107 フィール王妃の護衛任務
ちょっと時系列が混乱してしまいそうなのでかかせていただきます。
フィールとトマシュ王子の話(前回の話)→フィーの嫁入り→見習い騎士になる→東北対抗剣技試合→男らしさランキング決着→『今回の話』
東北対抗剣技試合のあとは男らしさランキングの決着を描く予定でしたが、まとめてフィールまわりの事情を書いたほうがいいかなぁと思い一旦飛ばすことにしました。
このエピソードが終わりましたら、一旦時間を戻して男らしさランキング決着を書いていきたいと思います。
「護衛任務ですか?」
「ああ、ロイ陛下とフィールさまが二人でゼファスさまの邸宅にお出かけになられることになった。そういうわけで俺たちもその護衛として参加する」
クロウから任務の内容を聞いてフィーはまずいなぁと思った。
護衛任務となればフィールと顔を合わせる可能性が高い。そうなれば側妃の立場を脱出して見習い騎士をやっていることがばれてしまう。そのまま騒ぎになれば、後宮から逃げ出したことがばれてしまう。
事前に打ち合わせしておけば違ったのだろうけど、もうあとの祭りだ。
フィーはわずかな抵抗として、緊張で肩をこわばらせてもじもじとする演技をしながらクロウを見上げて言った。
「あのぉ、やっぱり護衛って近くでしたりするんですか?僕えらい人の前だと緊張しちゃってあんまり……」
ここでのフィーのプロフィールは貧しい層からの出身。偉い人の前にでたがらないのもたぶん説得力があるはずだ。
これでできれば不参加を、そうでなくともできるだけ王やフィールから離れた場所での護衛を取り付けたい。
その姿をみてクロウが笑った。
「お前にも可愛いところはあるんだな。安心しろ。基本的にメインの護衛は第一騎士隊が担当する。俺たちはそれを影からバックアップする側だ。国王陛下や王妃陛下と顔をあわせることは基本的にはない」
それを聞いてフィーはほっとした。
「わかりました。そういえばたいちょーはどうしたんですか?」
今日はめずらしく第18騎士隊の全メンバーが召集されている。なのにイオールだけはいなかった。
「ああ、イオールはちょっと別の任務に出ていて参加できない。だから今日は俺が代わりに指揮をとる」
それについてもクロウが説明してくれた。
イオールがいないときは副隊長であるクロウが指揮をとることになっている。フィーは別の任務というのは気になったけど、納得して頷いた。
「出発は一週間後だ。各自万全の準備をしておいてくれ」
「はい!」
指揮官としてのクロウの言葉に、第18騎士隊のメンバーはそれぞれ頷いた。
そして一週間後、フィーは森の中にいた。
朝早くにロイ陛下とフィールがのっているという馬車はお城をでた。今の国王と関係の深いゼファスの邸宅は王都から少し離れた辺鄙な場所にある。だいたい5時間ほどの道のりだろうか。
いまは二時間ほど道程を消化し、馬車は森の中に入っている。
二人でゼファスの邸宅を訪れるというのはデート的なものでもあると思うのだけど、馬車は驚いたことに二台だけだった。しかも一台は第一騎士隊の護衛任務のために使うものなので、実質的には王と王妃のためのものは一台しかない。普通、王と王妃のデートとなったらお付きの人間や侍女やらで、何台も馬車が連なる大行列になるのが常だった。
フィーは姉の立場として、妹とその結婚相手がお忍びデートするぐらい仲がいいならいい徴候だと思う、とどちらかというと好意的に解釈した。
木々の間からちらっと見える、どちらかというと王族がのるには質素な風体の馬車をみながら、あの中にフィールやリネットがいるのかなぁと考えながら、周囲の森に目をこらし配置のローテーションをこなす。
馬車の周囲はフル装備の第一騎士隊が囲んでいた。
若手や見習い騎士はいない。みんな名の知れたベテランばかりというそうそうたるメンバーだ。
彼らは周囲を警戒しながら、馬車のまわりを護衛している。
その真剣な表情はこちらまでひりひりした空気が伝わってくるようだった。国王と王妃、この国で最重要な人物二人を護衛する。デートみたいなものとはいえ、騎士としては重大な緊張する任務なのだろう。
そんな第一騎士隊を囲うように、第18騎士隊のメンバーはそれぞれ配置されている。みんなばらばらに大きく間隔を取り、森の中に隠れながら馬車の移動にあわせて移動する。
役割は索敵だった。
怪しい何かを見つけたらクロウに報告し、クロウが第一騎士隊と連携して対応する。
特に潜伏能力と移動力に優れたカイン、コンラッド、パルウィックはこの任務のメインを担当する人間たちだった。逆にガルージやオールブルはこういう任務には向かない。二人はあまり位置は動かず、バックアップに回っている。
そしてフィーも潜伏能力と移動力に優れたメインを担当する方だった。
4人で第一騎士隊が囲う国王の馬車の周辺一帯を、怪しい存在がないか遠くまで見て警戒し続ける。さすがに体力を消耗するので、ひとりは休憩をして、三人でローテーションを組みながら広範囲の探索を続ける。
フィーも森の枝の中に隠れながら、木の上をさっさっと移動していき、周囲に怪しい存在がないか見張る。カインに教えてもらった技術だ。
ちゃんと任務に参加できるようになったのもカインさんのおかげ。
そう思いながら自分の移動ルートをこなしていると、カインの移動ルートに重なった。
音も無く木々の間を移動するカインの表情は真剣そのもので、むしろ鬼気迫るといった感じのものだった。動きもフィーの二倍ぐらい速い。技術だけでなく心意気まで一流なのだ。フィーは自分の師匠を前にして、さすがだ、と思った。
そんなカインはルート上にフィーがいるのを見つけると、近づいてきて言った。
「いいですか。絶対に怪しい存在を見つけても近づいちゃいけませんよ!ちゃんと私たちに報告して必ず避難してください!対応は必ず第一騎士隊と必ず私たちが必ずやりますから!」
その言葉を聞いたのはもう5度目だった。しかも、聞くたびにどんどん必ずが増えていく。
そんなに自分って頼りないかなぁって思いながらも、フィーはそれもカインさんのような人からは仕方ないと思い、元気良く小声で返事をする。
「はい、わかりました!」
「必ずですよ!」
最後に必ずと言ったあと、カインはようやく移動ルートにもどっていった。
フィーも師匠の叱咤激励を受け護衛任務を「がんばろう」と決心しながら、自分のルートに戻る。
いつもこの作品を読んでいただきありがとうございます。
このたびこの作品に書籍化のお話をいただきお受けさせていただくことにしました。
実はまだ情報は何も公開できる段階ではないのですが、こういうタイミングでお話することにしたのは読者さんにお聞きしたいことがあったからです。
何も情報がない段階での公開となってしまいすみません;
もしよろしければ活動報告をご覧いただきアンケートにご協力いただけたらと思います。




