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 フィーがイオールたちに連れてこられたのは、王都の郊外にあるお金持ちの屋敷みたいな場所だった。


 ここまで来たのは馬でだったが、フィーは乗馬はできなかったので、クロウの鞍の前にのせてもらった。

 ふたりとも馬術は上手だった。


 ちなみにコンラッドは来ていない。


 任務にでていくフィーを「がんばってね~」と笑顔で手を振って見送っただけだった。


(本当にあの人は何の役目についてるんだろう)


 謎がましていくばかりだ。


 屋敷のまわりには見張りみたいな人間がいた。

 屋敷を覆う林を利用し裏手に回り、見つからないような位置で馬に降りると、そこにオールブルもいた。

 器用に木の陰に大きな体を隠して、フィーたちに「やあ」っと手を上げる。

 そしてクロウとイオールから馬の手綱を預かると、どこかへ連れて行って隠してしまった。


 そしてようやくフィーはクロウから任務の説明を受ける。


「あれは商人カンザールの別荘だ。

 大陸全土にその手をひろげている人身売買組織にこいつが関与してるという話があって、あの別荘はさらってきた人たちを隠すための倉庫にしているという噂がある。

 普通に捜査していくと、あっちにも気取られて証拠を隠される恐れがある。時間が経てば、攫われた人たちも売られちまうかもしれない。

 だから直接証拠をつかんで、ちゃっちゃとやっちまいたいわけだ」

「なるほど~」


 でも、それはむずかしいのではないだろうか。とフィーは思った。

 もし人身売買に関与してるなら、外にいる以上の見張りが中にいるだろう。そんなところに騎士が潜入して気づかれずにすむとは思えない。


「そこでお前の番だ」

「僕がさらわれろってことですか?うん、構いません」


 イオールに言われて、なるほど、おとり捜査ならすぐに証拠がつかめるかもしれないっと感心した。


「ちがう」

「ちげーよ。たしかに潜入してもらうが、潜入するのは上のほうだ」

「うえ?」


 クロウの言葉にフィーは首をかしげた。


 イオール隊長たちとは離れ、クロウに連れられフィーは屋敷の裏手に近づいていった。

 木のかげに隠れるフィーたちのすぐそばに見張りが三人ほどいるが、クロウがさっと飛び出し、声もださせずに素手で気絶させてしまう。


(すごい……)


 不意打ちとはいえ、なんて強さだろう。

 徒手の技術は見習い騎士たちも習うが、教官クラスでもあそこまですごい人はみたことがない。


(やっぱりクロウさんってすごい人なんだ……)


 フィーは感動した。


 クロウに手招きされ、裏手から屋敷の門の中に入る。

 窓がなく、ちょうど死角になった場所だった。だからこそ見張りを三人もおいたのだろうが、クロウにより気絶させられてしまった。


「えっと、建築技術者から掴んだ情報だと、たしかこのあたりだったかな」


 クロウはそんなひとりごとを小声で言いながら、壁のへりに足をかけ高い位置を探っている。


 そして、「お、あったあった」と言って、ブロック状になった壁の一部をひっぱった。

 するとその部分が抜けて、外壁にちいさな穴ができる。


 それからフィーのわきをつかんでもちあげると、その壁の前にもってきた。


「どうだ?入れるか?」


 と言ってきた。

 クロウの話では通気口に繋がる穴のようで、屋敷の天井全体につながってるようだった。

 フィーはその穴に、あっさりとしゅるしゅると入ってみせる。


 それからちょっと広くなった場所――といってもかなり狭い――で器用に回転してみせると、ちょっと不満げな顔でさきほどの穴から顔を出す。


「もしかして僕ってこのために雇われました?」


 この小さな穴は、騎士隊のフィー以外のメンバーじゃ入るのは不可能だ。

 フィーを抜かせばいちばん小さいのはコンラッドだろうけど、それでも中背中肉なので入れないだろう。


「まあ、正直それもあるだろうな」


 クロウが苦笑いしながら頷く。


「まあいいですけどね。僕はどうせ戦闘はからっきしですし、必要としてくれるなら文句はないです」


 唇をとがらせながらフィーが言った。

 たしかに不満はないけど、どうせならもっとかっこいい理由が良かったというのは世の常である。


「それじゃあ、さらわれた人がいないか探して、できれば位置なんかも把握しておいてくれ。場所がわかれば助けやすいしな」


 そういって通気口の見取り図と笛みたいなのをわたされる。


「あ、それから天井からは降りるなよ。戦闘は禁止だ。まだお前には危ないからな。情報だけつかんでもどってこい。情報を掴んだら俺たちが突撃するなりなんなりする。

 もしミスってピンチになったらその笛を吹け」

「はい、わかりました」


 クロウから目的と注意を与えられると、フィーは狭い通気口にさっともぐっていってしまった。

 かなりすばやく、音もない。クロウが見える範囲から、すぐにいなくなってしまう。


 体が小さいだけでなく、柔軟性にもすぐれてないとこんなことはできない。

 猫みたいだった。


 ヒース本人は気づいてないだろうが、こんなことできるのは騎士隊全部を探してもヒース以外はいないだろう。

 ヒースの才能とすらいえるかもしれない。


「ロイの見る目は確かだってことだろうなぁ」


 姿のみえなくなった弟分の見習い騎士を見送りながら、クロウは頭をかいた。


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