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69頁目「浄域龍シガギュラド」

 いたい、いたい、いたい。


 つよいひとたちにからだをめちゃくちゃにされて、わたしはうごけません。


 ちいさないきものたちがあつまってきます。わたしのちや、にくをたべようとしていました。



『しにたくない、しにたくない。だれかたすけて』



 ひっしにこえをだしても、よわよわしいこえしかでませんでした。


 からだはうごきません。てあしがきられていて、つのをおられたせいでからだをなおせません。



『おかあさん、おかあさん。……おかあさん、あいたいよ』



 いくらよんでもおかあさんはわたしをたすけにきてはくれません。


 わたしはきっと、たくさんのいきものをころしたわるいこだからかみさまがばちをあたえているんだとおもいます。



『わたし、わるいこ? おかあさんにあいたいだけ、でもみんなしんじゃった。わたしわるいこ、わたしわるい』

「こんばんわ〜♡」



 たおれているわたしのまえに、ちいさなひとがやってきました。



「助けに来てあげまちた〜♡」

『たすけに? たすけてくれるの?』

「勿論♡ いきまちゅよ〜♡ 愛の挨拶(ランプレディ)♡」



 そのひとはまほうをつかうと、わたしのきずがなおっていきました。


 ほかのいきものにやさしくされたのははじめてでした。むかしから、みんなわたしをいじめるかむししてきます。



『ありがとうございます』

「はいどうも〜♡ わからせには気をつけるんでつよ♡ 生意気なメスガキにはどんな事をしてもいいと勘違いしている悪い竿役が沢山いまちゅからに〜♡」



 よくわからないことをいいながら、やさしいひとは羽でどこかへとびさっていこうとしました。



『まって!』

「む〜? どうちましたか♡ ぽちのわからせ棒はお嬢ちゃんサイズじゃありましぇんよ〜?♡♡♡」

『なんでたすけてくれたの?』

「? ぽきは善のわからせおじさんにゃので、助けを求めるロリのピンチには駆けつけまちゅよ〜♡♡♡」



 やさしいひとは、おおきなおなかをゆらしながらこたえてくれました。ろり、とか、ぴんち、とか、しらないことばがたくさんあってあまりいみがわかりません。



『わたしはわるいこ。たくさんいきものをころした。あなたのようないきものもたくさんころしたよ。これからもころすよ。じゃまだから』

「む〜? そうなのでつか? それはなぜ♡♡♡」

『おかあさんにあいたいの。おかあさんがいるところまでいくとね、じゃまになるからころすの。……わるいこでしょ?』



 わたしはおもってることをそのままいいました。



「む〜♡ ロリがママに会いたいって思うのは当たり前の事でしゅし、歩く時にアリンコをどれだけ踏みつぶしても死刑にはなりまちぇんよ?♡♡」

『ありんこってなに?』

「お嬢ちゃんにとってのぽきや、人間や、ほかの生き物でしゅ♡ ぽきが思うに、お嬢ちゃんは悪い子じゃありまてんにょ? 体が大きいんだから、小さい生き物が勝手に死ぬのは当たり前でつ♡♡ そんなの気にせずにママに会いに行けばいいでしゅよ♡」

『ほんとう?』

「そもそも誰も、他者の行動の善悪を決める事なんて出来まちぇんよ♡ お嬢ちゃんに殺された人達だって、神様からしてみれば運が悪かっただけでお嬢ちゃんが悪いとは判断をくだちまちぇん♡ 津波に巻き込まれるようなものでしゅからにぇ♡♡」

『でも、みんなおこってた。わたしをころそうとしてた……』

「当たり前でちゅ♡ 津波が危ないなら防波堤を作りましゅからね♡♡ お嬢ちゃんにも人間にも、双方に善悪はないし、それなら各々が思うように好きに生きるべきでちゅ♡♡♡」

