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 ヒースがプリフェクトに就任してからしばらく。

 ヒースの暴走に少年たちは不満を募らせていた。


 食堂ではそんな少年たちが集まり会議を開いていた。彼らの目的はただひとつ。

 北の宿舎が男らしさランキングの誇る―――男らしさを守るためだ。


「どうにか、どうにかしてやつの1位だけは防がなければ……」

「そうだ!そうだ!」

「神聖なる男らしさランキングにあんな反則地味た行為がまかり通っていいはずがない!」

「やつが1位になってしまっては、この北の宿舎の男らしさランキングの価値は地に落ちてしまう」


 ちなみにヒースの行為は別にルール違反ではなかった。

 男らしさランキングのルールはガバガバだったから……。


「こうなったら俺たちの点数をすべてゼリウスに集めよう!そうすればヒースには勝ち目がない」

「よし、それだ!」

「そうだ。やつを1位にしてたまるか!」


 反ヒースへの気運に盛り上がりかけた少年たちだが、それを制止する声がかかった。


「いや、みんな待ってくれ」


 食堂に集まった少年たちの中で、ひとりの少年が立ち上がった。

 彼はゼリウスに点数を入れようとした少年たちの顔を見回すと、真剣な表情で言う。


「確かにあいつの行為は汚い。男らしくないと断言できる。

 しかし、だからといってあいつへの反発心だけでゼリウスに投票するのも、男らしくない行為じゃないか?男らしさポイントは男らしいことをした人間に与えられる。その原則を破ってしまったら俺たちもあいつと同じになってしまう。

 そうすれば男らしさランキングは何の意味もないものに成り果ててしまう」

「くっ……、確かにそうだ」

「それは男らしくない……」

「じゃあこの方法はだめなのか……」


 ひとりの少年の言葉で、少年たちの決起は不発に終わった。




 その夜、ヒースの部屋の前にひとりの少年がいた。


「君は実によい仕事をしてくれたよ」

「あ、ああっ……、それでっ……!」

「分かってる。これは約束の品だよ」


 鷹揚な仕草でヒースは少年へと一枚の手紙を渡す。


「こ、これがジョリアンナちゃんとのぶ、文通……!」

「そうだとも。見習い騎士の誰かと文通してみたいって言っていたからね。君は字が綺麗だし、オーストルの文学にも詳しいからその子の条件にも合っていた。送り返せばきっと喜んでくれるよ」


 興奮して振るえる手でそれを手にした少年は、あの少年たちの決起を止める一言を放った彼だった。

 少年は周囲を警戒するように見回すと、大事そうにその手紙を懐にしまい部屋の前を去っていく。

 その背中を邪悪な笑みを浮かべたヒースと困った顔をしたクーイヌが見送った。


 その光景をイウスとルータスは廊下の曲がり角に身を隠して見ていた。


「ま、まさか……あいつが裏切るなんて……」


 ルータスは信じられない表情でさきほどの光景を振り返る。


「アルシアちゃんコネクションだ」


 イウスがぽつりと呟いた。


「アルシアちゃん!?」


 それはちょっと地味で泣き虫だけど、そんなところも可愛くて素朴で優しくて清らかで笑顔がかわいくて小さな声がキュートで北の宿舎の見習い騎士たちの間で密かな大人気を誇る新入りの侍女の名前だった。


「ああ、あいつは何故かアルシアちゃん及びそれと親しい侍女たちに太いパイプを持っている。この北の宿舎で最大級のをだ」


 イウスは事前に調べてきた情報をルータスに語った。


「アルシアちゃんたちのグループといえば、王宮の侍女たちでもかわいい子揃いの集まりじゃねぇか!」

「その通りだ」


 イウスは深刻な表情で頷く。


「庶民的だけど清楚で可愛いアルシアちゃん、貴族出身の強気なお姉さまでたまにいじわるもしちゃうけど根はやさしいロレッタちゃん、ロレッタちゃんの腰ぎんちゃくだけどスタイルが抜群に優れているカリーナちゃん、ほかにもかわいい子がそろい踏みのグループだ。

 プリフェクトの権力だけを振るったなら早晩、反乱が起きて奴は負けていただろう。

 しかし、やつには同時にアルシアちゃんコネクションという大きな力がある。見習い騎士たちの間でもお近づきになりたいと評判の侍女たちとの繋がりをほぼその一手に担っているんだ。これは俺たちの間では金にも勝る財宝だ。

 やつが部屋を査察したのは俺たちの弱みを突きポイントを得るためだけじゃない。その中で、何人かがアルシアちゃんコネクションを使って女子との交流を約束され懐柔されたはずだ」

「つまり……」

「俺たちの中に裏切り者がいる……」


 イウスの顔は苦渋に満ちていた。

 男らしさランキングを守るために一致団結すべきときなのに、すでに何人かは裏切っているのである。その光景をまざまざと見せ付けられてしまった。

 

「なら、早くみんなに知らせようぜ!」


 焦った表情でそういったルータスにイウスは首を振った。


「だめだ。いまの段階で知らせても仲間たちの間に不信感を募らせて、無駄な混乱が起きるだけだ。それにまだ本命たちが顔を出していない」

「本命……?」

「そうだ。調べた情報によると、やつは月に1回、アルシアちゃんたちとお茶会を開く予定だったらしい。男女比1対1の」

「1対1の!?」

「そのお茶会の席はヒースとクーイヌを除くと5人。

 今日の命令を実行したのは所詮小物だ。女の子との文通程度、男女比1対1のお茶会に比べれば児戯にも等しい。命令も対価に対して一度っきりのものだろう。

 だが、お茶会への招待状を手にした5人は完全にあちら側についていると見たほうがいい。そして恐らくやつの命令に従って、こちらの集団をコントロールしているはずだ。

 こいつらを暴かなければ、やつの政略を止めることはできない……」


すいません、書籍化については再度のお知らせになりますが、アーススター・ノベルさまより書籍化されることになりました。

これも応援してくださったみなさまのおかげです。本当にありがとうございます。(すいません更新時に告知できてなかったので再度書かせていただく可能性があります)


賛否両論の主人公暴走エピソードの最中にすいません(・ω・;)

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この王女本当に何してるんでしょうっ!? カイン止めて〜、今すぐ止めて〜っw
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