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第18騎士隊の倉庫からでたフィーは呟いた。
「う~ん、言うつもりはなかったんだけどなぁ。仲直りできて安心して、ついうっかりしちゃった」
それからクロウに言ったとおりに隊長を探しに行った。
城の庭でたぶん騎士隊の集まりの場所に向かっているイオールを見つけたフィーは笑顔で駆け寄った。
「たいちょー!」
その表情にイオールもおおよそは察したらしい。腕を組んだいつもの仕草でフィーに聞いてきた。
「クロウとはちゃんと話し合えたみたいだな」
「はい。たいちょーたちのおかげです」
フィーはにっこりと笑ってイオールに報告した。
コンラッドさんの提案でもう一度二人で話し合えるようにしてくれて、そのお陰で冷静にクロウさんと話すことができた。ちょっと余計なことまで言ってしまったけど。
「いや、お前自身が今まで努力してきた結果だ。それがあったからこそクロウもお前を認めたのだろう」
イオールは勝手に納得してうんうんと頷く。
実際のところ色仕掛けで無理やり振り向かせて、追い出されたら寂しいとひたすらわがままを言い、最後は脅迫で締めたことなど知らない。
イオールは庭に吹く風にマントをはためかせながら、フィーをそのアッシュブルーの瞳で見つめながら言う。
「では改めて問う。これからの任務、恐らくさまざまな困難が立ち塞がることになるだろう。今回お前を襲ったような命の危険もあるかもしれない。ずっと痕が残るような怪我や負傷を負うことになる可能性もある。
正直に言うと、お前のような年若い少……」
そこでイオールの言葉が一旦止まった。
どちらで言うべきか迷ったのだ。しかし、イオールとしてはできるだけこの言葉は誠実でありたいと思っていた。
さりげなく周囲の気配を探り、誰もいないことを確認するとフィーに言った。
「お前のような年若い少女に本来なら頼むべきことではないかもしれない。それでも俺たちにはお前の存在が必要だ。力を貸してもらえないか? ヒース」
騎士隊に入ったころと同じ。ううん、それ以上に強く自分を願ってくれている、改めてフィーに与えられた言葉。
自分を確かに必要としてくれる人。
フィーはイオールの目をまっすぐ見上げて、敬礼のポーズで元気よく返事をした。
「はい、たいちょー!」
それから別の騎士隊との打ち合わせがあるイオールとは別れ、フィーは宿舎の方に歩いていた。
「ふんふふふ~ん」
クロウさんとは仲直りできて、たいちょーには改めて見習い騎士としてここに居ることを認められて、問題はすべて解決。ご機嫌になったフィーの口からは鼻歌がもれる。
足取りも自然とスキップだ。
見習い騎士たちの連休も近づいてきている。
普段は宿舎で暮らす見習い騎士たちのために、実家に帰ったりするための休みだ。フィーは帰る家はないから基本的には宿舎においてけぼりになるけど、クロウたちと一緒に過ごしたり、見習い騎士の誰かの家に遊びにいくのもいいかもしれない。
他の仲のいいグループの北の宿舎の少年たちはそんな約束をしていた。
そんなフィーが連休の予定を考えながら、王宮の北西の角を通りかかったとき、ふとバルコニーに何かがはためいているのに気づいた。
何度か見た覚えがある金と青の綺麗な布地。
リネットのお気に入りのスカーフだった。




