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(情けないなぁ……。次はもっとがんばらないと……)
フィーは救護室のベッドに寝かされ、天井をみあげながら思っていた。
「あーあ。まだ無理してやろうって顔してるぞ、こいつ」
いつのまにかクロウが近くにいた。
「あれ?クロウさん。わっ、なにするんですか!?」
クロウはフィーに近づくと、そのままお姫さま抱っこで抱き上げる。
そして戸惑うフィーの顔を見ていたずらっぽくわらった。
「馬鹿な隊員を説教場所まで連行だ。イオール隊長のきつーい説教が待ってるぞ」
「たいちょーが?」
説教……。何かわるいことしただろうか。
あ、ランニングぐらいで倒れたことか。
確かにランニングぐらいで倒れるなんて情けなくて、たいちょーもお怒りかもしれない。
フィーはそんなことを思う。
そんなフィーの鼻をクロウがでこぴんした。
「いだっ」
「ばーか。そっちじゃねぇよ」
「まだ何もいってませんけど……」
「顔みりゃわかるの。お前はわかりやすいからな」
どうやら違ったらしい。
じゃあ、なぜたいちょーは怒ってるのだろう。
フィーは首をかしげた。
「お前軽いなぁ。女の子みたいだぞ」
「ほ、ほっといてください……」
クロウに抱っこされたまま連行されると、イオールが王宮の裏庭の人目のつかない場所でたっていた。
「来たか……」
イオールはフィーが来たのをみると静かな口調でそういった。
フィーはあらかじめ用意されていた椅子に、クロウによって座らされた。
イオールは腰には剣を差し、その手には剣の柄を握っている。
(え……?斬り捨てごめん……?そこまで怒らせちゃったの……!?)
イオールの真剣な表情に、フィーはそんなマヌケなことをついつい思ってしまった。
さすがにイオールもフィーを切り捨てにきたわけではない。当たり前だが……。
イオールのまわりには、木製の人形が5体おかれていた。
「ヒース、見ていろ」
イオールはそういって剣を抜いた。
銀の光が一瞬目にうつったと思ったら、イオールのまわりにあった5体の木製の人形が、その一太刀で切り倒されていた。
フィーの目には、太刀筋がまったく見えなかった。
「どうだ、ヒース」
「す、すごいです……たいちょー」
本当にすごかった。
剣の速さもさることながら、その太刀筋の正確さもすごかった。すこしばらばらの位置においてあった木製の人形なのに、全部、同じ位置を正確に斬っている。
(こんなにすごい剣技……、デーマンじゃ見たことないよ……)
フィーはイオールの振るった剣捌きに圧倒されていた。
「ヒース、お前はこれを一週間で真似できると思うか……?」
「む、むりです……」
そんなことできるはずなかった。
フィーが一生かかっても、身につけられるかどうかという剣技なんだから。
「そうだろう。俺がこの剣技を身につけるのには18年かかった」
「18年……」
(イオールたいちょーほどの人でも、それだけの時間をかかってようやく身につけたのか……)
フィーはそんなすごいものを見せてもらえたことに気づき、唾を飲んだ。
「それはお前のまわりの見習い騎士たちも同じだ。5年間、10年間かかって今の力を身につけてきている」
(そうなんだ。じゃあわたしはもっとがんばらないと……)
「ちがう」
フィーが口にださずに思ったことを、イオールは首をふって否定した。
「言っただろう。18年かけたと。
もし、一朝一夕で力が身に付くなら、誰も5年、10年と努力したりはしない。もし、本当にそう思うなら、それはまわりの人間の力を軽んじているということだ。
俺はお前にまわりの人間から学べと言ったはずだ。それはまわりの人間の力を尊敬し、尊重するということでもある」
そう言われて、フィーもはっと気づく。
「あえて言おう、ヒース。まわりの人間に追いつこうなどと思うな。
5年かけて今のあいつらに追いつけ。10年かけて5年後のあいつらに追いつけ。
あいつらはそれだけの努力をしてきたのだ。そしてお前もいまから、騎士として長い年月をかけて、それをしていくのだろう?」
「は、はい……!」
そうだ。自分もずっと騎士を続けていくんだ……。
追いつくことはできなくても、長い年月をかけて、彼らのあとを一歩づつ追っていくことはできる。
「もし無理を続けて大きな怪我をすれば、それだけ努力できる日数が減るぞ。それは良いことか?」
「良くないことです!たいちょー!」
「そうだ。無理をすれば努力できる日数が減る。それはよくないことだ。わかったか、ヒース」
「はい、たいちょー!もう無理はしません!」
フィーは椅子の上で、おぼえたての敬礼をした。
その様子を、クロウが苦笑いしながら見守る。
ヒースの様子に、イオールは頷いた。
「では、俺はいく。忙しいのでな」
「はい!ありがとうございました!」
フィーはそんなイオールの背中を、ビシッと背筋を立てて見送った。
その言葉を胸に刻み込みながら。
あのすごい剣術と、フィーのおごりを見抜き本当に必要だったものを諭してくれる言葉。
(やっぱりたいちょーはすごいひとだ!)
フィーは第18隊の騎士になれて、イオール隊長の部下になれて、本当によかったとあらためておもった。
さすロイ
なお、そもそもの元凶の模様。
※2015/11/11
フィーミルくんの名前をレーミエに変更しました。
あらためてレーミエくんをよろしくお願いします。
わたしもイオールの言動には、自分で書いておきながら突っ込みたいときがあって、あとがきで突っ込んだりしてしまうのですが、うざかったら感想欄でいってください。
さすがにやめます。




