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 それからフィールはトマシュとたびたび二人っきりで会うようになった。


 二人っきりじゃないと、フィールの周りを囲む人に邪魔されてなかなか会えないからだ。一度、パーティー中話そうとフィールが試みたときは、フィールが足を一歩進めると集団がずいっと動き、トマシュ王子と話してた人がびくっとなってしまった。

 それを見た瞬間に、トマシュとのパーティー中での会話をフィールは諦めた。


 かわりにトマシュも会いたがるフィールのために、時間を都合してくれるようになった。

 知っているのはリネットとフィール、そしてトマシュだけ。


 トマシュはいろんな話を聞かせてくれた。


 東のジャピュタにある遺跡の話、、南のカサンバールに旅にでたときの話、ほかにもいろいろ。全部、トマシュ自身が自分の目で見てきた話らしい。

 なんでそんなにいろんなところに行ったり、陶芸家に弟子入りしてたか聞いてみると、今は小国のフォルラントだけど、いつか自分の力で豊かな国にしていきたいんだと言っていた。


 ちゃんと目的意識をもって生きていて、フィールはすごいなぁっと思った。

 自分なんて周りの期待に必死に合わせて生きているだけなのに……。


 交友関係も広い。

 いろんな国の王族や大臣や貴族やら、それから商人や船乗りまで、どうしてそんなばらばらな……、と思ってしまうような友人関係をトマシュは持っていた。


 中でも一人の友人についてはこう語っていた。


「面白いやつで男友達にはわりといいやつなんだけど、女の子の扱いはめちゃくちゃでさぁ。いつか女性関係で大問題おこしそうで心配だなぁ」


 中央の一番の大国、オーストルの国王に対してそう語るトマシュには、すこし呆気にとられてしまった。

 

 フィールがトマシュへの恋心を自覚するようになるのは、そんなに時間はかからなかった。


 その間にいろんな国の王族たちに求婚を受けたフィールだがぜんぶ断ってきた。

 王族の結婚というのは微妙なものだった。政略的、国に利益をもたらそうとする部分は未だに大きいけど、最近は恋愛や本人同士の気持ちも考慮されるようになってきていた。

 だから基本的に王族同士の結婚でも、まずは両者の合意という体裁をとることが多い。


 かといって無理やりな政略結婚もまだまだ多く、逆に結婚の益がないと親や周りを納得させることが難しい。

 フィールとトマシュが結婚するとなると、そちらの問題が大きかった。


 フィールはトマシュに思いを告げて、恋人同士という関係になれた。

 緊張し死にそうになるほどの思いをして好意をつげたフィールに、「僕もフィールが好きだよ」といつもの軽い調子で感じで返されたときは、嬉しい気持ちよりも、むしろ不条理な感が勝って相手の気持ちを疑ったほどだ。


 でもちゃんと大切にしてくれるし、いい加減な気持ちではないと思う。

 思いたい……。


 フィールはトマシュと結婚したいと思っていた。

 でも、小国であり今は軽視されているフォルラントの王子との結婚は、親には絶対に反対されるだろうことは目に見えていた。父親であるデーマンの国王はフィールを出来うる限りの大国に嫁がせて利益を得たいと皮算用している。


 だからフィールは、トマシュとの関係をまわりに秘密にしていた。

 知っているのはトマシュ、フィール、リネットの三人だけ。

 姉であるフィーねえさまにも言いたいと思っていたけど、このときのフィーねえさまは父に結婚相手を見つけるべく無理やりパーティーに出席させられてはどんよりとした暗い顔で帰ってきていた。そんな姉に自分のそれなりにうまくいってると思う恋の話をフィールは言い出せなかった……。


 いつかまわりにも認めてもらって、いや認めてもらわなくてもいい、トマシュと結婚することがフィールが初めて自分の思いで抱いた夢だった。


 でもフィールは自覚できてなかったのかもしれない。


 癒しの巫女フィールという存在が国際的にもつ価値を。そんなフィールに小国の王子であるトマシュが「僕も好きだよ」と答えてくれたそのときの言葉の重さも。


 彼女は望むとも望まぬとも大切にされてきたのだ。まわりのすべての人達から。

 だから分からなかった……。


 1年後、トマシュ王子の乗った馬車が崖に転落し死亡したことが、デーマンなど周辺国家にとっては小さなニュースとして伝わった。


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