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通気口の中をすすんでいくと、下から光が漏れて見えた。
そこから下を覗いて見ると、屋敷の廊下が見える。屋敷の廊下には、何人もの人相の悪い男たちが、武器を携帯して歩き回っていた。
あきらかに金持ちの別荘と言った雰囲気ではない。
(やっぱりクロウさんの言ったとおり、ここは人攫い組織の隠れ家だったんだ……。攫われた人たちを見つけないと)
フィーは静かに通気口の中を移動していく。
もともと人が通るようには作られてない通気口の中を動くには、体の柔軟な動きが必要だった。
フィーの生来からあったらしい柔軟性と体のバネ。
それはたいちょーの訓練メニューによってさらに強化され、通気口の中を静かに素早く移動してしまえるようになっていた。
普通、狭くて暗い場所に入るのは怖いものだが、日陰者な生まれのせいか別に怖くない。しっくりくるとまで言ったら、自分が悲しくなるのでフィーは考えるのをやめておいた。
なにより、たいちょーの役に立ちたいという強い思いが、フィーを動かしていた。
フィーは屋敷の天井を誰にも気付かれることなく動き回った結果。結論をだした。
(1階にはいない……)
怪しい部屋を天井からこっそり見てまわったけど、人が閉じ込められている形跡はなかった。
フィーは器用にくるりと通気口の中で体を180度まわし、仰向けになると、したから漏れる光で見取り図を確認する。
地下室はない。
(じゃあ、2階だ)
フィーは見取り図をみて通気口が2階にあがれる位置を確認する。
そしてその場所から2階へと向かった。
ここでひとつ計算違いが起きてしまった。
実は今回はフィーはおためし的に参加させられただけだったのだ。
通気口に上手く入れないなら入れない。1階で見つけられないなら見つけられない。それでいいと思っていた。
だから、天井からは降りるなといっておいたのだ。
ロイもクロウも通気口から2階に侵入できるとは思ってなかった。
でも、フィーはできてしまった。
軽量な体を生かし、左右の壁を手と足でよじのぼり、教えられてもいないのに壁のぼりの要領で。
何より強い思いがフィーの体を動かしていた。
(たいちょーのために!)
縦穴の縁についに手をかけ2階の通気口へと顔をだしたとき、フィーの鼻がほこらしげにふんすっと鳴った。
そしてフィーが2階の探索をはじめてからしばらく。
(見つけた……)
ついにフィーは発見した。人身売買組織に捕まった人達が閉じ込められている部屋を。
フィーが覗き込んだ部屋では、10人ぐらいの女性や子どもが、手足をしばられ閉じ込められていた。
みんな一様に俯き、その表情は暗い。泣きはらしたようで、目元を赤く腫らせたものもいる。
(絶対、助けてあげるからね)
フィーはそう決心すると、見取り図にしるしをつけてもどろうとした。
そのとき、部屋の扉が開く音がして、外から二人の男が入ってきた。
ひとりは商人風の男。もう1人はその護衛らしき武装した男。
商人風の男はもしかしたら、この屋敷の主であるカンザールかもしれない。
カンザールは攫ってきたものたちを、にやついた笑みでみまわしたあと頷いた。
「なかなか器量の良い者もいる。数も10人以上だ。それなりの値段で売れるだろう」
そのとき満足げに頷く商人の後ろで小さな影が動いた。
攫われた子どもが逃げようとしたのだ。手足の縄は、自然にほどけたのか、自分でほどいたのかはわからないがかかっていなかった。
扉が開く隙を窺っていたのだろう。
この隙に逃げようとしたのだ。
(だめっ……!)
フィーは心の中で叫んだ。
武装した男の視覚には、まだ子供は映っていたのだ。
子供はあっさりと武装した男に捕まった。
男は乱暴に子どもの片腕を宙にひっぱりあげる。
「うわああああああ!」
痛みに子どもが悲鳴をあげた。
「バカが。逃げられると思ったのか。カンザールさま、こいつをどうします?」
カンザールは子どもを三秒ほどじろっと眺めると、興味なさげに言った。
「見せしめに痛めつけてやれ。死んでも構わん。男だし器量もそれほどじゃない。たいした値段では売れん」
「わかりました。へへ、死んでも悪く思うなよガキ。お前が悪いんだぜ」
武装した男はそういって、子どもへ思いっきり拳をふりあげた。
(ふざけるなっ……!)
フィーの体がかっと熱くなる。
そして反射的に動き出した。部屋に降りれる場所まで移動すると、さっとそこから飛び出す。
「なっ、なんだ!?」
「んっ……?」
いきなり何かが降ってきたことに、カンザールが驚いた声をあげる。
武装した男の死角になる位置から降りたことから、男の方の反応は遅れた。
フィーはガルージからもらった剣を鞘に収めたまま、思いっきり武装した男の方にたたきつけた。
ふらつく男、でもまだ倒れない。
(大丈夫、想定どおり!)
フィーはすぐに二撃目を振りかぶっていた。
ゴルムスとの試合で自分の非力さは思い知っていた。だから、すぐに二の太刀へつなげるように、剣の練習はしていた。
「えい!」
二撃目を受けて、男はさすがに気絶した。
「な、なにものだきさ……へぶっ!?」
そして何かしゃべっているカンザールも、思いっきり鞘にはいった剣で殴りつける。
今度は一撃で気絶した。
なんとか二人とも倒せたけど、外から大きな声がした。
「何か妙な音が聞こえたぞ!」
「攫った奴らがいる部屋だ!」
どたどたとこちらに向かう足音が聞こえる。
(まずいっ……)
フィーは急いで何人かの攫われた人の縄を切るといった。
「助けにきたんだ!お願い!手伝って!」
みんなで扉の近くにあった箪笥を動かし、扉の前においてバリケードにする。
「おい、なんだ!?」
「くそ、開かないぞ。カンザールさま!?」
外の男たちが扉を強く叩く。
「内側から何か置かれてやがる!」
「ぶちやぶれ!」
(くっ、だめだ……)
使わない部屋の中にあったためか、箪笥は中身がなくあまり重くなかった。
縄を解かれたみんなで押さえつけるけど、フィーの体は軽いし、大人の女性たちもそこまで変わらない上に、閉じ込められていたせいで体力も消耗している。
あちら側から扉を押す力はどんどんふえていく。
人数が増えているのだ。
そのとき、フィーの目にクロウから渡された笛がきらりと目にうつった。
(ごめんなさい!たいちょー!クロウさん!助けてください!)
フィーはその笛を口に含むと、思いっきり吹いた。




