1.人生が詰んだ
人生が詰んだ。
フィーがそう悟ったのは、だだっぴろい王宮の端にある割りとちっちゃな離宮の隅っこで一人、冷たくなったスープを口に運びながら、料理長――長と付くが彼以外ここの調理場で働く人間はいない――のお暇をいただきたいという嘆願に承諾をしたときだった。
外では花火があがり、この国のひとたちが喜び騒ぐどんちゃん騒ぎの音が、ここまで届いている。
随分とした盛り上がりようである。
それもそのはず。本日はなんとのオーストルの国王であらせられるロイさまと、デーマンの王女フィールの婚礼の日なのだから。
ロイさまといえば、政治の手腕は敏腕辣腕、若くして各国の老獪な王たちと渡り合い、さらには戦は敵なし、もともと大国であったオーストルにさらなる繁栄をもたらした英雄王。
おまけに容姿も端麗という各国の王女垂涎の物件だというのに、浮いた話ひとつないということが、それだけがオーストルの国民の心を悩ませていたのである。
女性に対するあまりにもそっけない態度から、ついたあだ名が氷の王。
それが田舎国家デーマンの王女とはいえ、ついに結婚することなったのだから、それは盛り上がりもするわけだ。
しかも、心配した家臣が無理やり結婚話を成立させたとか、王の責務から嫌々結婚したとかいうのではない。デーマンの王女フィールと結婚したいと、国王自身がその口で言ったのだ。
そりゃ、あんなに大きな花火があがるわけだ。
フィーは窓枠から見える満天の星空に入りきれないほどアホらしく広がった花火を見て思った。それが爆発したときは雷轟のよう音が響き渡った。絶対、お祝いとかいうレベルじゃない……。
ちなみにフィールも田舎の小国家の王女という、それだけがただ唯一の欠点とよべるべきものがあるが、器量も良くて、頭もよく、田舎国家で生まれたとは思えない上品な立ち振る舞いを身につけた子で、少し不思議な力をもっていて癒しの巫女などとちまたでは呼ばれている。
珠玉の結婚相手の女性というわけだった。
そりゃ、二人が寄り添い微笑みを交わす肖像が夜空を飛んでまわるわけだ。あれが大国オーストルでも数台しかない気球船と言う奴か、初めて見た。
とにもかくにも大騒ぎ、大喜びのめでたい日である。
ついでに誰も興味ないだろうが、この日はフィーとロイさまの結婚の日でもあった。さらについでにフィーはデーマンの王女でもある。フィールの双子の姉なのだ。
それが一方が王国中の喝采を浴びながら結婚式を挙げたのに対して、もう一方が離宮の隅っこで明らかに作り置きのスープを口に運びながら「お暇をいただきたいのですが」と顔だけ申し訳なさそうな顔でいう料理長に「どうぞ」と答えることになったのか。
それはちっぽけな、小指ほどの、別に話さなくてもいいやと思えるような、ぶっちゃけどうでもいい事情があった。




