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「裏切り者……」

「ああ……。国内にグラーシ王に加担し、フィールさまを殺害しようとしている勢力がおそらくいる。

 フィールさまに直接の危害を加える行動はあれ以来起こってない。

 しかし、フィールさまへの婚姻の話が出だしてから、国内の犯罪勢力の動きが活発化した。それらの勢力には外縁部の貴族たちから多額の資金が流れているという情報がある。

 そして国内や周辺諸国でフィールさまの良い噂がいろんな場所から流れだして、彼女の国際的な発言力がどんどん高まっていっている。本人はほとんど何もしていないのにだ……。

 これは一見、オーストルにとって良いことに見えるが違う。ロイのミスやオーストル国内のごたごたで彼女の命を失うという話になれば、彼女の名声や寄せられた期待が、ロイへのダメージとなって降りかかる。

 ロイだって万能じゃない。当然、失敗のひとつやふたつはある。国際的に人気のある王妃を自分のミスで失ったあと、犯罪組織を使い世情の不安を煽り世論を誘導すれば、簡単に民衆の心は裏返る。

 内国の敵の狙いはおそらくロイの権勢に陰りを生み出すことだ……。もしかしたらそれに乗じてグラーシ王の後援を受け、クーデターを起こすのかもしれない。フィールさまの名声を高める工作は、グラーシ王の嫉妬を煽り対立を硬直化させる意味もあるんだろう。

 敵にもそれぞれ狙いがあるわけだ。

 厄介なことにこの工作に、プラセ教の司祭たちまでが乗っかっている始末だ。聖女なんて本来はこちらにはない概念までお祭り気分で受け入れちまった……」


 クロウは沈痛そうな面持ちでため息を吐いた。

 フィーは街にでていたときのフィールの呼称に納得する。自然信仰の教義は一神教に比べると柔軟性が高い。悪くいうと脆い。たぶん、乗っかっている本人たちは悪意とは気づかず受け入れてしまったのだろう。


「現状、周辺の調査や状況証拠、トマシュからの手紙でグラーシ王が主犯であることはほぼわかっている。

 だが国際的にはっきり相手を訴えられるだけの証拠をまだ俺たちはつかめてない。国外で起きた事件の上に情報を掴むのも遅く、おくれをとってしまった……。

 内国の敵の一人は外の貴族の親玉、ザルネイード公爵だと考えられている。オーストルの古い貴族で、先王の時代にはかなりあくどいことをやって金をたくわえた貴族だ。はっきりいえば、王位を継いでから貴族たちの身勝手な行動を取り締りはじめたロイとはもとから対立関係にあったと言っていい。

 当面、俺たちは活性化した犯罪組織の動きをつぶしながら、ザルネイード公爵がそれらに関与しているという証拠を探している。そこからグラーシ王と内通していたという確かな証拠を見つければ、奴の悪事を明るみにだし国際的に糾弾することができるようになる。

 だが、ロイは本当の敵はもっと深いところにいると考えている」

「深いところですか?」

「ああ、ザルネイード公爵だけじゃない。この国の中枢にいる誰かがこの事件の背後で暗躍しているはずだ。最終的にはその人間をつき止め、そこから証拠を得るのが目的だ」


 クロウはいつにない真剣な表情でフィーに語り終えたあと、いつもの笑顔になってフィーに言った。


「以上が俺たちの抱えているごたごたというわけだ。何か質問はあるか?答えられることなら答えるぞ」


 フィーは根本的な質問をした。


「あの、そんな秘密の話を僕にして大丈夫だったんですか?」


 フィーはまだ見習い騎士の新米だ。

 クロウが話しているのは、国が隠している真実である。見習い騎士であっても、ゴルムスやクーイヌたちなんかは知らない。それをフィーには話してくれるなんて。


「正直言ってフィールさまへこちらが遣いをだしたときにも、経歴的には万全の人選をしたつもりだった。なのに、その中に裏切り者がいた。しかも、うまく情報を辿れないように隠蔽しながらだ。

 もし、信頼できる人間を経歴やその人間の背景から選ぶなら、もう今回の事件では誰も信用することができない。

 だから俺たちは自分が信用できるとおもえる人間を信用することにした。そしてその人間たちでなんとか裏切り者たちの正体を暴いて見せると。

 ロイはお前を信用できるとおもったんだ。だから教えた。それが答えさ」


 そうフィーに答えを告げてからクロウは少し苦笑した。


「まあかっこ悪い言い方をすると勘ってやつだ」

「わかりました」


 フィーはその言葉にこくりと頷いた。

 例え根拠のない感でもクロウに信頼してもらえたのは嬉しかった。


「正直、この事件については俺たちで解決したいと思っている。お前はまだ未熟な見習い騎士だ。

 でも、当代の草たちには小柄な人間がいないんだ。だからどうしても潜入において無理な場所がでてきてしまう。だからヒース、お前のような人間が欲しかった」


 フィーはーは剣の才能も無い自分がたいちょーに拾われたことに合点がいった。


「もちろん、できるかぎりのことは俺たちでやるつもりだ。

 でも、いずれお前の力が必要になるときがくるかもしれない。そのときは力を貸してくれるか?」


 真剣なまなざしでフィーを見るクロウに、フィーは頷いた。


「はい!任せてください!」


 クロウさんやたいちょーの役に立てるならどんなことでもがんばるつもりだった。

 さらにそれが妹を助けることにもなるなら、断る理由なんかない。


 その元気な返事にクロウも笑う。


「まあ当面は見習い騎士として訓練をがんばってくれ。それから―――」


 クロウは最後に真剣な顔をして言った。


「この話は今日いる第一騎士隊の古参メンバーたち、ゼファスさまの邸宅で働く人たち、国王直属の草、そしてフィールさまとその侍女であるリネット、第18騎士隊、それだけにしか知らせてない。

 もし、これ以外のものでこの話を知っている人間がいたら、そいつは敵だ。気をつけろ」


 その言葉にフィーは神妙に頷いた。


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