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 アベルが目を開けたとき、目の前にいたのは一人の女の子だった。

 さらさらの整えられた長い金髪と青い瞳、まるでお姫さまみたいな青いドレスを着ていて、それがよく似合っていた。一瞬その髪と目の色にフィールさまのことを思い出したがそんなに似てない。フィールさまは美人と可愛いのちょうど中間ぐらいの感じだが、目の前の女の子はもうちょっと幼げな感じだ。それとちょっと化粧が厚い。


「大丈夫でしたか?」


 ベッドの横の椅子に腰をかけ、女の子はにこりと笑って、ベッドの上で上半身だけ起こしたアベルに問いかける。

 それでアベルは気絶したときのことを思い出す。ヒースを追って、後宮の壁を登って、滑り落ちて……。


「あ、うん。だいじょ……いてえっ!」


 アベルは女の子に戸惑いながらそう答えて体を起こそうとし、足に痛みが走り動きを止める。


「あ、まだ立ち上がっちゃだめですよ。落ちたときに足をひねったみたいですから」


 見ると足に包帯が巻かれていた。起き上がろうとしたとき包帯が少しずれたので、女の子が立ち上がりそれを直してくれる。自然と体が近づき、ふわっといい匂いがアベルの鼻腔をついた。

 包帯を結びなおす横顔を、アベルはじっと見つめてしまう。


 すると女の子の方もアベルのほうを見た。目が合って心臓がどきっと高鳴った。


「私の顔がどうかしましたか?」


 どきどきしながらアベルは顔を逸らし気味にして答えた。


「い……いや、ちょっと知ってる奴に顔が似てる気がして」

「知ってる奴ですか?」


 女の子が首をかしげて訪ねてくる。


「ああ、でも気のせいだったみたいだ。そもそもそいつは女じゃねーし」

「そうですか。良かったです」


 女の子がそう笑ったその一瞬だけ、アベルは背筋に悪寒を覚えた。

 しかし、それはすぐに治まり、アベルもたぶんさっきのは気のせいだったと思った。だって寒気や恐怖を感じる理由がない。こんなに可愛い子が微笑んでくれただけなのに。

 ただなんとなく横顔を見てヒースに似ているかもと思ったのは心のうちに納めておく。


 それからアベルはこの女の子が誰なのか気になり始める。


「あのここはどこなんだ?」


 ただ直接聞く勇気はなくて、アベルは自分が今いる場所を尋ねた。


「ここは王城内の離宮の中ですよ」


 女の子の答えは十分予想できたことだった。自分が落ちてたぶん気絶したのがそこだったから。そう考えていたとき、部屋の扉の向こうから声が聞こえてきた。


「フィーさま!」


 その声に目の前の女の子が「はーい」と答える。それでアベルは目の前の女の子が誰か分かった。

 王妃さまの結婚話に割り込み、国王に嫌われこの離宮に閉じ込められているというフィールさまの姉。

 この子が側妃のフィーだ。


(なんだよ! むちゃくちゃ可愛いじゃねーか!)


 アベルは赤面した顔を隠しながら心の中で叫んだ。

 噂ではひと目見ただけでもう見るのが嫌になるほどの醜い女だと言われていたのに、実際にアベルが見たフィー王女は可愛かった。容貌だってアベルが見たことのある女の子でもかなり上位に位置するぐらいに整っているし、金色の髪と青い瞳は高貴な雰囲気を纏っていてとても美しい。ちょっと幼げに感じさせる容姿も、フィールさまとはまた違って可愛くてそれはそれで良い。ちょっと化粧が厚いのが気になるけど。

 性格だって包帯を整えてくれたように、とてもいい子だ。噂なんて当てになるものじゃないと、アベルは思った。


「一応塗り薬を持ってきました。あ、もう起きたんですか?」


 部屋の扉が開き、黒髪の侍女服姿の女の子が部屋に入ってきた。おかっぱ髪の可愛い少女で、アベルは見たことなかったが、こちらを見る瞳は冷たい。

 そんな少女はアベルを睨むと、フィー王女の方に顔を向けて言った。


「フィーさま! やっぱり兵士に突き出しましょうよ。こんな汚らわしい男、離宮に匿う必要はありません。離宮に侵入した罪で牢屋に入れられればいいんです」


 その言葉にアベルはぎくりとなった。

 ヒースを追いかけるのに夢中になっていたが、確かにアベルのやったことはそうだった。側妃のいる離宮に侵入したのだから、ばれたらただではすまない。


「まあまあ落ち着いてよ、リネット。突き出したりしたら可愛そうだよ。怪我が治るまでここにいさせてあげようよ」


 ということは話の内容から察するに、自分をかばってくれたのはあの子、いやフィーさまということになる。そんなフィーさまはこちらを振り向いてにこりと笑うといった。


「大丈夫、まだ兵士の人たちにはばれてないですから。ここの兵士の人たちはよく居眠りしてるので、鳥が地面に落ちてきた音だってリネットに誤魔化してもらいました。怪我が治ったら見張りがいない時間を教えて、外に出られるようにしてあげますから安心してくださいね」


 その天使のような笑顔にアベルは確信した。

 この子はヒースなんかじゃない。だってヒースは性格が悪くて底意地が悪くて下劣な男なのだ。こんなに可愛くて性格も良くておまけにいい匂いがする女の子じゃない!

 まったくの別人だ。


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