204.
ヒースによって仕掛けられた罠と情報の撹乱によって、かなりの数を減らしてしまった見習い騎士たち。
しかし、ヒースこそが今回の事態の元凶であるという情報を共有できた少年たちの中には、まだしぶとく生き残ってるものたちもいた。このサバイバル演習ではほぼなんでもありなルール上、一時的に同盟を組むのもありだ。ただ、最後には戦わなければならないので裏切りもちゃんと警戒しなければならない。
そして仕掛けられた大量の罠をどうにしかしてから戦いを始めたいという思いから、見習い騎士たちは戦うより協力してこの事態を打破するために動く者が多かった。
いろいろあって数が減り、六人ぐらいの集団になってしまった彼らもその一団だった。
「くそっ、ヒースのやつはどこだ……!」
「捕まえたら俺たちをこんなに酷い目に合わせたことを後悔させてやる」
「おう、ボッコボッコだ!」
それぞれヒースを捕まえて、罠の場所を吐かせて、戦いを有利に進めるのが目的だったはずの彼らだが、厳しいこれまでの道のりに本来の目的を見失いかけてた。
森の中を罠を警戒しながら練り歩く彼ら、その背後にいた少年が声をあげた。
「あっ」
「どうした!?」
「見えたぞ、金色の髪だ」
ヒースを探すとき、みんなが目印にしているのがその金色の髪だった。
貴族も多い騎士たちの中でも、あの金色の髪はそこそこ珍しい。
「念の為の確認だが、他の奴じゃないだろうな。特にルーカだったら最悪だぞ」
ルーカが生き残っているという情報は、すでに見習い騎士たちの間でも伝わっていた。
『雑魚の相手はしたくないから勝手に潰しあってくれたまえ』といって、積極的に攻撃は仕掛けてこないが、絡まれると厄介な相手たちであった。
「遠目で見ただけだけど、かなり小柄に見えた」
「よし、間違いないな。あっちか?」
「ああ」
少年たちはヒースの姿が見えたという方向に向かう。
罠を警戒しながらなので遅い歩みだが、それでも確実に一歩ずつ進んでいく。
「あれは! 間違いなくヒースだ!」
少年の指差す方向、小柄な金色の髪の少年が洞窟の中に入っていくのが見えた。
「中に入っていくぞ!」
「ゴルムスはいない。あいつ一人だった!」
「よし、チャンスだ! 捕まえるぞ!」
少年たちは武器を構え、ヒースを追いかけるために洞窟の中に入っていく。
「暗くて狭いな」
洞窟はちょうど少年一人から二人分ぐらいの道幅だった。
明かりも持ってきてないので暗い。
「不意うちされたりしないかな……」
「大丈夫だ。今のところ一本道だし、例え不意をつかれて一人やられても、ヒースなら俺たち五人がいれば勝てる」
「えっ、それって俺はやばくない……?」
先頭の少年が嫌な顔をしたが、とりあえず大丈夫だろうということで少年たちは進軍を続けた。
「結構、深いな……」
少年たちの目が少し慣れて、薄暗闇を見通せるようになってきたころ。
洞窟の音から、ゴロゴロと何かを転がすような音が響いてきた。
「ん? 何の音だ……?」
少年たちが一旦立ち止まると、洞窟の奥の方から何かがこちらにやってくるのが見えた。
音はだんだん大きさと激しさを増していっている。
最初に少年たちが判別できたのは、大きな盾だった。木製だが戦争で使うような、少年一人ぐらいならまるっと姿を隠せる大きな盾。その盾は下に台車が備え付けられてて、運搬と加速を担っている。さらに盾の周囲からは、木製のパイクが四本も突き出ていて、少年たちをしっかり逃げ場なく狙っていた。
その盾と槍つきの台車というべきものが、こちらへだんだんと加速しながら向かってきていたのだ。
盾の隙間から覗く顔は、彼らがさっきまで追いかけていた少年、ヒースだった。
