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「それじゃあ、旦那さま、お召し物の準備をしますね」
そういうとフィーは、てきぱきと衣装棚の中から、クーイヌの服を取り出していった。
なぜ、場所を知ってるかというと、昨日カサンドラに教えてもらったからだった。
仕立ての良さそうな真っ白なシャツに、ブラウンのチュニックと、同じ色のズボン、藍色の織物で作られたスカーフタイと、それを首もとで留めるサファイアのブローチ。
実家にいるときのクーイヌは、貴族の当主らしい格好をしているのだ。
クーイヌの着替えを手伝うためニコニコと待機しているフィーを、クーイヌがじっとした目で見てきた。その頬には汗が浮かぶ。
「あの……着替えるので外にいてください……」
「はい、旦那さま」
着替えるの手伝ってあげたかったのに……。
と思いつつも、当主さまのご命令とあらばと部屋を出る。
フィーはのりのりだった。
数分後、フィーの準備した衣装に着替えたクーイヌが、部屋をでてきた。
まだ少年っぽさは隠せないけど、それはそれでなかなか似合っているとフィーは思う。まさに後を継いだばかりの初々しい若旦那という感じである。
「旦那さま、すでに朝食の準備ができております。ダイニングまでご案内しますね」
楽しそうに、でもなかなかさまになる仕草で、クーイヌをダイニングまで連れて行こうとするフィー―――本来なら彼女こそ案内されるべき客人のはずなのに……。もちろん、間取りだってずっと住んでたクーイヌのほうがくわしいのだが……。
クーイヌはちょっとうろんげな瞳を向けた。
その警戒心満タンの仕草に、フィーは思わず破顔してしまった。くすくすと笑いながらクーイヌに言う。
「もうー。クーイヌ、まだ疑ってるの?」
「戸惑ってるだけです……」
目の前では女の子の姿をしたヒースがいる。
女の子の姿をしているところを見たのは初めてかもしれない。
当然だけど……似合っていた。
普段ははいてないスカートに、髪もいつもより梳かしてあって肩で広げてある……すごく女の子っぽい。髪飾りを付けているのもはじめてかもしれない。
(侍女用のブリムだけど…………女の子っぽくて可愛い……)
そんなことをクーイヌは思った。
スカートも……。普段はズボンしか履かないヒースだったけど、本当の性別を知っているせいか、女の子にしか感じられなかった。
けど、スカートを履いていると、いつもよりさらに女の子なんだなって実感させられる。
完ぺきに女の子の姿に戻ったフィーを、思わず上から下まで眺めてしまったクーイヌに、何を思ったかフィーはスカートの裾をちょっとだけ上に持ち上げた。
白い足がクーイヌの目に映る。
「クーイヌの前では女の子の格好するのはじめてだっけ。意外とたまに着てるんだけどね、たまに。どう? 変じゃない?」
そういうとフィーはスカートをもったままくるりとターンした。
スカートがちょっとだけふわりと浮く。
「う……うん……」
クーイヌは乾いた声で頷いた。
フィーはその場でくるくると数度ターンして、「あっ」とクーイヌの方を振り向くと言った。
「そういえば敬語じゃなくて、普通に話してよ。僕以外と話すときはそうでしょ?」
「あ、ああ……今は侍女だから……」
「そうじゃなくて、普段から普通に話して欲しいなって」
都合よく脅しつけたのはフィーの方だし、その状況を利用していた気もないではないけど、一緒に遊んだり、修行したりして仲良くなったのに、敬語のせいでたまに心の距離を感じるときがあったのも事実なのだ。
もうフィーにとってクーイヌは信用できる相手だった。最初、脅しつけたことをちょっと申し訳なくなるぐらいに。
だから普通に話して欲しい。
クーイヌはわずかに逡巡したけど――。
「わ、わかった……」
こくりと頷いてくれた。
フィーは笑顔になる。
「それじゃあ、朝食に行きましょう。旦那さま!」
「わっ、わ、ヒース!?」
クーイヌには敬語を直させておきながら、侍女のお仕事を再開したヒースは、クーイヌの背中にさささっと回りこむと、その背中を両手で押してダイニングへと案内をはじめた。
短くてすいません。
たぶん更新再開の予定です;
ご心配などおかけしました。
たくさんのアイディアありがとうございます!ちょくちょく見ながら書き進めさせていただいてます~!




