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 イウスはヒースを打倒するための手がかりを求めて、一日を費やしいろんなことを調べてまわった。

 しかし、北の宿舎において有用な情報が見つかることはなかった。

 おそらく集団の中に潜ませているであろう監視の目も考えると、あまり宿舎内では目立った行動もできず、捜査は手詰まりの様相をみせていた。


(まず、あちら側についた5人を暴いていくべきなのか……。いや、もうあまり時間がない……)


 もう、男らしさランキングの決定までは三日しかない。

 イウスの心に焦りが忍び寄っていた。


 その日、彼は夕方から騎士隊の先輩たちと会う予定だった。ずっと以前からの約束だったのだ。

 いまの北の宿舎の惨状を先輩たちに話すと、「はは、また変なことやってるのか」とか「俺たちもむかしは妙なことばっかりやってたなぁ。懐かしい」などと生暖かい返事をされる中で、ひとりの先輩から信じられない情報がもたらされた。


「え?プリフェクトが廃止になったんですか!?」

「ああ、就任したやつがプリフェクトの権力に溺れてどんどん調子に乗って暴走してなぁ。みんなの不満がたまった結果、全員で投票して廃止にすることになったはずなんだが。また復活したのか?」


 それは9年前まで北の宿舎にいた先輩の言葉だった。


「プリフェクトが廃止になっていたって……。ど、どういうことだ!?イウス!」


 一緒に会話に参加していたルータスが問いかけてくる。


「すり替えだ……」


 イウスは呆然としながら呟いた。


「俺たちはいままで誰も北の宿舎の寮則に目を通したことがなかった。やつはそれを利用して9年前のものと寮則をすり替えて、プリフェクトという制度をいまに復活させたんだ……。やつが持っていた北の宿舎の寮則の本は今のものじゃない!9年以上前のものだ!」

「な、なんだって……!」


 イウスの答えにルータスは驚き叫んだが、冷静になったイウスの中では勝ちの可能性がどんどん大きく膨らんでくる。


「先輩!むかしの北の宿舎の寮則の本をもってないですか!?」

「い、いや、すまん。さすがにそういうのは持ってないな」


 それはそうである。

 いまの北の宿舎の見習い騎士たちと同様、昔の北の宿舎の見習い騎士たちも寮則なんかに気を配ることはほとんどなかっただろうから。


 もしヒースの持っている寮則を偽者だと証明できれば、手にしたプリフェクトの権力を一気に奪い去ることができる。つまりヒースを倒せる。だが、そのためには証拠が欲しい。

 イウスたちには寮則の本を手にする術がなかった。おそらく北の宿舎にある寮則の本は、やつの手のうちにあるだろう。


「くっ、なんとかして寮則の本を手に入れる手段はないのか……」


 そんなイウスに、あっと思い出すように先輩が言った。


「そういえば図書館に寮則の本が置いてあるの見たって誰かいってなかったっけ」

「ああ、あのほとんど誰も使わない」

「俺、一度も足を踏み入れたことないわ」


 イウスはその言葉に胸をわき躍らせた。


「それだ!すいません、俺図書館いってきます!」

「俺もいくぜ!」


 イウスとルータスは先輩たちが何か言うまもなく図書館の方に駆け出していく。まあ先輩たちには止めるつもりもなかったが。

 そんな二人を先輩たちは「若いなぁ」と見送った。




 図書館の騎士関係の資料の欄にやってきたイウスたちが見つけたのは、棚に空いた大きな空洞だった。


「な、ない……!?」


 騎士関係の資料の欄にあると聞いていたのに、そこには一冊も北の宿舎の寮則の本がなかった。

 東の宿舎や南の宿舎の本はある。なのに北の宿舎の寮則関連の本だけが、ごっそりと棚から抜け落ちていた。


「まさかヒースのやつが……」

「バカな!そんなはずはない!これだけの量、クーイヌに力を借りても無理なはずだ」


 国の許可証をもらっても借りられる本はひとり2冊。クーイヌとあわせても4冊だ。

 まさか北の宿舎の本を全部おさえられるような、これだけの空洞を棚に作れるはずがない。


(なぜだ……)


