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リーンベルクの砦にたどり着いた翌日の早朝。
フィーは二人部屋のベッドで起きた。
「おはよう~……クーイヌ……」
「お、おはよう」
まだ眠い。
クーイヌはとっくに起きていたようで、もう着替えもすませていた。クーイヌは体温が高いせいか、寝起きがいいのだ。ちょっとうらやましい。
フィーも後れを取らないようにと、寝ぼけまなこで、ベッドの上で服を脱いで着替えはじめる。
背中のほうで、何やらガタンッと大きな音がした。
でも、クーイヌがいれば大丈夫だろうということで、フィーは気にせず着替えを続けた。
見習い騎士の制服に袖を通し、ズボンをはいたところで、ようやく頭もはっきりしてくる。
「ん~~~、いい朝だね」
窓の外の空気が澄んだ山なみを見て、ひとつ背伸びする。
備え付けの棚に置いていた剣を取ると、ベルトと一緒につける。普段の木剣とは違う、本物の剣。
クーイヌの方を見ると。クーイヌもしっかりと帯刀していた。
それが普段の練習とは違う、実戦なのだと教えてくれる。
「それじゃ、行こっか」
「……うん」
クーイヌに声をかけ、一緒に部屋をでる。
石造りの廊下を歩いていると、スラッドとレーミエと顔を合わせた。
「よっ、ヒース、クーイヌ」
「二人ともおはよう」
スラッドが元気に手を上げ挨拶する。彼はいつも通りな感じだ。
フィーは、スラッドに続くようにフィーたちへとあいさつしたレーミエの顔をじっと見た。
「ど、どうしたの……?」
レーミエが戸惑って身を引く。
「くまできてるけど大丈夫?」
レーミエの顔にはちょっとだけくまができていた。
「えへへ、実はなかなか寝付けなくて……。」
緊張したせいか、枕が変わったせいか、寝付けなかったらしい。
繊細な気質のレーミエらしい。
4人一緒に、昨晩指示されていた集合場所へと向かう。
時間的には朝6時ぐらいの時間帯だ。
着替えだけしかしてないとはいえ、結構はやくに起きたことになる。
「おはよう、ヒースくん、クーイヌくん、スラッドくん、レーミエくん」
途中、ジョンさんと会った。
「もう、全員の名前を覚えてくれたんですか?」
昨日、少し話しただけなのに、とフィーたちは驚く。
「君たちを見守るように、兵士長から任されたからね。それくらいは覚えるよ」
ジョンは少年たちのやや大げさな驚いた視線に、ちょっと照れくさそうな顔で笑う。
「朝ごはんはまだだよね。集合場所に着いたらサンドイッチとスープが配られてるから、もらって食べるといいよ。それじゃあ、寝坊している子がいないか僕は様子を見てくるから」
「はい」
ジョンは笑顔で手を振って、フィーたちの前から去っていった。
「いい人だね」
「そうだな。指導を担当してくれるのが、あの人で良かったよ。怖い人はやっぱ嫌だもんな」
レーミエの言葉にスラッドが同意する。
集合場所の広場まで来ると、兵士の人たちがたくさんいた。
見習い騎士と同じように早起きしているのだ。
広場の一角には、机が置かれ、そこでサンドイッチとスープが配られていた。
まだ集合時間にはなってないので、兵士の人たちも思い思いの場所で、仲間と雑談しながら食べている。
フィーたちも机の前まで行き、サンドイッチとスープを受け取る。
「おお、遠征訓練を受けに来た子達か。ちゃんと食べてがんばれよ」
給仕を担当しているのも兵士の人たちらしい。完全に男所帯という感じだ。
「ありがとうございます!」
フィーたちはお礼を言って、サンドイッチを受け取ると、空いているスペースを見つけて食べ始める。保存性を高めるためか、固めのパンだったけど、スープと一緒にたべると美味しかった。




