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クロウは気絶させた見張りたちを隠したあと、じっと周囲を警戒しながらヒースがもどってくるのを待っていた。
その耳に、ピーーーーっと高く長く鳴る笛の音が聞こえる。
(これは、あいつに渡した笛!!)
すぐに音がした位置を探す。
そしてそれが2階からだと気づいた。
(あのバカ……!あんな位置で……)
林の中からロイとオールブルが飛び出してくる。
ロイが間髪をいれずに聞いた。
「ヒースはどこにいる」
「たぶん、あそこだ!」
クロウはヒースの笛が聞こえた2階の部屋を差した。
「2階か……」
ロイもさすがに顔を歪めた。
外の見張りの兵までが屋敷に入っていく音がする。このままではヒースが危ない。
すぐさまロイは判断を決める。
「オールブル、踏み台になって俺を上に跳ね飛ばしてくれ」
ロイの言葉にオールブルはすぐに意図を察して頷く。
オールブルがヒースがいると思われる部屋に近い場所に立つと、ロイは全力でその方角に向けて駆け出した。そしてオールブルに向かって全力でジャンプした。
それをオールブルがその太い腕で跳ね上げる。
ロイの体が宙を飛翔した。
フィーはずっと必死にバリケードをおさえていた。
しかし、もうだめだった……。
どんどん向こう側から押す力が増していく。何度か重い槌のようなもので叩かれ、扉も箪笥もボロボロだった。
(押し切られる!)
どんっ、という音とともに、必死におさえていた扉がついに開かれる。
飛ばされながらも受身をとってすぐに起き上がった。まず様子見と、部屋に男たちが5人ほど入ってくる。
フィーではとても勝てるはずもない人数。
(でも、やるしかない……!)
この場で戦えるのはフィーしかいないのだ。
フィーが精一杯の覚悟を決め、剣を構えたとき。
後ろの窓が割れる音がした。
1人の男が部屋に飛び込んでくる。
目に一瞬写ったその姿だけで、フィーには誰かわかった。
「たいちょー!」
「ヒース。下がれ」
地面に着地しフィーにそう指示したイオールは、黒豹のように身を沈めすぐさま動き出すと、呆気にとられている5人の男を一気に一太刀のもとに沈めた。
こんな状況だというのに、一瞬見ほれてしまうような剣捌き。
その数秒あと、クロウも同じく部屋に飛び込んできた。
「うおっとっと、くそ、無茶させやがって!イオール!どうする!逃げるか?」
「いや、ヒースはともかく女や子供は逃げ切れん。ここで迎え撃つ」
「ああ、そうだと思ったぜ!」
「いくぞ」
着地はすこしよろけたが、剣を抜いたときにはイオールに劣らない迫力のある顔つきになっていた。
クロウとイオールは扉の飛ばされた戸のすこし斜め前に立ち、入ってきた敵を瞬時に切り伏せていく。
二人とも戦神のような剣技だった。
(すごい……。わたしも何か手伝わないと……)
フィーがそう思って動こうとすると。
「「ヒース、お前は大人しくしていろ!」」
こっちを見てもいないのに、二人からフィーにそう声がかかった。
フィーは大人しく、まだ拘束されていた人の縄を解くことにした。
商人が雇った男たちも二人を倒そうとするが、戸の狭い場所が数の有利を邪魔する。
複数人で一気に突破を試みても、イオールもクロウも2対1程度では負けなかった。
「くっ、だめだ。突破できねぇ!」
そのとき、どんっと大きな音があたりに響いた。
「これは砲撃の音!?まさかほかの兵士たちも来てたのか!」
イオールとクロウにまだ倒されていなかった男たちはその音にびびり、逃げ腰になる。そこをイオールとクロウは一気に踏み込んだ。
扉から躍り出ると一気に、10人近くをその剣で倒してしまう。
「ひぃ、逃げろ!」
「こいつらばけもんだ!」
一目散ににげていく男たち、その体が廊下のまがりかどに達したとき、横から突き出た鉄のかたまりが彼らを吹き飛ばした。
のっしのっしと、廊下の影からオールブルがでてくる。その腕には大砲が抱えられていた。
逃がしたのもいるだろうが、屋敷の敵のかなりの人数を三人で倒してしまった。
オールブルがヒースたちのほうを向き、にかっとわらい、ぐっと親指を立てた。