「げっ、まずいぞ! あんなのがきたら避けられない!」
「止められないのか? ヒースは小柄だからうまくやれば……」
「槍があるんだよ! しかもあの重い音、絶対重りかなんか積んでるぞ!」
「くそ、一旦逃げるか!」
迫ってくる盾付き台車から、今度は洞窟を逆方向に走り出す少年たち。
「よし、出口だ!」
なんとか台車に追いつかれる前に、出口を目にした少年たちだが、そこに更なる絶望が降りかかる。
さっきまで何もなかった出口に、突然壁が出現したのだ。
いや、少年が一瞬壁だと思ったのは、壁ほどに大きな少年だった。
北の宿舎で一番の体格とパワーを持つゴルムスである。木剣を構え、迫力のある笑顔で、少年たちに告げた。
「よう、お前ら。この洞窟を出られるのは、俺と戦って勝てたらだぜ?」
少年たちはザザザと急ブレーキをかける。
もともと、ゴルムス相手には十人がかりで戦ってなんとかするというプランだったのである。この狭い洞窟では勝ち目がない。
「おい、どうした!?」
まだ状況を把握してない後ろの方の少年が、前の少年に尋ねる。
「入り口にゴルムスがいる!」
「なにぃ!?」
「お前たちゴルムスを倒せるか!?」
「無理だ! この状況じゃ!」
「お前たちこそ、ヒースを止められないか!?」
「できるものならやってる! もう加速しきってて無理だ!」
ゴロゴロという音が、ゴゴゴゴという連続した音になって、洞窟の奥から迫ってきていた。
「つまり……」
「詰んだ……」
少年たちが呟いた瞬間、加速した盾付き台車が少年たちを弾き飛ばした。
「ぎゃぁあああああああああ!」
洞窟の外に跳ね飛ばされる少年たちをゴルムスがヒョイっと避ける。
折り重なりサバイバル演習の屍とかした少年たちを見て、ゴルムスはやれやれという表情でため息をついた。
「ふう、雑魚はあらかた片付け終わったな」
「うん、これぐらい減らせたならクーイヌたちとの勝負を邪魔されないね」
洞窟の中から、ニコニコとしたフィーが出てきた。
「しかし、ここまで徹底的にやるとは驚いたぜ」
別にヒースと組むのに最初から不満があったわけではないし、自分の勉強にもなると思っていた。それにヒースがこういう戦いに向いていることも知っていた。しかし、ここまで念入りに準備をして、積極的に脱落者を増やしていく戦法を取るとは思わなかった。
「当たり前だよ、これぐらいしないとクーイヌたちには勝てないんだもん」
フィーはそういって拳に手を打ち付けた。
いつもの呑気な表情とは違う、気合のはいった仕草だ。
それを見て、ゴルムスは自分も同じ気持ちだったということに気づく。
「ああ、そうだな。あいつらに勝つには全力を超えてやらねえとだな」
「うん」
そんな二人の背後から、拍手が聞こえてきた。
「はっはっは、見事な手際だったよ。おかげで凡人どもを相手にする手間が避けた」
「ああ、楽させてもらって感謝したいところだ」
リジルとルーカだった。
余裕な表情ながら、二人は油断ない仕草で木剣をすぐさま構える。
「でも、感謝は君たちを倒させてもらってからにしようかな。リベンジマッチだよ」
ゴルムスとフィーも真剣な表情で目を合わせた。
「その前にあいつらを倒さねえとだな」
「うん」
サバイバル演習じゃないってツッコミは許してほしい。もう自分でもそこらへんの整合性保ちながら書ける自信ないし修正する気力もないです。
あと気づいたんですけど、私恋愛もの書きたいだけで恋愛書けないって気づいた……。そのうちがんばって書くかもしれないけど期待しないでください。
今の私にできるのは頭の中にずっと置いてあった消費期限切れのプロットを形にしてお出しするだけです。




