200.サバイバル演習
サバイバル演習の本番がやってきた。
見習い騎士たちは王都の近くの山に集合していた。
東北対抗剣技試合とは違い、北の宿舎、東の宿舎、南の宿舎、西の宿舎、全ての寮の見習い騎士たちが揃っている。
この山がサバイバル演習の舞台である。
サバイバル演習は二人一組で行われる。
この山で全員で戦い、最後まで残ったものが勝ちというシンプルなルールだ。
剣技試合とは違い、ほとんどルールは無用。
本物の毒じゃなければ毒霧をやったっていいし、パンチやキックだっていい。武器も剣だけに限らない。
なので木製の槍や鏃のついてない弓矢を用意している見習い騎士たちもいる。
「ふっふっふ、ついに俺の棒術を見せるときがきたか。剣はだめだが、棒術なら見習い騎士でも俺の右隣に出るものは少ない」
そんな感じで、普段は見せられない特技を見せようと張り切ってる者もいた。
「なあ、誰が優勝すると思う?」
「そりゃ、なあ……あそこを見ればわかるだろ……」
「クーイヌとパーシルのチームか……」
しかし、半分ぐらいの見習い騎士はどこか覇気がなかった。
それもそのはず、見習い騎士の中でも最強と噂されるクーイヌと、二番目に強いと言われているパーシルがチームを組んでしまっているからだ。しかも、戦闘力最強と頭脳最強というバランスまで取れてしまっている。このチームに勝てるビジョンが浮かばない者たちが大半だった。
「いやいや、でもヤラレルとマッケルのチームも負けてないぞ!」
そう熱く語るのは、西の宿舎の少年だった。
ヤラレルとマッケルは西の宿舎の有力な見習い騎士だった。その剣の腕は、クーイヌやパーシルにも劣らないという噂である。
「リジルとルーカもなんだかんだいって強敵だぞ」
東の宿舎の自称天才のリジルと自称クロウの後継者ルーカ。
人格面で多大な問題はあれど、その実力は皆が認めるところだった。
クーイヌとパーシルチームほどではないものの、二人が組んでいるのは間違いなく脅威であり、今回の優勝候補をあげるなら必ずその枠にあがってくるチームである。
「やれやれ、みんなが僕達のことを噂しているよ」
リジルがおかっぱの髪をかきあげ、ふふっと余裕の笑みを浮かべる。
「はっっはっは、優勝の可能性のない凡人たちは、誰が勝つか話すぐらいしか楽しみがないのだろうね」
ルーカも相変わらずの嫌味な発言を周囲に聞こえる音量で垂れ流す。
ある意味、安定感のある二人だった。
「ぐぅ、勝てないのは百も承知だけど、こいつらにはやられたくない……」
「わかる……わかるよ……やられるなら、クーイヌチームにやられたい……」
「どっちにしろ、三つのチームには当たっても勝ち目はないからな。できるだけ長く生き残ることを考えよう」
「そうだな……できるだけあいつらとの戦いは避けて……」
「どうせ優勝はあいつらのどれかだしな……」
周囲の見習い騎士たちはとっくに勝利を諦めて、情けない言葉を漏らすだけだった。
そんな中、一人、自信満々な声が響き渡る。
「ふっふっふ、みんな僕達のチームのことを忘れてないかな?」
金髪の小柄な、女の子みたいに可愛らしい顔立ちの見習い騎士だった。
「誰だ、あいつ」
「いや、知らない」
「知らないな、誰だろう」
北の宿舎の見習い騎士、ヒースことフィー。
一部では悪名轟く彼女だったが、宣言した位置が南と西の宿舎が多めだったせいか、その顔を知らない人ばっかりだった。
「ヒースだよ! 僕は北の宿舎の見習い騎士ヒース!」
かっこいい登場に失敗したフィーは、怒って地面を踏み鳴らした。
「ヒース……? そういえば聞いたことがあるぞ……!」
名前を名乗ると、ようやくその名に聞き覚えがある者がでてきた。
フィーの顔がパァっと輝く。
「噂によるとヤバいやつだって。でも、そんなに強くはないらしい」
「強くないのにヤバいのか……。それはヤバいな」
「まあでも強くはないらしいから、このサバイバル演習においてはヤバくもないはずだ」
「強くもなくヤバくもないとなると、特にヤバくはないな」
「そんな強くもヤバくもない奴が何を言いに来たんだ……?」
しかし、返ってきたのは相変わらず微妙な反応だった。
その反応にフィーは一瞬むっとした表情をしたが、冷静さを取り戻し、指を突きつけて宣言する。
「言っとくけど、今回優勝するのはクーイヌとパーシルじゃなくて僕たちだからね」
「僕たち……? あっ、そういえば噂ではヒースはゴルムスと組んだって話だったな」
「ゴルムス……? 確かにあいつは強いけど、こんなに小さなヤツと組んでクーイヌたちに勝てるわけないだろう」
「おやおや、あいつもメンバー選択をミスったようだな」
見習い騎士の反応は、フィーの言葉を小馬鹿にしたものだった。
でも、もうフィーは怒らない。冷たい瞳で、彼らを見下すと。
「ふん、最初っから諦めてる君らは、僕たちが優勝するところを眺めてるといいよ」
そういって去っていった。
そんな小柄な見習い騎士を、少年たちは呆然と見送る。
「な、なんだ……あいつ……」
「放っておこう。強くもヤバくもないやつだし」
しかし、サバイバル演習がはじまって十分後、そいつが一番ヤバいやつだったと彼らは思い知るのだった。
今回から言い訳は活動報告にあげるスタイルにします。




