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それから3日ほど病院で過ごして退院したフィーは、見習い騎士としての日常に戻っていた。
クロウとの仲は相変わらずだった。以前はフィーの様子を見に頻繁に宿舎にやってきて話をしていたのに退院後は来てくれない。
そのまま土曜日になり、第18騎士隊の宿舎に行く日を迎えた。
外では小雨が降っている。最近、天気は不安定だ。雨が降ったり曇ったり、例年長期休暇の直前まではこういう天気が続くらしい
フィーが小走りで王城の庭をかけて倉庫に入ると、倉庫の中にいたのはクロウだけだった。
フィーは挨拶しようか迷って一度口を開けたが、気まずくてそのまま閉じてしまう。クロウもこちらの気配に気づいてるはずなのにソファーに座ったまま振り向かない。
気まずい。
フィーはクロウに近寄り難くて、コンラッドがいつも座ってる椅子に座る。
いつもなら一緒のソファに座って話してるのに……、フィーはそう思いながら膝を抱えた。
外ではしとしとと雨が降り続けている。
誰も来る気配はない。倉庫ではクロウとフィーが二人っきりだけだ。
ふとコンラッドのテーブルを見ると、ヒースちゃんへって書かれた紙を見つけた。
『隊長に頼んでクロウの仕事はしばらく無くしてもらったからがんばりなさい。色仕掛けでもなんでも頷かせれば勝ちよ』
と書かれていた。フィーは思わず半眼になって紙を握りつぶした。
しばらく考えたあと、フィーはそろそろとクロウの隣に移動した。
「クロウさん」
呼んでみるけど反応はない。
「クロウさん……!」
今度はちょっと強く呼んでみる。
クロウはずっとあっちを向いたまま、こちらに振り向きもしない。
さすがにムカッときた。
フィーは見習い騎士服のジャケットを脱ぎ、コンラッドのテーブルから香水をとりちょんちょんとつける。
それからクロウに思いっきり抱きついた。
抱きついてあっと思い出したようにちょっとシャツをはだけさせた。
ふわっと香水と肌の匂いが交じり合った香りが二人の周囲に舞う。
「ねぇ、クロウさん」
フィーはクロウの耳元で囁いた。
「どわぁっ!」
一瞬後びっくりしたクロウが、思いっきりフィーを跳ね飛ばしてしまった。
「んぎゃっ!」
肘掛の部分で頭を打ちフィーが悲鳴をあげる。
慌ててクロウが立ち上がりフィーを助け起こす。
「おまえはー!いったいどういうつもりだ!」
フィーはそんなクロウの襟を掴み、ぎゅっと体を寄せた。
「色仕掛けです」
また甘い香りがクロウの鼻腔をつく。クロウの頬がちょっと赤くそまった。
「だから何でそうなる!」
「だってクロウさんがこっちを見てくれないから」
フィーは服をはだけさせたままクロウをにらみつけた。
「……はぁ」
クロウがため息を吐き、頭をかきながら言った。
「言っておくけど、俺は認めないからな」
クロウはそう言ったけど、一応前とは違ってこっちを見てくれた。




