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168

変な更新の仕方になってしまい申し訳ありません。

ご連絡しなければいけないことができてしまい、まだ168話は完成してないのですが、更新させていただくことになりました。

12時以降に完成品を必ずや完成させてあげる予定です。

ご連絡についてなのですが、活動報告に記載してあります。書籍版のご購入を検討されている方はご一読いただけたらと思います。

この前書きはのちほど削除するから、後書きに移す予定です。

「長期休暇は楽しめたか? しかし、いつまでも休みボケていてはだめだぞ!」


 教壇の前に立ったヒスロが、大きな声で見習い騎士たちに言う。


「今期は遠征訓練と、全寮参加のサバイバル戦という大きな行事がある。また中には宮殿の行事などに参加するものもいるだろう。訓練も勉強もしっかりやっておかないと恥をかくぞ」


 フィーは隣のゴルムスに尋ねた。


「ねぇねぇ、遠征訓練とサバイバル戦ってなに?」

「おまえ等は本当に……少しは自分で先輩に聞いて情報をあつめやがれ…

…」


 ゴルムスが呆れた顔をして、フィーとクーイヌを見た。

 フィーの左どなりの席では、クーイヌがこっちを興味津々に覗き見ていた。


 この二人は見習い騎士内の情報に疎いのだ。


「こら、ヒース! ゴルムス!」

「あ、すみません!」

「なんで俺が巻き添えに・・・・・・すいません・・・・・・」


 フィーはあっさりと、ゴルムスは不満たらたらながら謝罪する。まあ不満も当然だが・・・・・・。 

 ヒスロは私語を注意したあと後、フィーの方を見て言った。


「それから、ヒース。イオールさまから召集がかかっている。午後から会いにいくように」

「たいちょーから呼び出し? なんだろう」


 フィーは目をぱちくりさせて、そう呟いた。




 午後、訓練にいくクーイヌたちと別れ、フィーは集会所の方に向かった。

 集会所に入るとイオールが、フィーを待っていた。


「たいちょー!」


 フィーは人懐っこい笑みを浮かべ、イオールに駆け寄る。

 イオールもわかりにくいが、ふっと笑みをこぼした。


「ヒース、よく来てくれた」

「いえ、たいちょーのご命令とあらば!」


 フィーはシュバッと敬礼してみせる。


「それで今日はどうして呼び出したんでしょうか?」


 フィーは首をかしげてイオールに尋ねた。


「ああ、すまない。用件はふたつだ。ひとつは伝えなければいけないことがあってな。これからの見習い期間、宮廷で行われる式典に見習い騎士が参加することもある。だが、それにお前を参加させてやることはできない」

「はい、わかりました。でも、どうしてですか?」


 フィーはあっさりそれに頷く。

 正直、祭典ごとって苦手だし、むしろ参加しなくてよくなってラッキーぐらいの気持ちだった。それにフィールと直接、顔を合わせるなんてことになったら困るし。

 ただ理由は気になったので聞いておく。


 イオールも頷いて答えてくれた。


「今回の敵は宮廷内にもいる可能性がある。内部に敵がいた場合、お前は俺たちにとってのジョーカーだ。なるべく、宮廷内の人間に直接、顔を知られるという状況は避けたい」

「わかりました」


 なるほど、フィールの事件のためか。とフィーは、ちょっと真剣な表情になって頷いた。


 それから、イオールがちょっと悩んだ顔つきになってフィーにいった。


「こんな扱いになってしまってすまないと思っている。しかし、その扱いも一時的なものだと約束する。必ずいつかお前を取り立ててみせる。そのときまでどうか辛抱してほしい」

「いえ、本当に気にしてませんから。僕はたいちょーに仕えられるだけで幸せです」


 むしろ、そんな偉くさせられたら困る。

 クロウさんみたいにいち騎士でいいのだ。むしろ、王宮に入らなくていい騎士なんて都合がいい。

 イオールはそのへんをいまいち理解していないような、鷹揚な仕草で頷いたあと。


「それからもうひとつだが――」



――――――追加↓――――――――


 そして午後の時間、イオールのさっきまでの言葉とは裏腹に、フィーは宮殿の中にいた。

 ただし、変装をしている。


 庭師の少年に扮したフィーは、イオールのあとをついていく。目立つ金色の髪も引っ詰めて、大きめの帽子の中に入れて、顔も帽子でさりげなく隠れている。

 城内の庭であれば、庭師の少年がいても特に不自然ではない。

 この国の王ロイは、わりと王城の出入りを自由にしていて、息子をつれて庭師が仕事にくるなんて光景もみるからだ。


 それでも王宮に入ってしまえば、不自然に思われるが、イオールがついてれば誰も呼び止めなかった。むしろ、すれ違う人はみんなイオールに目がいってしまう。

 地味な格好をしたフィーの存在感は限りなく薄い。

 すごいカリスマである。


 実は最初は侍女の扮装をするように提案されたのである。

 イオールたいちょーは認識していない。たいちょーの近くについてまわる侍女なんていたら、ひたすら目立ちまくって、そのニュースが電撃のように王宮の侍女中に伝わることを。

