61頁目「数百人を救ったとして、キモさは打ち消しにはならないね」
「まさか、たったの一撃であの数が殺られたのか!?」
隣にいるエドガルさんに言葉は返せなかった。段々と実感が湧いてくると耳が遠くなったような錯覚を覚え言葉が理解出来なかったのだ。
「あれ程高密度の魔力照射を行ったら暫くは反動で動けないはずめ。なにか次の手を……マルエル?」
「フ、フルカニャ。ヒグンと、メチョチョが……!」
「! あの二人に何かあっためか!?」
「せーーーっふ!!!!」
そんな声が近くの茂みで聞こえた。近づいて見てみると、そこには鏡面のように磨きあげられた綺麗な甲冑を着た冒険者の遺体と、その上に重なるように倒れているヒグンとメチョチョが居た。
「二人とも無事だったのか!?」
「無事じゃないよ! ぱぱ大火傷してる!」
メチョチョが焦った調子でそう言うと、ヒグンの大盾を重そうに持ち上げて退かしてみせた。
彼女の言う通り、ヒグンの右半身がほぼ真っ黒になるほどの火傷を負っていた。
急いで口に手を当ててみる。……何も感じない。口を当てて酸素を送る。少しして、本当に若干だが口の中の空気が動いた。ヒグンは生きている。
「ぱぱ、盾であたちを庇ったせいでこうなったの! でも盾だけじゃ押し潰されちゃうからあたちが咄嗟に盾に反射して繋がっていたこの人の甲冑まで転移してギリギリ助かったの! でも、その時にはもうぱぱもこうなってて……」
「だ、大丈夫だ! 助かるから! メチョチョ、フルカニャと行動して!」
「ぱぱぁ! ぱぱぁ死んじゃやだぁ!!」
死なないと言っていますが。今になって抑えていた恐怖を思い出したみたいだ、メチョチョは泣きながらヒグンにしがみつく。
フルカニャルリとエドガルさんにメチョチョの事を任せ、オレは他の冒険者に掛け合って生存している負傷者を一箇所に集めた。
また攻撃をされないよう『工作員』数名に気配を遮断する決壊を張ってもらい、シガギュラドとは離れた位置で各人を治療していく。
「人数が多いから即時回復系の魔法は温存します! 重傷者から順に治療するので、皆さん互いに意識を繋ぎ止められるようになにか会話をしていてください!」
そう指示して敢えて喋り声の耐えない環境を作る。死の淵を彷徨う重傷者にとって、孤独は心を殺す毒だ。意識を失う事で無呼吸状態になる事もあるからな。出来るだけ、起きている者全員に会話するよう努めさせる。
「卓越した回復魔法の腕ですね。それに手際もいい」
不意に、僧侶と思しき男性が声をかけてきた。彼も腕を負傷し表情に翳りがあったが治療に従事している。
「戦争に参加していた事があって。軍医もしていました。だから、こんな風に沢山の人が負傷し、死んでいく現場には慣れています」
「戦争ですか……?」
「回復魔法なんて使えるんですよ? 見た目通りの年齢じゃない事は分かるでしょう。結構私、年寄りなんです」
「ははは、そうなんですか。ハルピュイアか、天使様か。よく分かりませんが、大変な人生を歩んできたようだ」
「……あはは、まあ」
いや別にそうでも無いけどね。ただ漠然と生きていました。
あと、翼はあるけれど人間です。人間で見た目ロリで400歳超えはおかしいって自分でも分かるから言及はしないけどね。
「こんにちわ〜♡ 皆さん、助けにきまちた〜♡」
!? な、なんだ今の。なんか結構歳いったおじさんの高音幼児喋りみたいなのが聞こえてきた気がしたが。一瞬にして鳥肌立ったぞ。
「あんれまぁ〜見るも無惨な惨状♡」
声のする方に視線を向けると、想像よりも遥かにちゃんとエロ漫画に出てきそうなはち切れんばかりのわがままボディを有した小デブのおじさんが立っていた。
うわあ、なんか蝶々みたいな羽が生えてる。嫌だなぁ……。服装も、なんで下はブリーフみたいなのだけなんだろう、上はちゃんとしてるのに。
関わっちゃダメだわ。目ェ逸らそ。
「むっ? むぅー? むむむ、むぅーーーー♡♡♡♡♡♡?」
「仏様おねがい、今だけ元の世界に戻して」
仮称種付け羽根ありおじさんと目が合う。彼は鼻をフー♡ フー♡と鳴らしながらこちらに近付いてきた。パタパタと羽根を広げて低空飛行しながら。
