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 いろいろな騒動があったフィーとクーイヌの休日だったが、その後は平穏な日々だった。

 近くの湖に遊びにいって、一緒のボートにのったり、町の女の子たちと一緒に遊んだり、楽しい休日を過ごした。


 そしてそろそろ、王都に帰らなければいけない日がやってきた。


「お世話になりました」


 フィーはそういって、カサンドラとベンノに頭を下げた。

 その隣にはクーイヌもいる。


 まだ休日は残り三日あるけど、王都までは距離があるので、ぎりぎり出発していたら遅刻してしまう。


「いえいえ、またいつでもいらしてください」


 カサンドラは笑顔で、フィーにそういってくれた。

 ここにいる間、彼女には料理や裁縫を教わったり、侍女の仕事について習ったり、本当にお世話になった。


「それじゃあ、家のことをよろしくお願いします」

「はい、お任せください」


 隣ではクーイヌが、そういって二人に家のことを頼んでいる。

 前までは見習い騎士のクーイヌしか知らなかったけど、みんなの領主をやってるクーイヌ。実家でゆっくりしているクーイヌ。休みの間に、いろんなクーイヌを見れた気がする。

 特にこの歳できちんと領主としてやっているのは、偉いと思う。


 カサンドラとベンノに別れを告げると、手配してもらった馬車に乗り込んだ。

 今度は御者のいるちゃんとした馬車だ。

 ここから王都まで、馬車をつかって二日ほどだ。途中、一度宿に泊まらなければならない。


 クーイヌはそのことを思い出すと、どきりとして馬車の中ですこし身じろぎをした。

 フィーがその動きに気づいて、クーイヌの方を向き、目をぱちくりさせる。


 その顔を見ていると、クーイヌはいまさらなことに「あっ」と気づいた。


「来るときってどうやってきたの?」

「え? 一人できたけど?」


 それが何か、という顔でフィーは首をかしげた。

 それにクーイヌは今さらながら絶句する。


 考えてみれば当たり前のことだったけど、クーイヌはフィーと過ごす休日のことで頭がいっぱいですっかり失念していたのだ。


「一人で?」


 その驚きには言外で女の子が、という言葉が含まれていたが、フィーはあっさりと気づかなかった。


「うん、初めての一人旅だったから楽しかったよ」


 満足げな楽しそうな笑みを浮かべる。


「あ、危ないよ……」

「でも、クーイヌも一人で実家まで来たんでしょ?」


 クーイヌの実家にいくまでが、フィーにとって生まれてはじめての一人旅だったけど、それはそれで楽しかった。一人で馬車に乗って、一人で宿をとって、目的地に移動していく。

