201.
「散開!」
合図と共に、見習い騎士が山へ向かって散らばっていく。
ここから、サバイバル演習が始まる。
決められたフィールド内ならどんな武器を使ってもいい、隠れてもいい。できるだけ長く生き延びた人間ほど良い評価を貰える。
ただし、合図があるまでは他のチームに攻撃を仕掛けるのは禁止されていた。
最初はクーイヌとパーシルチームの登場に萎えていた少年たちも、はじまるとやる気を取り戻したようだ。
「よし、できるだけ長く生き残るぞ」
「おう!」
そういって鬱蒼と茂る木々の中に足を踏み入れた少年たちだが。
「ぎゃぁあああああああ!」
悲鳴が上がった。
声がした方向をみると、見習い騎士が二人ロープで逆さ吊りになっていた。
「何があったんだ!?」
「まだ攻撃は禁止のはずじゃ!?」
そちらを驚いた表情で見ながら走る少年の一団。
その先頭の二人は、足元にあったロープに気づかず、そのまま足を引っ掛ける。
ピンっという音と共に、引っ掛けてあったロープが外れ、しなった木の板が少年二人の頭を打ちつけた。
「うぶっ!」
「うげぇ!!」
後続の少年たちは真っ青な顔で立ち止まる。
「罠だ! 森に罠が仕掛けられてるぞ!」
気がつくと、そこかしこで悲鳴が聞こえてくる。
見回すと、別の場所でも罠に引っかかり、倒れた少年たちの姿が見えた。
「どれだけの量があるんだ……」
「サバイバル演習てこんな仕掛けあったっけ」
「先輩からは聞いてないぞ!」
予想外の事態にみんなが固まる中、少年の一人が罠に近づいて、何かを見聞する。
「こ、これは……ヒースがよく作っている罠だ!」
北の宿舎に所属する少年だった。
「ヒースってあいつか!?」
「あの東北対抗剣技試合で暴れた!」
東の宿舎の少年たちは反応が早い。
「ヒースって誰だ?」
「この罠を仕掛けたのはそいつだっていうのか?」
一方、あまり関わりのない西の宿舎、南の宿舎の少年たちの反応は鈍かった。
しかし、それぞれにラグはあったもののようやく事態を把握する少年たち。
そうしてる間にも、森の中では悲鳴と罠が作動する音が響きまくっていた。
「しかし、これは……」
「尋常な量じゃないぞ!」
罠は一つ、二つではない。それこそ無数に。
すでにこの場所は罠の森といっていいくらいに仕掛けてあるようだった。
北の宿舎の少年たちの頭によぎる。
自分達が張り切って剣の訓練やら体力作りやらをしてる横で、トンテンカンテンと何かを作ってはどこかに運んでいたヒースとゴルムスの姿が。
しかも、それをやっていたのは1ヶ月前からだ。
サバイバル演習の会場が少年たちに知らされたのが二週間前。その前より、どうやったのか情報を掴んで、この場所に罠を仕掛けまくっていたことになる。
「いいんですか!? こんなの! 攻撃を仕掛けるのは禁止でしょう?」
罠で気絶した少年たちを運ぶ、先輩の騎士に見習い騎士は食ってかかる。
騎士は額から汗を垂らし、顔を逸らしながら少年たちに答える。
「攻撃は仕掛けてないからな。ルール違反ではない……」
騎士たちもこれはどうかと思っているのか、気まずそうな表情だった。
「でも、この罠の量はおかしい! どう考えても事前に運び込んでますよ!」
「一応、実際の戦闘に近い形で行われる訓練だからな。事前準備をするのは禁止されていない。ここまでやった人間ははじめてだが……」
「あいつら1ヶ月前から動いてましたよ! 情報がバレていたんです! これは絶対おかしいですよ!」
少年たちは渾身の訴えを行う。
だが、しかし……。
「すまない……運営のリハーサルや会場設営は1ヶ月前から動いていたんだ……。そのときに尾行されて会場もバレた……」
そう謝る騎士たち。
しかし、謝罪するということは、つまり少年たちの期待するような判定は出てこないということになる。
「じゃあ、1ヶ月間、あいつらがこの罠の山を仕掛けていくのを黙って見ていたってことですかぁ!?」
その通りだった。
自分達がサバイバル演習の会場設営をしている横では、少年二人が罠を持ち込んでは、罠の会場を設営していたのだ。この1ヶ月ずっと。
騎士たちはダラダラと汗を流しながら、少年たちに告げた。
「それらの行為は今回の訓練では全て残念ながら合法だ……。それでは君たちの健闘を祈っている」
そういうと、そそくさと気絶した少年だけを回収して去っていった。
抗議虚しく罠だらけの山に取り残される少年たち。
いまだ悲鳴がこだまするサバイバル演習会場。
「ヒースだ! ヒースを捕まえろ!」
「あいつに罠の場所を吐かせるんだ!」
生き残った少年たちは一致団結することになった。




