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ゲリュスは馬を準備させながら、逃げた見習い騎士たちの追撃の指示をだしていく。
「しかし、ゲリュスさま、逃げた全員を捕らえるのは難しいのでは?」
そんな中、副官である男がゲリュスに指摘する。
今回の作戦は見習い騎士たちを全員捕らえて連れ帰り、村人は処分し、目撃者は全部消すはずの作戦だった。
しかし、いくらこちらが数が多いとはいえ、逃げた21人全員を50人規模で全員捕らえるのは難しい。
その指摘に対して、ゲリュスはあっさり頷く。
「まあ、そうだろうなぁ」
「えっ……?」
副官はてっきり、全員を捕らえる策があると思ったのだ。
しかし、ゲリュスはどこか現実感の乏しい薄ら笑いを浮かべて言う。
「仕方ねぇだろ、逃げちまったものは。失敗は失敗だ。そこは割り切っていくしかねぇ。あとはもう、俺たちがどれだけ楽しむか、それしかねぇだろ? 一匹でも多く生意気な見習い騎士のガキども捕まえる。これが今からの俺たちの目標ってやつよ」
「楽しむ……」
正直、副官はその言葉を理解できなかった。
村人だってあらかじめ作戦が決められていたからやったが、気分がいいものではなかった。このそのもの作戦だって、わざわざこんなことやる意味が見出せない。
金を与えられ、訓練を受け、ようやく実戦投入されたと思ったら、こんな仕事だった。
「そうさ、お前たちも楽しめよ。自分に輝かしい未来があると思ってる見習い騎士のガキどもが、捕まって俺たちの奴隷に落とされ、抵抗するバカは死んでいくんだぜ。ひっひっひ、楽しいよなぁ。なぁ、楽しくて仕方ねぇだろ」
そしてこの部隊のリーダーであるゲリュスは、雇い主側の人間だった。
副官とはいえ、立場が違う……。
「は、はい……」
金をもらってる以上、この男の言うことを聞いて、動くしかなかった。
***
フィーたちはわざと相手に見えるように、ちらっと森の陰に姿を見せた。
数が多い相手だ。用意周到に作戦を練られるとまずい。特に東の宿舎の二人と、コニャックたちが合流するまでは時間を稼がなければならない。
「へへ、バカなガキどもめ。俺たちと戦う気か?」
それを見つけた瞬間、ゲリュスの顔に笑みが灯る。
ゲリュスの指示で、兵士たちがフィーたちを追いかけるように動き出す。訓練を受けているせいか速い。軽装のフィーたちとあまり変わらない速さでせまってくる。
数が数だけに、圧迫感がすごかった。
フィーたちは数がばれないように木々である程度隠れる場所を移動しながら、兵士たちと一定の距離をとるように移動していった。
もちろん、あくまで森の一本道を押さえるように移動する。それは馬を通さないという当初の目的のためもあるが、相手への誘いでもあった。
「おい、騎兵で先行して回り込め」
狙い通り、馬にのった兵士たちにゲリュスからの指示が下る。
フィーたちにその指示は聞こえないが、ハイラルが馬の足音を感じ取った。
「来るぞ!」
「うん……!」
フィーたちにも聞こえてくる。こちらに走ってくる、馬の駆け足の音が。
ここが作戦の要だ。フィーたちの顔に緊張が走る。
連なる足音が、自分たちに迫ったとき、フィーは叫んだ。
「クーイヌ! スラッド! お願い!」
相手に見えるように動いていたのは、フィー、ハイラル、レーミエの三人だけだった。
クーイヌ、スラッドには待ち伏せしてもらっていた。
道を勢いよく駆ける騎馬たちの進路の先に、いきなりロープが出現する。片方は木に縛り付けておいた。そしてもう片方を、クーイヌとスラッドが持っている。
「なにっ!?」
「うわぁっ!」
勢いを殺しきれず、先頭の馬がそれに引っかかる。
芋ずる式に、何頭かの馬がこけて、兵士たちが馬から落馬していく。
正直、この作戦は賭けだった。
騎兵を使わず、歩兵だけで追い詰められると、森に仕掛けたロープが使えなくなる。何本かロープは準備してたけど、うまく行ってくれたのは、敵が無警戒に誘いにのってくれたからだろう。
でも、うまくいってくれたのだから、言うことはない。
前方がふさがれ、後方の馬と兵士たちもたたらを踏む。
「今だ!」
それを逃さず、フィーたちは弓を打つ。
足止めされた馬たちに、矢が刺さっていく。動物に罪はないが、そんなことも言ってられない。森の中から、次々に矢を打って、馬を落としていく。
でも、所詮は弓は3人分しかない。全部落とすにはとてもたりない。
しかし、フィーは作戦前のハイラルの言葉を思い出していた。
「馬は高価な生き物だ。それはたぶん相手にとっても例外じゃない。50人全員の馬を用意できてないのは、相手にとっても貴重なものだからだろう。なら全部落とす必要はない」
ハイラルは断言した。
「恐らく半分落とせば、相手は馬をさげるはずだ」
フィーたちは歩兵に距離をつめられながらも、必死で弓を打つ。
やがて馬が身をひるがえし下がっていった。
「やった!」
「うん!」
レーミエが叫ぶ。馬を止めるのは成功したみたいだった。
ゲリュスは馬を下げさせたあと、怒り心頭の顔でいった。
「ちっ、あのクソガキども。面倒な動きをしやがって、馬は高けぇつーのに……。おいっ、馬は下りて徒歩で追い詰めるぞ。激しく抵抗するなら殺せ……!」
戻ってきた兵士たちは馬を降り、フィーたちに馬を転ばされた兵士たちも、無事なものが起き上がって徒歩でフィーたちを追い始める。何人かは落馬で動けなくできたとはいえ、その数はかなり多かった。
「ヒース!」
「大丈夫か?」
ロープを張ってもらったクーイヌとスラッドが、フィーたちに合流する。
兵士たちとは距離がつまっていた。ここからが正念場だった。
すいません、匹、頭の修正はまた後日させていただきます。
お恥ずかしい間違えを。




