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男らしさランキング終了の十分前、北の宿舎の食堂はお祭り騒ぎとなっていた。
そこかしこで見習い騎士たちが大声で騒ぎながら歓声をあげたり飛び跳ねたりしている。
「ゼーリウス! ゼーリウス!」
「ゼーリウス! ゼーリウス!」
見習い騎士たちにより本人不在のゼリウスコールがはじまる。それは大きな合唱となり食堂全体に広まった。
「あいつこそ男の中の男だ!」
「うおおおおおおお!」
叫び声やおたけびがあがったり、紙ふぶきがまったり、それはもうにぎやかな有り様だった。
フィーはその光景を、食堂の隅から呆然とした表情で眺めていた。
「これが本当の……勝利の光景……?」
第四期男らしさランキング。
結果はゼリウスの圧勝だった。
フィーの漏らした声により、ゼリウスの成果はみんなへと伝わり、ひとりで1万以上のポイントを稼ぎ、4回目の男らしさランキングも優勝することをその時点で確定させた。
残り時間は10分あるが、もはや逆転の目はない。
少年たちのポイントはそのほとんどがゼリウスに投下されてしまった。これを上回るポイントを確保するのは、いくら時間があっても無理だった。何よりフィー自身がゼリウスに自分に残っていたポイントを投じてしまったのだ……。
用意した方策もそのためにやった工作も、フィーが勝つために行ったすべては水泡に帰した。
敗北したフィーは肩を落としその場を去ろうとする。
その襟首を誰かが掴みあげた。
「おーい、どこにいこうとしてるんだ?」
「ヒース。良くも散々、ランキングを荒らしまわってくれたな!」
「解放されたあいつから聞いたぞ!廃止になっていたプリフェクト制度まで復活させてきやがって!」
それはヒースの被害にあった見習い騎士の少年たちだった。
腰に手をあて怒った表情だった。
「うぅ、悪かったよぅ……」
フィーが珍しくしょんぼりとした落ち込んだ声を漏らす。
そんなフィーにくるっと表情を笑顔に変えて少年たちは言う。
「うるせぇ!お前みたいなやつには罰だ!罰!」
「罰ゲームじゃなくて罰な!」
「それ受けないと二度と男らしさランキングには参加させてやんねぇからな!」
少年たちの言葉にフィーは少し目を丸くした。
そのあと、素直にこくりと頷いた。
「わかった」
そんなフィーのもとにクーイヌが駆け寄ってきた。
何かと思えば、彼は胸の前で手を合わせて笑顔でフィーにも聞いてきた。
「あの、一位は諦めたんですよね。もしよかったら点数、返してくれませんか?」
なんだかんだで、最下位はいやなクーイヌだった。
その言葉に、こいつもこいつで大概だよな……、と見習い騎士の少年たちは呆れた視線を向ける。主犯はあくまでフィーだったが、しっかりと命令に従って騒動の拡大に貢献したのはクーイヌだ。普段は大人しい気性だが忘れがちだが、転寮当初などこいつもしっかりと問題児なのである。
クーイヌの頼みにフィーはペンを持って紙に手を向けたが、その手が途中で止まった。
「そういえばクーイヌ、こんな楽しい行事にひとりで参加してたんだよね」
まだあのことを根にもっていたフィーだった。少女の恨みはしつこい。
「で、でも、作戦には協力したじゃないですか……!」
不満顔でこちらを見るフィーに、焦ったクーイヌが言う。
刻一刻と時間が過ぎていく。
「う~ん」
フィーが悩みながら結局、ポイントを返そうとしたとき。
「いえーい!」
はしゃいだ少年たちがこちらにダイブしてきて、ちょうどフィーが書こうとしてた紙のとこに落ちて、置いてあったペンがぽっきりと折れた。
「あっ……」
「あっ……」
少年たちが声を出す。インクが漏れ出し、紙は黒く染まり使い物にならなくなった。
そして男らしさランキング終了を告げる鐘が鳴る。
クーイヌのポイントは0で終了した。
そのやり取りを見ていた少年たちはクーイヌの肩を叩いて、フィーを罰のために連行していった。
「ま、自業自得だ」
そういうわけで北の宿舎の男らしさランキングは終わった。
1位は変わらずゼリウス。
最下位は自業自得のクーイヌと、そしてとことんついてないレーミエだった。
少年たちが投げていた紙ふぶき。
実は投票用のポイント用紙で点数の返却ができなかったのだ……。




