残骸とぽたぽた落ちる汁がわずかに残っているだけだった。
コンラッドはその笑顔のまま、フィーにたずねた。
「やってみる?」
「無理です」
フィーは首をぶんぶんと振った。
オールブルにも聞いてみた。
「オールブルさんって必殺技ってありますか?」
オールブルはにっこり笑って紙を差し出した。
『特にないね』
「そうですか~」
フィーもそれににっこり笑顔で返す。
そのあとふたりでいつも通り鉢植えの世話をして、フィーはまた必殺技を探すために別の場所にむかった。
今度はパルウィックのところに行ってみる。
彼は練習場で今日もまた弓の練習をしていた。
「パルウィックさん、弓で何か教えていただけませんか」
「ヒースか。弓の基礎なら教えてやってるだろう」
パルウィックはフィーのほうを振り向きもせず、放った矢を的の中心に軽々と当てながら言った。
そんな彼を取っ付きにくくて怖いと言ってる見習い騎士もいるが、フィーは意外と面倒見がいい性格であることを知っていた。
フィーは彼に、ここへ来た経緯を述べた。
それを聞いたパルウィックは、いつもどおりの落ち着いた声音でフィーに告げた。
「それならば、剣と同じだ。必殺技などない。日々の鍛錬だけがものをいう。妙な癖がつけば、剣以上に使い物にならなくなるぞ」
確かに言うとおりだ、とフィーは思った。
習い始めたばかりだけど、姿勢がわずかに乱れただけで、まったく的に当たらないのだ。
(でも……)
パルウィックの放った矢が、また的に当たる。さっきと寸分違わぬ位置だ。1ミリのズレすらない。
(これはもう必殺技だよね)
フィーは彼の弓の腕を見ながらそう思った。
フィーはガルージのもとにやってきた。
彼は王城の中にある自身の工房にいた。簡単なものならあの集会所でも作れるが、本格的なものになると火や炉を使うので、あの木造の倉庫では都合が悪く、新しくここを作ってもらったらしい。
見返りに第18騎士隊だけじゃなく、ほかの部隊の武器を彼が作ってあげるときもあるとか。
「必殺技かー。つっても俺は基本、戦いには参加しねぇからなぁ……」
フィーの話を聞いて、ガルージはあごに生えた不精ひげを撫でながら言った。
「そうですか~……」
フィーとしてもガルージに聞くのはどうかと思ったが、しかし残ったメンバーは彼とたいちょーしかいなかった。
いそがしいたいちょーに会えるとは限らないし、たいちょーの答えはきっとクロウさんと同じだろうと、フィーは予測していた。
そもそもたいちょーとクロウの剣技も必殺技みたいなものだが、あれはフィーでは無理だ。
「ああ、でもこんなのならあるぞ」
必殺技は無理かとあきらめかけたとき、ガルージは工房の中の剣をひとつとってそう言った。
「なんですか!?」
フィーの目が期待に輝く。
ガルージは握った剣の剣先を、そこらへんにおいてあった木の板に向けると、さっと親指で柄の上側らへんを押した。
すると、ガチャンっとばねのはじけるような音がして、剣の刃が柄から射出されると、木の板へと突き刺さった。
それを見たフィーは歓声をあげる。
「す、すごいっ!」
しかし、それからちょっと冷静になった。
「でも、ちょっと違うかもしれません」
たぶん武器を改造するのはルール違反だとフィーは思った。
それにガルージも「はは、やっぱりか」といって笑う。
「悪いな。力になれなくて。まあ、何か欲しいものがあったら作ってやるよ」
「はい、ありがとうございます」
そういってフィーはガルージと別れた。
あの剣はちょっと欲しいと思った。
集会所に帰るフィーは、仮面をつけた騎士の姿を見つけた。
「たいちょー!」
すぐさま手を振って、そっちへと駆け寄る。
「ヒースか。今日も元気だな」
「はい、元気です!」
イオールの言葉に、フィーは笑顔で頷く。
そしてフィーはだめもとで、イオールにもあの質問を聞いてみることにした。
「たいちょー、必殺技ってありませんか?僕でもできるような奴で」
「必殺技だと?」
イオールはフィーの話が本当にわからないといった声音で聞き返してきた。
そしてフィーの説明を聞き、ひとつ頷いた。
「ふむ、そういうことか」
イオールはフィーの話に少し考えると言った。
「ならば、カインが適任だ。あいつの技ならお前にも役に立つものがあるだろう。興味があるなら教えてもらうといい」
カイン、という名前を聞いて、フィーは第18騎士隊にまだ会ったことがないメンバーがいることを思い出した。
「カインさんって、ぼく会ったことないんですけど、会えるんですか?」
たいちょーがそう言うってことは、会えるような場所にいるのだろうか。
フィーは謎につつまれた隊員についてイオールにたずねた。
「そうか。会ったことがなかったか。おそらくあの辺りにいるだろう」
イオールがそういって指したのは、王城に生えた木の上だった。