『……あなたはだれのみかたなの?』

「ぽきは全員の味方でちゅよ♡ 助けを求める誰かがいるなら、命をかけて助けてあげまつ♡♡ そういう生き物なので♡♡♡」



 やさしいひとはぱたぱたととんでとおざかっていきます。



「あ♡ ママと会えたらぽきも呼んでくだちゃいね♡♡ ドラゴンの親子丼、母娘姦には興味があるので♡♡♡」



 さいごにいったことばのいみも、よくわかりませんでした。




 *



「どんだけ出すんだよコイツ! 人にツバ吐きかけるみてぇに!!」

「無駄口叩いて叩き漏らしたら笑い話だぜフルンスカラ! 目の前の事だけに集中しろ!」



 ヒグンとフルンスカラは再び吐き出されるシガギュラドの炎弾を弾いていた。結界術師達はシガギュラドの歩みを止めるために足元に結界で壁を作り、魔法使い達は高所に魔法を展開し上からシガギュラドを攻撃する。


 オレはゾンビ軍団をドンドコ召喚して自爆特攻をさせる。フルカニャルリが「余ったから!」ってオレにくれる爆薬でゾンビ爆弾を作って文字通りの自爆特攻作戦である。これ、中々の攻撃力があってバリアを一枚確実にぶち抜けるから効率がいい。



「ひいぃぃぃいつまで続くのこれぇ!」



 オレの手伝いをしてくれているキュレルさんはずっと悲鳴を上げながらゾンビを量産している。



「フルカニャの準備が終わるまではゾンビ生産は終われませんね〜。オレのこの攻撃を中断しちゃったら、シガギュラドへの妨害手段が減りまくりで一気に劣勢に傾くと思うんで。耐えで!」

「フルカニャさん早くしてぇ〜!!」



 情けない声でキュレルさんが叫ぶ。フルカニャルリはいくつもいくつも束ねた糸を捻って引っ張っている。


 す先程の魔法の行使できっとフルカニャルリは俺と同じくらい、下手したら俺以上にシガギュラドに警戒されている。普通に接近するにしても必死に抵抗するだろう。


 だからスリングショットの要領で、高速でカッ飛ぶとの事だった。ただ、そんな事をすれば当然魔法の効力がシガギュラドのバリアを無効化したとしても龍の肉体に当たってぺちゃんこになってしまうのだが、そこは符術士であるサーリャが呪符の力でどうにかするとの事だった。



「あ、やべぇ血管痒くなってきたあ! キュレルさん、次持ってきて!」

「次って、魔力電池使い切ったわよ!?」

「まじで?」



 周囲を見ると彼女の言うとおりオレが溜め込んだはずの魔力電池は全部カラッカラの椎茸みたいに小さくなっていた。


 うっそ、魔力効率悪すぎないかこの魔法? 無制限に私兵を召喚出来るって考えたら強いけど、たかが30分ちょっと数十人分の魔力を食うの? 絶対普段使い出来ないわ。



「ど、どうすんのよ!」

「キュレルさん、魔力を私に分けてくれたりって出来ます?」

「な、なに急にエッチなこと言ってんのよバカ!」

「エッチな事なんだこれ。じゃあ一人で頑張るしかねえや!」



 少しだけ魔力出力を抑えて召喚規模を狭める。指向性を決める為に酷使している手の先が震えて、血管が痛くなってくる。魔力欠乏の症状だ、しんどい……。



「ちょ、ちょっとあんた!」

「マルエルです」

「マル子!「マル子」前見て! シガギュラド! また魔力溜め込んでる!!!」

「魔力? そうは言っても、もうマトモな攻撃なんて……」



 シガギュラドはもう片腕と頭しかロクに動かせる部位はない。両足は切り刻まれて結界で足止めされているからこちらに近付く事も出来ず、やれる事と言ったらチマチマとした炎弾攻撃くらいだ。


 魔力も相当使っていて高火力ブレスなんて使える魔力は残っていない筈。



「……あ? 嘘だろ」



 シガギュラドはこれまで見せたどんなブレス攻撃よりもずっとずっと高密度の、高熱の魔力を喉に溜め込んでいた。



「こっちが消耗し護りが弱まった段階で一網打尽にするつもりだったのか!? どんだけ狡猾なんだあの野郎!!」

「どどどどうすんのよ! ずっとこっち見てるわよ!?」

「そりゃ見るでしょうよトドメを刺せるのはオレって思い込んでんだから! クソッ、ゾンビで妨害をっ!!」



 ゾンビ軍団を動かしシガギュラドの顎を押えに行く。しかし相手は龍、例え片腕でも振るえば当たらなくても暴風が巻き起こる。蹴散らされていくゾンビ軍団、まるで歯が立ってねえや!