 そこでフィーの方から庭師の変装を提案したのである。


 なるべく人気のない王宮の通路を通り、ひとつの部屋の前につく。

 フィーとイオールはさっと、誰にも見られぬようにその部屋へと入った。


 庭師姿のフィーが持ち歩いていた脚立を、部屋のはしっこにおく。そこにイオールが昇る。

 そしてイオールが天井を押すと、天板が外れ、とても狭いスペースが現れた。


「入れるか?」

「はい、大丈夫です」


 フィーはそのスペースを見て頷いた。


 話によると昔の草がつかっていた諜報のための場所なのだが、今代で入れるものは皆無らしい。

 そこでフィーの出番というわけだった。


 脚立にのったイオールに手をのばすと、だっこの姿勢で持ち上げられる。そのまま、フィーは天板に手をかけ中にするすると入っていった。

 狭い穴だったがフィーにとってはちょうどいいスペースだ。


 その中からイオールと目を合わせる。


「無理はしなくていい。これからこの部屋を使用する者たちの会話に、不審な内容が聞こえたら、あとで教えてくれ」


 フィーは頷いてイオールが蓋を閉める。


(よし……)


 任務モードになったフィーは、カインに教えられたとおり、リラックスしながら心を無にした。

 じっと静かにその場所で待つ。


 やがてフィーの耳に扉を開く音が聞こえた。

 そして誰かが部屋の中で会話をはじめる。


「宰相閣下……………ました」

「挨拶は………要件だけ………セ…………」


 低い掠れた声と、甲高くどこか気弱そうな声。

 二人とも小声なせいか上手く聞き取れない。


「暗………私は…………仕方………」

「国としても………とって………」

「そういう…………」


 もう少し耳を近づいて聞こうかと思ったが、フィーはイオールの「無理するな」という言葉を思い出し、動くのを止めた。

 代わりに聞こえた単語を、できるだけ覚えるのに努めたが、あまり有用な情報は得られそうになかった。

 でも、見つからないことの方が大事。それはカインさんにも言われてる。だから、じっとしている。


 やがて二人が部屋を去っていく音がした。


 フィーがそのまま隠れ場所で息をひそめていると、天板が開いた。たいちょーのもう見慣れた仮面が目に写る。


「ご苦労だったな」

「はい」


 たいちょーはフィーを隠れ場所からだして、床に下ろしてくれた。


「どんな会話をしていた?」

「それが……あまり聞こえなくて……」


 会話の相手が宰相ということは、この諜報をしかけたイオールのほうが分かっているだろう。

 それなら、それ以外に有効そうな情報はなかった。


「ただ、声の高い人の方は、何か焦ってる気がしました」

「そうか」


 こんな情報だけでは、とても役に立つとも思えない。

 フィーは自分の役立たずさに、ちょっと落ち込む。


「お役に立てなくてすいません、たいちょー」


 フィーが俯く。

 すると、ポンっと頭に大きくて暖かい手の感触がした。

 視線をあげると、たいちょーの手が、頭の上に載っている。


 たいちょーはふっと微笑み、


「いや、そんなことはない。十分だ。よくがんばってくれた。ヒース」


 そういって頭をなでてくれた。

 暖かい手が数度、頭の上を往復する。フィーは心地よい感覚に、目を細めた。


 そのとき、ふと、なぜか懐かしい感じがした―――。




 その夜、フィーは不思議な夢を見た。


 世界は灰色で、ぼやけていて、何もわからない。

 ただわけもわからず、時おり与えられる痛みだけが、恐ろしかった。


「また服を汚して! 何度言ったらわかるのよ! まったくこの子は!」


 不快な高い声が響き、耳もとに大きな音が聞こえて、痛みが走った。

 それが嫌だと思うけど、だからといって何かできるわけでもない。


 ただ呆然とその場に立ち続ける。


「どうして私たちがこんな面倒を押し付けられなきゃいけないのよ。他の侍女たちは、フィールさまのお付きになるチャンスがあるのに、私たちはこんな小汚い娘の面倒なんかを……」