うん、全てがキモイ。オレは性格悪いので全然その人の全てを見た目で判断します、キモイからこっち来ないでください。頼むから。
「君がここを仕切ってるって事で大丈夫でしゅか〜?♡♡」
「ま、まあ……そういうあんたは? フルカニャルリの呼んだ助っ人の妖精さんで合ってます?」
「合ってましゅよ〜♡」
「ニンニク臭い〜……」
いやさ、こんな状況だからさ? 見た目はキモイけど実は見た目に反したキャラしてるのかなって思ったのよ。
口臭ガッツリニンニク臭いし、目付きが明らかに不審者なんだけど。オレの全身を舐めるように見た後、胸にばっかり目が止まってるもんね。
「その服装を見てすぐに分かったよ〜♡ 人前なのにバニースーツとか恥ずかしくないの? 変態♡ 露出して喜ぶマゾ女♡」
「皆さん目を瞑ってくださーい。断末魔が聴こえても目を開けないでくださいね〜」
「待って♡ 助っ人に来たのにそれは理不尽♡」
「初対面の相手を露出して喜ぶマゾ女呼びする奴を殺してどこに問題があるんですか」
「そんな格好してるのは明らかにおかしいから指摘しただけ♡ 本当は気持ちよがってるんだろ♡」
「ユニークな遺言だなあ。おっけ、苦しませてから殺す」
死の爪を発動し顔面に穴空けてやろうと思ったが種付けおじさんはそれを紙一重で躱し距離を取った。こんな見た目なのに俊敏なのキモいな、次は全力で殺しに行くか。膝を曲げ、構える。
「待って♡ ぽきは敵じゃないにょ♡ ぽきを攻撃するのは同士討ちになっちゃう♡」
「同士討ちか。人間語に詳しいな? 次はあの世で、意味を理解する勉強をしよう」
「生意気なメスガキめ♡ 分からせてやる♡」
「なあ、流れの都合上そこで自分の潔白を証明しなかったら本当にただの種付けおじさんじゃんお前。売り言葉を買ってどうすんの。ガチで殺しに行くよ?」
「分かった分かった♡ 冗談はさておきまちて♡」
気持ち悪い上擦ったおじ高音でそう鳴くと、種付けおじさんはブリンブリンの腹肉を揺らしながら自己紹介を始めた。
「ぽきの名前はパーン♡ 医神パエオンの直系の妖精でしゅ♡ 盟友の……フルカニャルリのお願いで、この戦いで出る負傷者を治療しに来たにょ♡」
「キツイなあ……」
以前、冗談で妖精は変態で構成されているのかみたいな事を言ったことがある。
自分の尻を人に見せつけて、触られたら喜ぶフルカニャルリ。
見るからに種付けおじさんの見た目をしていて、ちゃんと人の陰部ばかり見てきてセクハラ発言までしてくるパーン。
妖精の知り合い全員変態である。あーあ、妖精のブランドイメージが地の底這い進んでるわ。
「って、医神パエオン? お前、パエオンの直系なのか?」
「そうだにょ〜♡ ぽきの原型は偉大なる医療の神パエオンなんでちゅ♡ だからぽきも、人を癒すのは大得意なんでちゅよ♡」
「癒すのが得意なのか。じゃあなんでこんなに吐き気を催させてくんの、お前」
「わからせがいのあるメスガキだ♡」
「刺すね?」
普通にナイフを抜いて地面と水平になるように腹に刃先を押し付ける。パーンは両手を上げて「おたすけ〜♡」と言っていた。肉が厚いからなあ、まずは横に切り開くか。
「っとと、そんな話をしている場合じゃなかった♡」
パーンがそう言うと、両手を合わせた。手指を動かしてハートを作ると、その内側になんか濁ったようなピンク色の光が宿る。
「……おい。てめえそれ、催眠とかそういうのじゃないよな」
「催眠? 違いまちゅよ〜♡ お仕事を全うしまちゅ、一旦生きている皆しゃんを回復させま〜しゅ♡」
「は? たった一人で? 無理でしょ、何人いると思ってんだ」
「道化の揶揄、愛の挨拶♡」
魔法名を口にすると、パーンの手元からピンク色のハート状の光が広がっていき、それは結界を優に超えてシガギュラドが居る位置のギリギリにまで広がっていった。
そして光がパンッと泡のように弾ける。
「……っ、う。なんだ……?」
「え!?」
半身が3度熱傷にまで及んでいたヒグンが、何事も無かったかのようにケロリとして立ち上がる。……火傷の痕がすっかり無くなっている。火傷を負う前との変化は髪型くらいしかなかった。
そんな、今の一瞬でこの状態の人間を治したのか?
