99 〈セファリススピン〉
セドルドの町は高さ五メートルほどの壁で囲まれている。結構厚みがあって、どうやら物見台も兼ねてるらしい。
自警団団長のお婆さん、ケイトさんに続いて私達四人もそこに上った。
平原に展開した熊神部隊を確認する。
体長八メートル級が二十数頭に、その倍くらい大きな熊が一頭。ビッグサイズの熊神は頭部から太い角が生えているね。
「な、なんて数じゃ……。【猛源角熊】まで来ておるとは……」
野良神達を見渡しながらケイトさんが呟いた。
情報によれば、熊達は【猛源熊】という種類だとか。沢山いる八メートル級がそれで、角熊は進化形だ。
熊族の中では中位程度で、野良神は同じ種で群れを作るのが一般的みたい。
この【猛源熊】の一団はかなり大規模な群れ、のはずなんだけど……。
「たったあれだけ……。期待外れです……」
さっきまでいきいきしていたロサルカさんが途端にしょんぼり。
そう、事前の調べだと熊神は百頭近い群れのはずだよ。なんせこの空白地帯を牛耳る勢力の片割れだから。
ここで、遅れていた自治会長のケイアンさんも、息を切らして壁の上に。
お母さんより全然体力ないじゃないですか。
「な、なんて数だ……。【猛源角熊】まで来ているとは……」
それ、先にお母さんが言いましたよ。
でも、やっぱり親子なんですね。
「たったあれだけなら私一人でいけるわ! 皆はそこで見てなさい!」
セファリスが壁からピョンと跳んだ。
着地と同時に双剣を抜き、〈アタックゲイン〉と〈スピードゲイン〉を発動。
お姉ちゃん、まだ〈ガードゲイン〉は習得できてないんだよね。
マナの使い方には人それぞれ個性があり、それによって適性なるものも生まれる。お姉ちゃんのマナは、攻撃と素早さに大きく偏っているよ。
逆に言えば、防御が相当弱いけど、今回は大丈夫だろう。
地面を蹴ったセファリス。
高速で駆け、【猛源熊】の一頭に取りつく。
相手が反応を示した時には、もう火の魔剣でその胸を突いていた。
巨体がグラリと傾いた頃、彼女はすでに次の熊神へ。
吹き抜ける風のように、次々に熊達を斬っていく。
向こうはお姉ちゃんの動きに全くついてこれない。仮に攻撃をもらっても、このクラスの神獣ならお姉ちゃんの守りでも心配ないと思う。
「セファリスだけにやらせるか! 私も行くぞ!」
竜のオーラで空中に浮かび上がったキルテナ。
その体の周りを水が駆け巡る。水流はすぐに激流へ変化。
神獣は五種類の神技を持っていて、それぞれ異なる属性を割り当て、全属性を扱えるようにするのが王道なんだって。
キルテナの〈息〉は雷属性、〈爪〉は火属性。
そして、今使っているこれは〈水の突進〉だ。
「突撃だ――――っ!」
激流を纏ったキルテナは、熊達に向かって一直線に飛ぶ。
一頭に体当たり。勢いは止まらず、そのままもう一頭。
パッキィィン!
炸裂した水が瞬時に凍結し、二頭を氷漬けにした。
地面に降り立ったドラゴン少女に、さらに二頭の熊神が襲いかかる。
「ふん、格の違いが分からん愚か者共め」
と彼女はマナの尻尾で大地をビタン。
突如出現した巨大な石の杭が熊達を……。
あれは〈地の尻尾〉だね。
私も以前、同じような岩のトゲトゲを受けた気がするよ。
「……何だ、あの子達は。人間なのか……」
「だから言ったじゃろ、化け物じゃと。わしから見ても人間技ではないがの……」
そう話すケイアン、ケイト親子。
あ、一人は本当に人間じゃありません。
瞬く間に四頭仕留めたキルテナが、熊から熊へ跳び回るセファリスに目を。
「ふふ、範囲攻撃がないと大変だな。ふふふ、セファリスが使える攻撃技、〈オーラスラッシュ〉だけだもんな」
「お姉ちゃんをなめてんじゃないわよ! 見せてやるわ! 私が編み出した秘奥義〈セファリススピン〉を!」
セファリスは熊の頭から天高くジャンプ。
空中で横回転しながら、両の剣で〈オーラスラッシュ〉を放つ。
シュババババババババ――――――――ッ!
全方位に、間断なくマナの刃が飛んでいく。
バタバタ倒れる【猛源熊】達。
逃げ惑うキルテナ。
「いてててててっ! ふざけんなー!」
お姉ちゃん、何その無差別攻撃。
よし、ここはあの二人に任せておこう。
評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。
誤字報告、とても助かっています。
「対照的」なんて完全に間違えて覚えていました。
「絶体絶命」は意識しないと絶対「絶対」になってしまいますね。
あとは「しかめる」。
しかめるのは顔。ひそめるのは眉。でしたね。
言った傍から「と」が抜けて……。
直しました、有難うございます。
ご報告いただいて変わっていない部分は作風とお考えください。
次回は100話ということで、久々にいいねランキングを。










