表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/205

1.人生が詰んだ

 人生が詰んだ。

 フィーがそう悟ったのは、だだっぴろい王宮の端にある割りとちっちゃな離宮の隅っこで一人、冷たくなったスープを口に運びながら、料理長――長と付くが彼以外ここの調理場で働く人間はいない――のお暇をいただきたいという嘆願に承諾をしたときだった。

 外では花火があがり、この国のひとたちが喜び騒ぐどんちゃん騒ぎの音が、ここまで届いている。

 随分とした盛り上がりようである。

 それもそのはず。本日はなんとのオーストルの国王であらせられるロイさまと、デーマンの王女フィールの婚礼の日なのだから。

 ロイさまといえば、政治の手腕は敏腕辣腕、若くして各国の老獪な王たちと渡り合い、さらには戦は敵なし、もともと大国であったオーストルにさらなる繁栄をもたらした英雄王。

 おまけに容姿も端麗という各国の王女垂涎の物件だというのに、浮いた話ひとつないということが、それだけがオーストルの国民の心を悩ませていたのである。

 女性に対するあまりにもそっけない態度から、ついたあだ名が氷の王。

 それが田舎国家デーマンの王女とはいえ、ついに結婚することなったのだから、それは盛り上がりもするわけだ。

 しかも、心配した家臣が無理やり結婚話を成立させたとか、王の責務から嫌々結婚したとかいうのではない。デーマンの王女フィールと結婚したいと、国王自身がその口で言ったのだ。

 そりゃ、あんなに大きな花火があがるわけだ。

 フィーは窓枠から見える満天の星空に入りきれないほどアホらしく広がった花火を見て思った。それが爆発したときは雷轟のよう音が響き渡った。絶対、お祝いとかいうレベルじゃない……。

 ちなみにフィールも田舎の小国家の王女という、それだけがただ唯一の欠点とよべるべきものがあるが、器量も良くて、頭もよく、田舎国家で生まれたとは思えない上品な立ち振る舞いを身につけた子で、少し不思議な力をもっていて癒しの巫女などとちまたでは呼ばれている。

 珠玉の結婚相手の女性というわけだった。

 そりゃ、二人が寄り添い微笑みを交わす肖像が夜空を飛んでまわるわけだ。あれが大国オーストルでも数台しかない気球船と言う奴か、初めて見た。

 とにもかくにも大騒ぎ、大喜びのめでたい日である。

 ついでに誰も興味ないだろうが、この日はフィーとロイさまの結婚の日でもあった。さらについでにフィーはデーマンの王女でもある。フィールの双子の姉なのだ。

 それが一方が王国中の喝采を浴びながら結婚式を挙げたのに対して、もう一方が離宮の隅っこで明らかに作り置きのスープを口に運びながら「お暇をいただきたいのですが」と顔だけ申し訳なさそうな顔でいう料理長に「どうぞ」と答えることになったのか。

 それはちっぽけな、小指ほどの、別に話さなくてもいいやと思えるような、ぶっちゃけどうでもいい事情があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] 昨日 泣きながら更新分まで読んだので 読み返しつつ感想を入れさせてください。 初見、若い子がめでたい日に孤独に過ごしており、 お、おう(・д・`;)っと可哀相になりました。 この頃のフィー…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