 そう考えかけてから、イウスは心を落ち着けた。方法は問題ではない。

 大丈夫だ。まだ方策はある。


「大丈夫だ。本の外部への持ち出し期限は3日間だ。やつが押さえようとする期間を考えれば、必ず一旦ここに戻ってくる。そこをおさえてやつより先に借りればいい!司書の人にいつ戻ってくるか聞いておこう!」

「お、おう……!」


 しかし、受付にむかったイウスとルータスを待っていたのは、さらに衝撃的な事実だった。


「えっとぉ、その本ですが国の特別許可証で借りられてるので30日間はもどってこないと思いますよ」


 どこかけだるそうな雰囲気の図書館の司書が、貸し出しの資料をめくりながらあっさりとそう言った。

 あまり人がこないから、どうにもだらけてしまうのだ。ここの司書たちは。


「特別許可証!?」

「はい、凄いですよね。国王陛下の印鑑も必要な許可証なのに、あんなこどもの子が持ってくるとは思いませんでした」


 そういったあとひとつあくびをした司書は、仕事を終えたということで奥に引っ込んでいった。

 あとに残されたのは呆然と佇む二人……。


「あいつ……どこからそんなもの持ってきやがった……」


 方策が尽きた……。




 フィーがプリフェクトに就任する前日のこと。

 フィーはイオールを捕まえて質問していた。


「たいちょー、図書館の本の貸し出し期限を延長する方法ってないですかー?」


 いろんな人に聞いてみたが、そもそも全員誰も一度も図書館に入ったことがなかった。クロウもコンラッドもパルウィックもガルージもオールブルも誰一人も。

 むしろ図書館、ああそういうのあったね、という状態だった。

 フィーは最終手段としてたいちょーを捕まえて聞いてみたというわけだった。


 どうしても作戦を万全にするには必要なのだ。

 いまのままでは隙ができてしまう。


 そんなフィーに、イオールは珍しく焦ったような動作でふところからばっと紙を取り出した。


「あるぞ、この特別許可証を使えば、30冊まで30日間借りられる」


 まさかそんなどんぴしゃなものがでてくるとは思わず、フィーはあんぐり口を開けてしまった。

 というか、なんでそんなもの持ち歩いてるんだろう。


(きっとたいちょーには深い考えがあるんだろう……)


 フィーは勝手にそれで納得することにした。

 それからたいちょーの方を見上げて、おねだりしてみる。


「すいません、その許可証、僕にももらえませんか?」

「ああ、存分に使うがいい」


 イオールは直接、その許可証をあっさりとフィーにくれた。

 まさかフィーもこんなに簡単に手に入るとは思わなかった。

 なんか判子とかいろいろと押してあって割りと重要そうなのにいいんだろうか。

 そんな疑問が浮かびながらも、フィーは目的にばっちり合うものが手に入ったことに満足する。


「ありがとうございます!たいちょー!」

「うむ、それを使って勉学に励むといい」


 目的のブツを手に入れ嬉しそうに腕をあげるフィーに、イオールはいつも通りマントを翻しフィーの前から去っていった。


 彼はフィーから離れ、しばらく歩いたあと珍しくひとりごとを呟いた。


「なかなか利用者が増えず無駄になってしまったかと思っていた図書館だったが、少しずつ利用者が増えてきているようではないか。ふふっ」


 彼は本当に稀なことに、目に見えて嬉しそうに口もとを歪ませた。


「貸し出し期限が問題だったのか……?確かに本の保全のためとはいえ三日は短すぎたかもしれない。今度は通常の許可証でも七日までに延長してみるか。それから今度はマリギウスの戦術書を入れてみよう。仕事の合間に読んで見たがあれはなかなかいい。時代は古いが今でも十分に通じる書物だ。きっと利用者が目にすれば、他の戦術書にも興味がわくだろう」


 彼はしばらく王城に建てたさびれた図書館の復興計画を考えながら、別の仕事の場所に歩いていった。

 彼は気づいてない。ほとんどの人が雑紙すら置いてなくて堅苦しいから、彼の建てた図書館におとずれないことに……。


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フィーちゃん…っ! ほんとにこの主人公は何をしてるんでしょう…っ!?
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