「そうよ。最悪だわ」

「でも……ちょっと叩くのはまずいんじゃない。一応は王女なんでしょう」

「ふんっ、こんなの叩いて躾けなきゃ話にならないのよ!」


 その言葉と共に、また痛みが走る。


「それに叩いても国王さまも王妃さまも気づきもしないわ。だからこそ、侍女の間で最悪の閑職って言われてるのよ」


 耳に聞こえる声は、どれも暗く淀んでいて、フィーの心を嫌な気持ちにさせた。

 だから、じっと息を潜める。彼女たちから痛みを与えられないように。

 でも、この世界は不条理だった。


「そうそう、こうやって叩いてストレス解消するぐらいしないと! もちろん躾けもかねてね!」


 また痛みが走る。

 もう、何も分からない。どうしたらいいのかも。

 フィーはひたすら、灰色の痛みと暗闇だけの世界を漂い続けていた。


 そして、ずっとこの灰色の暗闇はずっと続いていくのだと思っていた。




 その日も、フィーの体には痛みが走っていた。

 心には苦しいという感覚と、何もない空虚な心だけ。


 それはフィーがずっといる世界で、そんな世界がフィーにとって当たり前で。

 だからこんな世界がずっと続いていくのだと思っていた。


 でも、今日は違った。


 声が響いたのだ。聞いたことのない低い声が……。


「一体、何をやってるのだね! 君たちは!」

「――――さま!?」

「恥ずかしく思わないのかね! こんなに幼い子供をそんな風に扱って!」

「――――さまってだれ?」

「ほら、あの―――――の」


 いつも自分に痛みを与える高い声が、動揺したように揺れる。


「ふ、ふん……。余所者であるあなたに何がわかるというんですか! 私達のことなんて何もしらないでしょうに」

「ああ、この国に来たばかりだからね。君たちにもそれなりの事情というのがあるのだろう。だが、それでも、この子の面倒を見るというのが、君たちの仕事なのだろう。ならば、誠意と誇りをもってそれをこなすのが、君たちの役目だ。それは決してこんな、この子を傷つけるような方法ではない」


 大きな影がフィーを守るように立つ。そして独特な仕草で言う。


「人はさまざまな立場を負って生きる。王であれ、農民であれ、貴族であれ、商人であれ。そしてその役目を全うしてこそ、国というのは形をなすのだよ。君たちもその仕事を与えられたプロなのだろう! 衿をしめたまえ!」

「…………」


 長い静寂のあと、少し詰まりかけた高い声が漏れた。


「そ、そんことをいうならあなたさまが面倒を見てみればいいじゃないですか。王族育ちで私たちの苦労も知らないくせに……」

「……わかった」


 そう低い声が響いた少しあと、足音が去っていく。

 フィーは少し安堵した。あの人たちの傍にいても、痛い思いしかしなかったから。

 しかし、何をすればいいかも分からず、ただ立っていると、目の前に顔が見えた。


 それはフィーが初めて、同じ高さで見た人の顔だったかもしれない。


「大丈夫だったかい……? 痛みは……?」


 低い声は、いままで聞いたことのない、暖かい声で話しかけてくる。


「あっ……あっ……」


 フィーはよくわからない感情に任せて口を開いたが、その口からは音が漏れてくるだけだった。

 目の前の顔が、目を見開く。


「そうか……。君は……喋れないのか……」


 そう目の前の人が呟いたあと、体に温かい感触が広がった。


「大丈夫だよ。必ず喋れるようになる……! 私がちゃんと教えよう!」


 それはフィーが初めて触れた、人のぬくもりだった。



 それから短いような、長いような時間が経った。

 フィーの灰色だった世界は、光のある世界へと変わっていた。

 悲しいことも、辛いこともあるけど、でも、幸せも、嬉しいこともある。


 そして今日は、とても悲しいことがあった。

 とても、とっても……。たぶん、世界でいちばん悲しいことが。


「いっちゃやだ……」


 フィーは言葉を呟く。

 すると目の前の顔が苦しそうに歪んだ。


「すまない……。私はもうこの国にいることは許されない身なんだ……」


 その大きな服の裾を、フィーはぎゅっと握りしめた。

 その目じりに涙が浮かぶ。


「わすれちゃう……」

「ん……」

「はなれたら……きっとわたしのことなんてわすれちゃう……」


 この世界でフィーの存在感はほとんどないのと同じだ。それは目の前の人と会ってから知ったのだけど。もし、遠く離れていったら、この人もきっと、自分のことを忘れてしまう。

 フィーはそう思った。


 すると、その人はフィーのことを見ていった。


「そんなことないよ。私は決して君のことは忘れない」


 その人が約束をたがえたことはなかった。

 それでもフィーは信じられなかった。

 目じりにどんどんと涙を溜めた。


 すると、大きな体は、いつかと同じくしゃがみこんで、フィーの瞳を見ていった。

 たまにやさしく暖かい感触が触れる。


「じゃあ、約束するよ。どんなに――――、どんなに――――――も、君と―――ら、ひ―――――――――――せるよ……」





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