「マルエルちゃん! あのゾンビ達で壁作って! あたしの呪符で強度上げるから!」

「了解っす!」



 サーリャがこちらまで下がって言ってきたので、指示に従ってゾンビを操り組体操の壁を作らせる。サーリャは紙飛行機状に折り曲げた呪符を投げ、ゾンビまで届かずに地面に落下した。ノーコンか。



「炸裂の呪符!」



 サーリャが印を結ぶと紙飛行機が爆ぜて小さく折りたたんで挟んであった呪符が何枚も飛び出しゾンビ達に貼り付いていく。そういう仕掛け?



「連結の呪符! リカルド、あのゾンビを骨組みにして土魔法でコーティングして!」

「……」

「リカルド!!」

「ッ! 分かってんよ! 土塊硬砦壁(ロックフォートレス)!!!」



 リカルドが土属性魔法で壁を作る。さっきのゴーレムシールド? 的な魔法よりも数段階立派な壁だ、見掛け倒しじゃなかったらいいな!



「リカルド、だっけ!?」

「おうなんだロリ軍団の大将!」

「この魔法に僕の腕を巻き込ませてくれ!」

「マゾヒストか? 何言ってんだお前」

「一体化すれば僕のスキルの適用範囲内になる!」

「よく分からんが了解した!」



 ヒグンがリカルドに頼み込み壁に片腕を同化させる。その状態のまま『金剛合一』を使うと、壁全体が光りヒグンの魔力が浸透していくのが見えた。



「来るぞっ! 皆、衝撃に備えろ!!!」



 ログズバルトさんの声が飛ぶ。シガギュラドの高熱ブレスはこれまで以上の火力で放たれ、結界術師さん達が貼った結界は瞬く間に全て破砕し、土塊鋼砦壁にぶち当たる。



「「「土塊兵の盾(ゴーレムシールド)!!」」」



 リカルド以外の魔法使いも魔法を使い、ゴーレムと盾を生成しブレスの火力低減に努める。だが、壁はなんとか維持されているがあまりの高火力に端の方から溶解していっている。このまま行けば熱で溶かされ、こっちにブレスが貫通してくる!



「ヒルコッコー!!! 僕とヒグンの位置を替えるめ! ヒグンは位置替えが起きた瞬間、全力で踏ん張って飛ばされないようにしてー!!!」



 オレ達のいる後方からフルカニャルリの叫び声がした。ヒグンはこちらを向き、空いた手の指でグッドサインを作りそれを頭上まで上げた。



胡乱妖精の悪戯(エンシェントマジック)曖昧な洞(カリパッパ)



 ヒルコッコさんが魔法を唱えた瞬間、ヒグンが消えて彼の居た位置にフルカニャルリが現れる。



「にぎゃああああああつつつつあつあつあつっ!?」



 盾に腕が巻き込まれているせいで伝わってくる熱にのたうち回っていた。あーあー、可哀想に。

 まあジャケットを失ったせいで胸と腰に最小限の服が着いてるだけになってるし、皆に比べたら熱くないでしょ。てかよくあんな格好でこんな真冬に立っていられるな。



「何しに来た痴女子! 焼き溶かされるぞ!?」

「痴女ではなく! 服が破けてるのとジャケットをヒルコッコにダメにされたせいでほぼ裸だけど、痴女ではなく!!」

「とにかくどうするつもぶふっ!?」

「あー、フルンスカラが鼻血出した!?」

「ヒグンと同じであり!? 面白く! って、そんな事言ってる場合じゃなかっため!」



 フルカニャルリは自ら高熱の壁にもう片方の手も置き、手のひらがジュッと鳴る程の熱を耐えながら叫ぶ。



「スキル、流錬地壌(サレオス)!」



 錬金術師のスキル。フルカニャルリは地形を操るスキルを使い、自分の手を壁から外した後にその地点からシガギュラドがいる地点までの大地を操り、丘のように大地を隆起させる。