 初めての経験で、不安もあったけど、新鮮でどきどきして楽しかった。


 この国にきたばかりのころなら、もっと不安だったかもしれない……。

 もしかしたら何もできなかったかもしれない……。

 それでも、きっとがんばったと思うけど、楽しむ余裕なんてなかっただろう。


 でも見習い騎士として過ごすうちに、町での活動には慣れたし、乗合馬車も土日に遠くに遊ぶときに使ったことがある。

 そういう経験の応用で、困ったり悩んだりしながらも、フィーもクーイヌの実家まで一人でいくことができたのだ。


「本当に何もなかったの?」

「大丈夫。二、三回、変な奴らに絡まれたけど全部倒してきたから!」


 フィーはにやりとクーイヌに一人旅の武勇伝を告げた。

 クーイヌの顔が真っ青になる。


「次くるときは迎えにいく……」

「へぇ、また来ていいんだぁ」


 フィーはクーイヌの言葉に、嬉しそうに笑った。

 くるときの一人旅も楽しかったけど、帰りのクーイヌと一緒のたびも楽しくなりそうだった。




 そうして馬車で休憩もまぜながら、移動を続け、やがて日が暮れてきた。

 ちょうど差し掛かった小さな町に馬車を泊めてもらう。


 御者の人は馬車組合の寄り合い所みたいなところに泊まるらしい。


 フィーとクーイヌは宿をとらなければならない。

 馬車を降り、御者の人から聞いた、町でひとつだけ営業しているらしい宿に向かった。


 着いたのは木造の落ち着いた雰囲気の宿だった。

 旅人が泊まるだけだから、簡素な外見だけど、壁も扉もきれいに掃除してある。


「それじゃあ宿をとってくるから」

「クーイヌ、ストップ!」


 クーイヌがそういって宿の中に向かったのをフィーが止めた。


「大丈夫、僕にもできるよ!」


 どや顔でそういったフィーは、クーイヌを追い越し、宿のカウンターに小走りでいく。

 一人でお使いができた子供のように、一人旅ができたことの成果を見せたくなったのだ。


「すいません、泊まりたいんですけど、ひと部屋空いてますか」

「はい、大丈夫ですよ」


 あっさりと了承された。

 フィーはすぐにサインを宿帳に書いていく。


「とれたよー」


 それから笑顔でクーイヌのほうに向かう。


「え?」

「え?」


 戻ってきたらクーイヌが呆然と声をあげたので、フィーがそれに首をかしげる。

 何かおかしかっただろうか。


「なんでひと部屋?」


 そう尋ねたクーイヌに、フィーは宿の案内を指さす。

 そこには『ひと部屋にベッドはふたつあります』と書いてあった。


「ベ、ベッドがふたつあるからって……!!」

「からって、ベッドがふたつだからこそ、ひと部屋で大丈夫じゃないの?」


 クーイヌとフィーの会話はかみ合わない。

 クーイヌが慌てて、宿の受付の女性に言う。


「すいません、もうひと部屋お願いします!」

「えー、もったいない!」

「お願いします!」


 そんなクーイヌをフィーが非難するが、クーイヌは聞かない。


 しかし、宿の女性からクーイヌに申し訳なさそうに言葉が返された。


「さきほどの部屋が最後でして、申し訳ありません……」


 フィーがひと部屋と言おうと、ふた部屋と言おうと運命は同じだったのだ。


「うっ……うぅぅぅぅぅ…………!」


 クーイヌは赤面しながらうなり声をあげはじめた。


「ふふん、領主さまとはいえ贅沢はだめなのだよ」


 フィーはそんなクーイヌに勝ち誇った顔で、その頬をつんつんと突いてまわった。




 そして次の日の馬車、クーイヌは寝不足だった。


 フィーはちゃんと寝なきゃだめだよ、と注意しようとおもったが、昨晩、水浴びのとき見張りをしてもらった恩義もあるので、黙っておいた。


 馬車はゆっくりと王都へと向かっていく。


 喋ることもなく、静かに揺れる籠のなか、ふとフィーは、頭の部分や肩に暖かい重みを感じた。

 見ると、クーイヌが眠ってしまったみたいだ。


 頬に触るプラチナ色に近い金髪は、さらさらとしていて、こうしてみると本当に大型犬に寄りかかられてるみたいだ。

 すやすやと眠る表情は、あどけない。

 町の人相手に領主として振る舞ってるときは、大人っぽい顔も見せていたけど。

 夜更かししていたせいで馬車で寝てしまって、その寝顔をみてしまうと、やっぱりまだまだ子供っぽいんだなぁと、フィーはくすりと笑った。


(仕方ないなぁ)


 そのまま眠らせてあげることにする。


 そうして、馬車が進むうちに、いつの間にかフィーも寝てしまった。


 すやすやと籠の中に二人の寝息が響く。


 そうして数時間後、籠の外から他の馬車の音が聞こえてくるようになって、二人は目を覚ました。

 交通の多い場所にきたのだ。


 つまり、王都が近いということになる。


 フィーが馬車の窓から顔を少しだすと、もう見慣れた、でもしばらく離れていたから懐かしく感じる街並みが見えた。

 オーストルの首都、ウィーネだ。


 あそこにフィーの大切な第18騎士隊の人たちや、フィーの仲間である見習い騎士たちがいる。

 そしてまた見習い騎士として、騎士をめざしてがんばる日々がはじまるのだ。


「長期休暇楽しかったね、クーイヌ」

「うん」


 フィーがクーイヌに微笑み、クーイヌもはにかみながら笑って頷くと、馬車は王都へとまっすぐ走っていった。



 ということで、フィーとクーイヌの休日編終了です。

 すいません、長いこと書いてしまいました……。ようやく見習い騎士の生活に戻れます。

 もっとてきぱき書けてたら、みなさまからいただいたネタをもっとたくさん入れられたと思うのですが、いろいろとだらけてしまったせいでこんな感じに。申し訳ありません。

 アイディアをくださった方、本当にありがとうございます。

 もし、都合よく時間ができたりしたら、師匠に会いにいったルート書いたり、IFみたいなものを書いてみたいですね。


 それから活動報告にて書籍版についての新たなる情報が公開されています。もしよろしければ、見てくださればと思います~。


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