それだけじゃない。周囲の人間も皆、何事も無かったかのように立ち上がる。結界の外、運びきれなかった怪我人や見つけきれていなかった人らの負傷まで完治している。
「う、嘘だろ……不特定多数を認識しないまま自動的に対象を取って、必要な措置を自動的に行った……? いくつも必要な段階を飛び越えてる、有り得ないだろ!?」
「他の精霊の魔法って見た事ないんだ♡ 無知シチュだ、燃えてきたぞ♡」
「一応言うと、私でもお前を殺すくらいは出来るからな」
「うそうそ♡ 冗談だって♡」
一々煽りを入れてくるなコイツ。なんでもいいけどキショ高音やめろまじで。
「今の魔法、なにか副作用とかないのかよ」
「副作用? ないよ♡ 少なくとも掛けられた相手にはねん♡」
「あ? あんのか、なにか」
「何言ってんだよ♡ 一度に広範囲、触れた命ある生物全てを無尽蔵に全快させる魔法なんだゾ♡ 魔力消費が激しいに決まってるだろ♡」
「それはそうだろうな。妖精ってんだから魔力量は多いだろ」
「むしろ妖精の魔力量は人間よりも少ないくらいだっつーの♡ ナマいってんなよガキ、わからせるぞ♡」
「わからせるのはこっちが聞きたいことだけにしろ。つまり何が言いたいんだてめぇは。誰に副作用があるってんだよ?」
ずーーーーっと人の胸とか股とかに視線を交互させるこのクソ種付けキモジジイ妖精を睨めつける。要注意人物すぎる、フルカニャルリにもちゃんとコイツとの交流は断ちなさいって言っておこう。
「魔力量が圧倒的に足りないからぽきの魂を削って補填してんだよ♡ そうでもしないとこの人数は手に負えないだろ♡」
「は? 魂?」
妙な事を言い出した。
……確かに魔力消費の原理は段階に分かれていて、魔力が切れたら次は活動する為のエネルギー、いわゆる気力や活力といったものを魔力に変換する。更にそれらのエネルギーが生命活動に支障きたす段階に来たら、次は肉体の組織を削っていき、最後に魂を消費するというのが通説だ。
その説を鵜呑みにするなら、コイツは見ず知らずの人間達を助ける為に少しも悩むこと無く自身の肉体をリソースに使ったという事になる。命をかけるような相手でも無いのに命をかけて助けた事になるのだ。
「……お前、なんなんだ?」
「ぽきはパーン♡ 癒しんぼナース妖精のパーンおじしゃんでちゅ♡」
「本当にキモイ。そうじゃなくて、なんでそこまでするんだよ。あんた、ここに居る人らになにか恩義でもあんの?」
「無いよ♡ 一人を除けば全員知らない人だし♡」
「じゃあ、人間って種族に思い入れがあるとか?」
「思い入れ……というのがまず分からないんだけど♡ 他人を助けるのに理由なんて一々考えるんでちゅか〜? ぽき、あんまり深く考えてないからそんな事聞かれても困るんみゅ♡」
……なんだ、そりゃ。特に深い理由もなく、死の瀬戸際まで自分をリソースにして赤の他人を助けたのか? 自分にとって善人になるか悪人になるか分からない不特定多数の他人を?
