27 第18騎士隊のひとたち
フィーが騎士団に入団して一ヶ月が経った。
そして今日は金曜日。
自分の所属する騎士隊で、指導を受けたり、実際に任務に参加させてもらえたりする日だ。
「おはようございます~」
「ヒースちゃんいらっしゃい。今お茶いれるね~」
挨拶をして第18騎士隊の集会所である倉庫に入ると、地味顔の青年、コンラッドがいつもどおりにお茶を入れてくれる。
今日はシナモンティーだった。
いつも歓迎してくれるのは嬉しいけど、ほかのみんなみたいに任務や訓練はないのだろうか、とフィーは思った。
フィーがここに来るときは、いつもコンラッドがいる気がする。
「本場のフェナム王国から取り寄せたんだよ。どう?おいしい?」
「はい、おいしいです」
コンラッドがいれてくれたシナモンティーは、甘い香りがしてとてもおいしかった。
そして何が楽しいのかわからないけど、そんなお茶を飲むフィーの姿を、コンラッドは反対側のテーブルに座り肘をついてニコニコと眺めている。
(本当によく分からない人だなぁ……)
捉えどころがないというか。
柔和な物腰は友達のレーミエに似ているけど、何か違う。
というか、ぜんぜん違う。
だって、レーミエはこんな内心の読めない笑顔なんてしたりしないもの。
(そういえば、この人だけ専門を聞いてない)
みんな自己紹介のとき、専門を教えてくれた――しゃべれないオールブルはクロウが教えてくれた――けど、この人だけは名前を告げただけで、何もおしえてもらえてなかった。
「コンラッドさんって何が専門なんですか?」
「ひみつ」
直球で聞いてみたけど、返ってきたのは人差し指をくちびるにたてたしぐさと、いたずらっぽいウインクだけだった。
(だめだ……、この人……)
もう、フィーはコンラッドについて追求するのは諦めた。
お茶を飲み終わったころ、入り口からイオール隊長と、クロウが入ってきた。
「おはようございます!たいちょー!それからクロウさん!」
フィーは椅子から立ち上がり、もう覚えたてでない敬礼で出迎えた。
「ヒース、今日も元気がいいな」
「はい!」
「俺はついでかよ」
「クロウさんはわりと頻繁に会えるから」
「現金だな、おい。一応、お前の面倒役を買って出てやってんだぞ」
「そうなんですか!ありがとうございます」
「素直に礼を言われるのも微妙だな……」
イオール隊長はいそがしいらしく、第18騎士隊だからといって、簡単に会えるわけではなかった。
きっと、影で日向で数多くの任務をこなしてるに違いないと、フィーは勝手に思っていた。
「世間話はそれぐらいにしておけ。オールブルを待たせてある」
確かに集会所にオールブルの姿はなかった。
とはいっても、珍しいことではない。第18騎士隊の人間は、何かしらの任務で集会所にいないことも多い。
(でも、待たせてるっていったい何をしてるんだろう……)
フィーは疑問に思ったが、たいちょーに世間話はそれぐらいにしておけと言われたから、声にはださない。
そんなフィーの前に腕を組んだイオールが立った。
フィーは何故にと首をかしげる。
「ヒース、今日はお前にも任務に参加してもらう」
「任務ですか……?!」
入隊して訓練がはじまって一ヶ月、フィーは任務に参加したことはなかった。
というか、金曜日、土曜日は、あんまり何かをしたという記憶がない。
訓練メニューは毎日こなしているけど、あとはコンラッドさんとお茶を飲んだり、クロウさんのナンパ話を聞かされたり、オールブルさんと一緒に鉢植えの手入れをしたり、パルウィックさんの弓の訓練を眺めたり、ガルージが何かを作ってるのを眺めたり。
たいちょーが来たときには、日々のことを報告して、お言葉をもらったりした。
ほかの騎士隊のみんなは、金曜日と土曜日には街の警護やパトロールなど、簡単な任務には参加させてもらっている。ちょっとうらやましく思っていた。
そんなフィーもついに任務に参加する日が来たのだ。




