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 それからのフィーは無茶することはなかった。

 倒れた次の日は言われたとおり訓練は見学し。


「お前のためにイオールが特別な訓練メニューを作ってくれたぞ」

「たいちょーが?」


 そういってクロウから渡された訓練メニューを、次の日からはもくもくとこなしはじめた。

 メニューはクロウからヒスロの手にも渡されていたらしく、フィーからわざわざ申し出る必要はなかった。

 みんなとは別行動になるため目立ってしまう。

 あの少年二人を筆頭にフィーを馬鹿にしたりからかおうとするものもいたが、フィーは気にしなかったし、ゴルムスたちがにらんでやめさせたりした。


 メニューの中でも特筆して多かったのが、ストレッチと柔軟体操だった。

 訓練メニューはフィーの体力にあわせて段階的にくまれていて、体力づくりのための無理のないランニングや、筋力トレーニング、そして柔軟や受身などの動作の練習を、フィーなりの進度にあわせてこなしていくものだったが、その中でも柔軟とストレッチは、それだけでメニューの半分を埋めるほどだった。

 なのにフィーはそのストレッチと柔軟だけは、一気に最高レベルまでできてしまった。


「あいつすげぇな……。軟体動物かよ……」

「ていうか、ちょっと気持ち悪いぞ……」


 運動場の片隅に妙な格好でごろんっと転がってる謎の物体となったフィーを、ランニングしていたゴルムスたちがかなり微妙な表情でちらりと見て、通り過ぎていった。


 そんな自分たちにいろんな意味でできないことを、苦もなくやってのけているフィーを見ているうちに、馬鹿にするものもどんどん減って、ほとんどいなくなっていった。


 夜はご飯をいっぱい食べる。


「おいしいよ!おいしいよ!」


「だから言うほどか?いやまずくはないけどさ」

「うん!おいしい!」


 お姫さまだったころは特別に食に興味があるほうでもなかったフィーだが、最近はとみにご飯がおいしかった。

 あの離宮での空腹の体験と、見習い騎士になってからの生きているという実感が、フィーに食の喜びをおしえてしまったのかもしれない。


 とにかく難しい話はさておいて、フィーはご飯がおいしかった。

 しかし、今日は一皿たべたところで、とめてしまう。


「あれ?もういいの?」


 レーミエが聞いた。

 いつもなら、ここからもう一杯ぐらいおかわりするのがいつものフィーだった。


「うん、クロウさんから体型はなるべく維持しろって言われたから」


 本当はもっと食べたいけど、たいちょーたちのためなら我慢できる。


「そうなんだ」

「やっぱりお前の育成方針は変わってるなぁ」


 普通はたくさん食べて大きくなれというのが常なのだ。

 いくつか例外はあるものの、基本的に体格が大きい方がパワーが増して強い。ゴルムスなどは好例だろう。


「そうかな?」

「そうだよ」


 スラッドは、自分が食べているシチューをうらやましそうに指をくわえてみているヒースを、見ないふりしながら頷いた。


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