「……フルカニャルリの口ぶりだと、妖精は人間がするような自己犠牲って行為は皆嫌いなんだと思ってた。そんなことも無いんだな」
「自己犠牲は嫌いだよ〜? 誰かの為に命を使うとか、動物の理に反してるちぃ♡」
「いやあんたバリバリ自己犠牲してたじゃん」
「は? してないが? ぽきは助けを求めてる連中が居たからふらっと立ち寄り、なんとなくで皆を治してあげただけ♡ 誰かの為にとかそういうのじゃないちぃ♡」
「………………?」
「それが妖精っていう生き物なんだみ♡ 深く考えるな♡ メスガキはち♡ぽの事だけ考えてろ♡」
反応しない方がいいな。無視無視。
だが、妖精がなんとなくの意思でやる自分の身を削った善意的行動は自己犠牲にはならないんだな。そこだけ切りとったら慈善者の鑑だ。コイツにそんなポジティブな印象は持ちたくないが。
「おいなんだその顔♡ 生意気なつるぷにボディのメスガキの癖にいやらしい駄肉を二つもぶら下げやがって♡ 乳ガキが、そんなに搾られたいのか♡♡ あんまり見つめてると求愛孕孕ゲームしちゃうぞ♡」
「コイツは行動の結果を鑑みずに悪と断定していい奴だな、うん。そのくらいの倫理破綻者だわ。皆さん、目え閉じて耳塞いで〜」
「マルエル、この変なおじさんは誰だ?」
「ただの危険な変なおじさんだ。気にするな」
「???」
キモオジ妖精は負傷者を全員完治させた事で今日の役目は全うしたと言い、すれ違う女性にセクハラをカマしながらかもパタパタと帰っていった。もう二度と会いたくない。
「しかしあの変態親父のおかげで即死した人間以外は治療出来たが、それでも数が減ったな……」
初めは1000人とか居たという冒険者ももう半分程度まで減少していた。とてつもない犠牲者数だ。
「シガギュラドの肉体にも数多の負傷は見受けられるがまだ致命傷には全然届いてないしね……」
「遠距離戦向きの上位冒険者の過半数はさっきの熱線で軒並み削られた。残ったのは近接戦闘者と中位以下の冒険者ばかりだな……」
浄域龍シガギュラドから離れた位置まで退避した冒険者達は士気が下がっている。
圧倒的な攻撃性能と防御性能を誇り、オマケに意味不明な瞬間移動まで備えた相手。人間が束になっても勝てないのが道理だ。満身創痍になるのは当然である。
「戦場の光景は死屍累々、これでやる気が出る方がおかしいって話だわな……」
シガギュラドはまだブレス後のクールタイムなのか動かずにじっとしている。そこは普通の生物と同じで、高すぎる熱を放った後は常温まで体を冷やし活動出来るようにする必要があるみたいだ。
「ここにいためか!」
「ぱぱ! ままぁ!」
「よぉお前ら! 怪我人の治療よくやったぞってパパママァ!?」
「あ、あはは……」
待機していたフルカニャルリ、メチョチョ、エドガルさんと合流する。エドガルさんはメチョチョのオレらに対する呼び方に驚いていたが、過程を説明するのが面倒臭いので「ただの呼び方で深い意味は無いです」と言って流しておいた。
「此奴らがニャンの言っていた家族ってやつかの?」
フルカニャルリの後方から聞き慣れない幼女の声がした。ジジイ口調だ、のじゃロリってやつか?
現れたのはフルカニャルリよりも更に小柄な、足元まで伸びる長すぎる青いギシギシの髪を持った幼女だった。
「そうめ。こちらがヒグン、ぼくの旦那さんめよ」
「旦那!?」
おっと、エドガルさんが反応した。信じられないものを見るような目付きでヒグンとフルカニャルリを交互に見る。
ヒグンは自信満々に鼻を鳴らすとフルカニャルリの傍までよって普通にエナメルビスチェの中に手を突っ込んだ。
フルカニャルリが「あんっ、ん……っ」って喘いでる。胸を直で揉まれてるようです、ヒグンもさっきの変態親父と同類でしたね。
「ヒグン、俺今お前の事軽蔑してるぞ……」
「何故です? フルカニャルリは素敵な女性だ! 子供扱いはやめてもらいたい!」
「違う違う、フルカニャルリはいいよ。お前の行動に全面的に引いているんだ」
「何故です? こんな素敵な女性なんだ。胸くらい揉みますよ!」
「きゅぅっ!? つ、摘んじゃだめぇ……っ」