 下からの干渉を受けたシガギュラドが足元をグラつかせ倒れる。ブレスは正面にいたオレたちを外れ、あさっての方向を焦土にした。


 バランスを崩した事で自らの口内を焼いたのかシガギュラドが悲鳴をあげブレスが途切れた。シガギュラドの肉はブレスを放った前よりも青っぽく変色し、動きは鈍重になった。



「よく! ヒルコッコ、ぼくとヒグンの位置を取り替えて!」

「はぁい」



 ヒルコッコさんが魔法を使い、フルカニャルリとヒグンの位置が元に戻る。



「今がチャンスだ! 一気に叩きかけるぞ!!」



 ログズバルトさんの号令に冒険者達が応え、シガギュラドの元に殺到していく。一斉にシガギュラドは爪を振るって応戦し、何人かの冒険者は飛ばされるが止まらない。ここが勝負所と言わんばかりに全員が魔法やスキルを使い龍を追い詰めていく。


 シガギュラドは直接冒険者を叩くのではなく大地を巻き上げ、地盤を投げてくる。ここまで追い詰めてもまだまだシガギュラドの抵抗は終わらない。多くの命が散っていく。



「サーリャッ!」

「きゃあ!」



 サーリャの方に飛んできた岩石をフルンスカラさんが庇う。彼の右腕が巻き込まれ潰れてしまう。



「フルンスカラ! いやああぁぁっ!!」

「死んでないから! すまない誰か、俺の腕を斬ってくれ!!」

「え、駄目だよぉ! そんな事したら……」

「この状況で岩の下敷きになっている方が危険だ! 頼む!!」



 フルンスカラさんが近くに居た剣士に頼み腕を切断してもらう。その間にも飛んできた瓦礫をヒグンが、更に先に居たログズバルトさんが弾いて守る。



『イイ加減ッ、倒レロッ!!』



 一度狼化が解ける程ダメージを受けていたルドリカさんが、治療を受けて再び狼化してシガギュラドに飛び付いた。


 攻撃が龍の残った腕に集中する。何重にも強化されたバリアが一枚ずつ、数十の攻撃を受ける事で剥がされていく。



「あぐっ! うぅ……!」

「マル子! どうしたの!?」

「ま、魔力切れです。動けない……」



 やばい、この場面で魔力がすっからかんになってゾンビの補充が出来なくなった。ペタン座りのまま動けない、手足が震えて力を入れようにも分散してしまう。



「お疲れ様。……という事は、ついに私の出番って事よね!?」

「嫌な予感……」

「ふっふっふ。今度こそ汚名返上よ! 大地におわす星の精霊よ! 我が呼び声に応えたまえ!!!」



 魔女っ子コスのキュレルさんが叫ぶと、彼女のマントがたなびくほどの突風が吹いた。彼女の持つ杖の先に、様々な色の魔力が集約していく。



「炎を、剛水を、落雷の力を以て敵を斃す矛を授けよ!! 大魔女キュレルの振るう裁きとして、かの者を撃ち砕け!!!」

「おわすって尊敬語なのにめっちゃ上から目線の詠唱だな」

「うるさいな! 炸裂せよ! 滅殺砲アブソリュートキャノン!!!」



 キュレルさんの持っている杖から、先程のシガギュラドのブレスにも負けない程の高火力の魔力砲が放たれる。



「うおおおおお! シガギュラドの腕が千切れ飛んだぞ!!!」



 キュレルさんの魔法がシガギュラドの腕に当たり、残っていたバリアを容易く破壊し腕を貫通した。発射した当人であるキュレルさんも反動で後ろに吹き飛び、「うぎゃああ!」と叫びながら転がっていた。



