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129 ミス

 妹の護衛任務を終えたフィーは、見習い騎士として元の生活に戻っていた。

 今日の訓練を終えフィーは水場へと向かう途中、見慣れない騎士を見つけた。茶色く短い髪の垂れ目の優しそうな印象の騎士だ。その頬はやつれ気味で、騎士なのにどこか弱々しい印象も与える。

 その騎士はフィーの姿を見ると、驚いたように目を少し見開いた。


「おや、君は」


 フィーは首をかしげる。

 フィーからすると見覚えのない騎士だった。でも相手はフィーのことを知っているようだった。

 不思議に思っていると、相手は苦笑いしながら言った。


「ああ、君は覚えてないか。見習い騎士の試験で君の試合の審判をしたことがあるんだよ」


 そう言われて、フィーはおぼろげながらに思い出した。

 確かに審判をしてくれていたのは、こんな騎士だった気がする。そう言いつつも、いまだはっきりと思い出せないのだけど。

 その反応に相手の騎士はまた苦笑いした。


「はは。君も見習い騎士になれたんだよね。良かったよ。あの試合は本当に惜しかった」


 騎士の方はフィーのことをはっきり覚えていたらしい。あのときの試合を振り返ってそう言った。

 その言葉にフィーは首を振る。


「ゴルムスはやっぱり強かったです。今も一度も勝ててないですし。それより騎士さんは、どうしてここに来たんですか?」


 そう問われて騎士の人は、ああ、と自己紹介を忘れていたことにはじめて気づいて、照れ気味に笑ってから名前を告げた。


「僕はレコン。見ての通り騎士だよ。この北の宿舎の総務…………になるのかなぁ?」


 レコンという騎士の自己紹介はすごく曖昧だった。




「なるほど、総務にならないかと言われて、今日は見学に来たんですね」

「うん、僕には向いてないって最初は断ってたんだけどね。北の宿舎の出身ではないし。でも一度、北の宿舎を見てから決めてほしいって言われちゃってね」


 フィーはレコンの話を聞いて納得した。

 北の宿舎の総務は、トロッコが遠征に送られてからしばらく、誰もいない状態になっていた。代わりを探していたそうだが、犯罪組織の活動も活発な分、騎士たちも忙しくなかなか代わりが見つからなかったのだそうだ。レコンはそのようやく見つかった総務候補らしい。


 フィーはレコンを見て、いい人そうだと思った。北の宿舎は問題児が多いから苦労しそうだなぁとも思った。自分のことは棚にあげて。

 フィーは未来の総務候補の案内役を買って出ることにする。


「それじゃあ、僕が案内しますよ!北の宿舎はとてもいいところですから!」


 フィーがそういうとレコンは驚いた顔をする。


「いいのかい?君、どこかに行こうとしてたみたいだけど」

「大丈夫です」


 フィーは自身満々で頷く。体を洗うための水場はあとでもいけるのだ。

 いまは未来の総務候補をおもてなししたほうが、みんなのためにもなるだろうと思ったのだった。




 フィーはまず北の宿舎の中を案内した。

 玄関から入って少し進むと授業などを受ける教室がある。そこからさらに奥にいくと休憩室がある。休憩室は本やボードゲームが置いてあったりする見習い騎士たちの憩いの場だ。ソファや椅子が並んでいる。

 フィーのいつもの席も健在だ。


 レコンは北の宿舎を見回しながら言った。


「ところどころ修理したあとがあるね」

「はい、トロッコさんがやめてから、タイミング悪くいろんなところが壊れちゃって。今はみんなで補修してます」


 ゼリウスにまかせっきりになってしまっていた北の宿舎の補修だが、彼の行動が知れ渡ってからはみんな手伝うようになった。フィーもガルージからいろいろ教わって、いろいろと修理をしてみたのだ。

 それを聞いてレコンが申し訳なさそうに謝った。


「はは……ごめんね。なかなか次の人が決まらなかったばっかりに……」

「いえ、責めてるんじゃないですよ!むしろ普段、上の人たちにどれだけ助けてもらってるかわかりました!」


 宿舎の設備が壊れたときは基本的に上の人に伝えて修理してもらうという感じだったが、フィーたちはそれを自分たちでやってみて大変だなということがよく分かった。


「ほとんどは僕たちが直接修理しているわけじゃないけどね。でもちゃんと修理の人には話しておくよ。君たちの本分は、たくさん訓練して立派な騎士になることだからね」


 まだ総務に就任すると決まったわけではないのに、むしろ総務に就任するのを断っていたのに、レコンはそう言って約束してくれた。


(やっぱりいい人なんだなぁ)


 と、フィーはその顔を見上げて思った。



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