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171.遠征演習

前回までのあらすじ

 デーマンの王女から、妹のおまけという形で、オーストルの側妃になったフィー。

 冷遇されるというより、もう完全に物置に放置といった感じの扱いを受けたフィーは、後宮をでて見習い騎士として新しい人生を送ってやると決意するのだった。

 ヒースと名乗り第18騎士隊に入り、北の宿舎ではゴルムス、クーイヌなんかの友達もでき、東の宿舎との剣技試合に勝ったり、順調に見習い騎士生活を送るフィー。

 妹フィールの命を狙う輩にいきなり襲われたりもしたけど、それなりに元気です。

 そんなこんなで次の大きなイベント、遠征演習が迫っているのでした。

 しばらく降り続いた雨が止んだ。

 見上げる空には、綺麗な青空が見えている。


「わぁー、きれいに晴れたねー」

「うん」


 隣ではクーイヌが同じように空を見上げている。

 ここしばらく雨が降っていたせいで、フィーはクーイヌの部屋に入り浸りだった。そのせいか、ゴルムスやスラッド、レーミエなど他の見習い騎士たちも遊びにきて、たまり場みたいになってしまっていたが、クーイヌも楽しそうだったのでまあそれはそれでよし。


 今日は休日の正午前。

 部屋は二人っきりで、雨の上がった空を見ていた。


「そういえばもうすぐ遠征演習だね」

「うん」


 しばらくは外にでれなかったせいで、授業とせいぜい柔軟や屋内でできるトレーニングだけの日々が続いていた。

 そうして気付けば、もうすぐ遠征演習の日である。


 遠征演習は見習い騎士たちがいくつかの砦に派遣されて、実際に兵士や騎士たちのやる仕事を体験してみる演習だ。

 派遣される班は、いろんな宿舎の見習いたちのごちゃまぜ構成で18人ほど。

 それも、もう決まっていた。


 フィーの班にはクーイヌ、レーミエ、スラッドがいる。

 残念ながら、ギース、ゴルムスは別の班だ。


「一緒の班になれて良かったね」

「うん」


 そう言ってクーイヌに顔を向け微笑むフィーに、クーイヌも「うん」と頷く。

 フィーは班の希望にクーイヌと一緒にと書いたのだった。クーイヌの方は言わずもがな。


 クーイヌの場合、願いが叶って純粋に嬉しそうだった。


 一方、フィーの場合、クーイヌがいれば班行動でもあまり不自由しないという打算が少々、または多分に含まれていた。

 遠征演習は集団で行動するので、着替えや水浴びのときに誰か見張りをしてくれる人がいれば言うことが無いのだ。

 もちろんクーイヌにしか頼めない。クーイヌに頼むつもりだ。クーイヌほど頼れる人間はいない。

 そういうことを考えると我ながら見習い騎士になるのはずさんな計画だったなぁとフィーも思う。


 でも大丈夫。クーイヌがいればだいたい大丈夫。


「いろいろ準備もしなきゃいけないし、午後は買い物にいこっか」

「うん」


 まずは買い物にいくことにしたフィーとクーイヌだった。


 ちなみに一緒の班になれたことで、上機嫌で「うん」と頷くだけのクーイヌだが、まだ上記の頼み事は知らされてない。だってきっと素直に「うん」と頷いてくれるとフィーは思ってるからだ。



***



 遠出するということで、買わなきゃいけないものはいろいろある。

 着替えに薬類、石鹸やタオル、それからおかしまで。なんだか遠足気分だが、剣の手入れも忘れてない。


 まずは騎士たるもの剣の手入れをしなきゃいけない。


 遠征演習では久しぶりに本物の剣を帯刀する。そう考えるとちょっと緊張するかもしれない。


「ガルージさん、よろしくお願いします」


 そういってフィーは、入隊したときにもらった剣をガルージに渡した。

 ガルージはひげを撫でてにやりと笑うと。


「おう、任せとけ」


 と引き受けた。それから。


「クーイヌだっけ。お前のも見てやるよ」

「えっ、いいんですか?」


 一緒についてきていたクーイヌは、声をかけられびっくりした顔をした。クーイヌも剣の手入れはしておかないとと思っていたが、自分でやるか、街の鍛冶屋に頼むつもりだった。


「おう、いつもヒースが世話になってるからな」

「じゃ、じゃあ、お願いします……」


 憧れの第18騎士隊の人に剣を見てもらえるということで、クーイヌは頬を紅潮させ嬉しそうにする。後ろで見守っていたフィーからは、心の尻尾をぱたぱたさせている様が見て取れた。


「よかったね、クーイヌ」

「うん」


「とりあえず刃の研ぎ直しや柄部分の拵えを直したりするから、明後日ぐらいに取りに来い」

「はーい」

「はい!」


 フィーは元気良く、クーイヌはかっしりと返事をする。


「それじゃあ、僕たちは今から買い物にいってきますー」

「おう、気をつけてな」


 フィーは大きく手を振って、ガルージに一端別れを告げる。

 それからクーイヌと街へと繰り出した。




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