フルカニャルリがビクビク身を震わせて悶える。でも決して嫌そうにはせず、フルカニャルリはヒグンに身を寄せ瞳を愛おしそうに見つめていた。
すごいなあ、やった後の男女の距離急接近現象じゃん。これだから童貞処女のセットは……。ビギナーになった途端に天然で見せつけてくるからいけねえ。
深い深い溜め息の後、エドガルさんはオレに目を向けた。意図を組み、ヒグンの尻を蹴り飛ばしてフルカニャルリから離れさせた。
「ふぅーっ♡ ふぅー……♡」
「おい語尾ハートマークやめろ。お前の知り合いのせいでそれに対する嫌悪感すごいんだよ」
「わ、わかり……んぅっ♡ ふぅ。……ん? 知り合いって誰のことめ?」
「パーンってやつ。お前みたいなロリに催眠かけて孕ませたり調教してたりしそうなヤバいおっさん妖精」
「そんな奴知り合いにおらず。気持ち悪い」
フルカニャルリはピシャっとそう言い切った。アイツの妖精界隈での立ち位置が何となく透けて見えたな〜今。一方通行な友人関係であることはまず間違いないだろうな。
「と、今ぼくと会話をしていたこっちのが、ぼくと同じくヒグンの妻のマルエルでありな」
「妻!? 二人目の!?」
「い、いや、妻って別に結婚してないしアレなんですけどね……!」
「でも子供は仕込んであるめ」
「子供ーっ!? こんな子供に、子供を……ヒグン!?!?」
「フルカニャ。事態をややこしくするな……」
またしてもエドガルさんが驚愕しオレとヒグンを交互に見る。ヒグンは自信満々に鼻を鳴らすとオレの近くまで歩み寄ってきた。
「触ったら殺す」
「ふむ。じゃあ……」
「嗅いだら殺す。噛んだら殺す。舐めたら殺す。囁いたら殺す。余計な事を言ったら殺す。殺されるような事をしたら殺す」
「……ニャン、あの二人は本当に想い合っている同士なのか?」
「うむ、そうであり」
「複雑じゃな〜」
フルカニャルリのお友達は腕を組んで首を横に傾けていた。にしても凄いな髪の長さ、目とか見えないじゃん目隠れだ。目隠れのじゃロリ妖精って事? 属性盛るねえ。
「皆、紹介するめ。こちらはぼくの友達のシャクラッチャであり」
「儂は妖精郷序列6位のシャクラッチャじゃ。雷帝イングラッドの直系で雷を司っておる。よろしくの」
シャクラッチャさんが気さくに握手を求めてきた。神じゃなくて帝様の直系なのか。いや、まあ帝王ってのもすごい立場の人なんだけど、神と比較するとスケールダウンして感じるなあ。
「うわっ!?」
彼女と手を合わせた瞬間、バチバチバチッ! と青白い火花が派手に手の間に散った。痛みはさほどだが、凄まじい静電気だ。
「呵呵呵呵っ!! 引っかかったの〜! やはり人間はみな単純じゃ、愉快愉快」
「んだこのクソガキ……?」
オレの反応を見てシャクラッチャさんは腹を抱えて笑っていた。他の連中も食らったらしく、あははと同情するように笑っていた。言えよタコ。
「あたちは見破ったけどね!」
「悪魔は些細な悪戯にも乗らんから好かん。面白みのない奴らじゃの」
「む〜っ! 口悪い!!」
「まあまあ、メチョチョもシャクラッチャも落ち着くめ。今はぼくらで喧嘩している場合ではなくめよ」
フルカニャルリがそう言い、遠方に居るシガギュラドの方を向いた。
「あの龍の脅威はやはり凄まじく、人間の命が失われすぎため。今はぼくが呼んだ助っ人が相手してくれているから抑え込めているけど、いつまで膠着状態が続くか分からないめ。今の内に、なにか作戦を立てるべきであり」
「さっきから動かないのは妖精さん達の協力のおかげだったのか」
思いの外助っ人は結構来てくれたんだな。フルカニャルリは妖精には人情とかそういう感覚は無いと言っていたが、状況が状況だから底抜けに良い奴ばかりって印象を抱いてしまうな。
「儂は基本連帯行動向きの能力では無いから作戦はそちらで勝手に立てておれ。シガギュラドを見張っておく、動きがあったら伝えよう」
「ん、ありがと」
フルカニャルリとシャクラッチャが短くやり取りを交わす。こんなフランクな感じのフルカニャルリはなんか新鮮だな。若干ドライな感じ、素っぽい。
オレ、ヒグン、フルカニャルリ、メチョチョ、エドガルさんでエンジンを作り互いに意見を言い合う。災厄が再び動き出すまでの時間は、刻一刻と迫っていた。