「もう!」



 泥だらけのキュレルさんが怒りの声を上げる。



「皆、下がれ!」



 ログズバルトさんの指示が飛び冒険者達がシガギュラドが離れる。



「ようやく、トドメであり」



 フルカニャルリの声がする。彼女はヒグン後からも借りて、ゴムのようにして精一杯に伸ばした糸を束ねた先に居た。


 フルカニャルリからシガギュラドを結ぶ一直線上の冒険者達がはけると、彼女は魔法名を叫ぶ。



「三妖精の悪戯、蛙の冠(アンリフェール)!」



 フルカニャルリの体がポンッと鳴って、ボーリング大の石に変化する。石に変化したフルカニャルリはスリングショットの要領で糸によって射出された。



「蛙の冠解除!」



 飛来している最中に人型に戻ってフルカニャルリを目視で確認したサーリャが指で印を結ぶ。



「呪符、一斉発動!」



 フルカニャルリの肉体に貼り付けられた緩衝の呪符、反発の呪符、緩和の呪符といった数多くの呪符が発動する。



「行くめよヒルコッコ、メチョチョ! 三妖精の悪戯ッ!」



 言っている最中にフルカニャルリの肉体が龍のバリアに当たるが原型は保っていた。何重にも重ねられた呪符の能力によって衝突エネルギーが大分緩和されていた。


 シガギュラドがフルカニャルリの存在に気付きも、両腕がない。噛みつき攻撃をしようとする。が、やはり早かったのはフルカニャルリと、それに続くヒルコッコさんだった。



「胡乱妖精の悪戯」

脱げ(ミリーロア)!」

「曖昧な洞」



 フルカニャルリの魔法がシガギュラドのバリアをツルッと引き剥がし、ヒルコッコさんの魔法によりフルカニャルリの姿が消える。


 護りを失ったシガギュラドの目の前には、それまでずっと姿を隠していたメチョチョが現れた。


 メチョチョはその手に巨大で異形な悪魔の斧、尽斧(じんぷ)ニグラトを握っていた。自分に向けて龍の顎が迫る中、静かに斧を背中側に引いた。



「スキル、弧円月(こえんづき)



 えっ? なんか、メチョチョが急に斧使いのスキルを使い出した。てっきりシガギュラドの顔を切り刻むのかと……。


 エドガルさんもよく使っていた高速移動を可能とするスキル、弧円月でシガギュラドの噛みつきをヒョイッと回避したメチョチョは、そのまま斧を振るいシガギュラドに刃を軽く当てた。



隕鉄斬(いんてつざん)!」



 またもや斧使いのスキルを使い、シガギュラドの胴体に縦一本の切り傷をつけていく。


 シガギュラドの悲鳴が上がり、夥しい出血と共に巨体が地に落ちる。メチョチョは斧を影の中に仕舞い、オレを見てから片腕に魔力を込めた。



「あつっ。痛みあんのかよこれ……」



 メチョチョと魔力の経路(パス)が繋がると、下腹部に熱を感じた。僅かな痛み、筋彫りが終わった後の針を替えてる時の待ち時間みたいな痛みと熱だ。これを毎回感じるんだとしたら悪魔の眷属って結構気合いいるんだな……。



「まま、借りるね」



 メチョチョの手に、この戦場で散っていった冒険者達の涅が集まっていき、指先が黒く変色する。彼女は『死の爪』を発動すると、唸っているシガギュラドの傷跡にズブッと指を沈めた。



「契約、履行したよ」



 小さな声でメチョチョが何かを呟いた。それをオレにも、この場の誰の耳にも届かなかった。


 シガギュラドの昂っていた魔力が落ち着き、魂感応(オリチャ)で見える生体反応が小さくなっていく。



「……お、俺たちの勝ち、か?」



 リカルドさんが言う。



「マルエル!! シガギュラドの生態反応は!?」

「小さくなってる。終わったよ、私達の勝ちだ!」



 ヒグンに問われ答える。数秒を置いて、人類側の歓喜の声が上がった。


 魔力欠乏症に苛まれたオレは、緊張の糸が切れると前のめりに倒れた。心配するキュレルさんと、驚いたような声のヒグンの声が遠くに聞こえる。


 ……まあ、後は皆が上手くやってくれるだろう。今は眠りたい。はあ、疲れたあ……。

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