84 〈トレミナゲイン〉
強化技能の修行に入った私。ジル先生にアドバイスをもらいつつ、〈アタックゲイン〉を十日で、〈ガードゲイン〉を五日で、〈スピードゲイン〉を二日で習得した。
まさに先生の予言通りピッタリの日数。さすが私の師匠だ。
その後、頼まれた全強化技能の製作に取り組むことにした。
要は各ゲインをつなげればいいんだけど、これがなかなか簡単じゃない。配分比率や接合の仕方を少しでも誤ればすぐに頓挫する。
全強化は過去にも世界のあちこちで作られていた。
しかし、どれも効果は今一つ。あまりに微妙なものばかりできるので実現は不可能と言われたほど。
微妙であっても開発者達は相当な苦労をしている。しばしばこう例えられた。まるで暗闇の中を手探りで歩いているようだ、と。
この表現は結構当たっているらしいけど、私の場合は大分違う。
会議室で何とか皆の意見を取りまとめ、なだめすかす。私はそんな感じ……。
~ 第156回ゲイン会議 イン 私の精神世界 ~
皆さん、そろそろ一つになってくれませんか?
比率は前回確定したでしょ。
また蒸し返さないでくださいよ、〈ガードゲイン〉さん。
『むぅ……、ですが私の割合が一番少ないのはやはり納得が……』
少ないと言っても、最も多い〈アタックゲイン〉さんとの差は1パーセントもありませんから。ここはどうか堪えて。
『そうですよ、〈ガードゲイン〉。わがままを言うものではありません』
もう〈アタックゲイン〉さん、火に油なのでやめてくださいって毎回言ってるでしょ。分かってます? あなた方が折り合わないせいで、今までどれだけの研究者が泣きを見たか。
やっぱり間には〈スピードゲイン〉さんに入ってもらった方がよさそうです。
『了解しました。ほら、二ゲイン共、あまりマスターを困らせるものではありませんよ。さ、私とくっついて』
『ですが私はまだ納得が……』
もう、いい加減にしてください、〈ガードゲイン〉さん。一つになれば全部あなたなんですから。とりあえず引っついてみましょう。さあ。さあ。
『マ! マスター! 押さないで……!』
ふー……、まったく困ったゲインです。
おや? どうしました、〈アタックゲイン〉さん。
『それがうまく接合できないのですよ』
え、そんなはずは……。ああ、下のところ、間違えてますよ。
そこは第118回の会議でやり方を決めたでしょ。
『そうでした、えーと、こうでしたね。はい、接合完了です』
では、〈スピードゲイン〉さんの合図で合体してください。
『いきますよ、二ゲイン共。せーの、合体!』
――――。
状態はどうですか?
『はい、かつてないほどに安定しています。マスター、今回はいいのでは?』
ですね、マナ消費対効果もこれまでの最高値を示しています。
成功と言っていいかもしれません。二千六百十五回目の合体にして、ついにですね。
『それではマスター、私に名前を付けていただけませんか?』
分かりました、……オールゲイン、なんてどうです?
『ありえません。実質的に一択だと思います』
…………、……トレミナ、ゲインで。
『了承されました。私は今から〈トレミナゲイン〉です!』
じゃあ早速ですみませんが、あなたの分身である結晶を二つほど作ってもらえますか?
『お安いご用です。ところでマスター、私は世間のゲイン事情もマスターを取り巻く環境も存じています』
〈トレミナゲイン〉さんは私の意思が派生したもので、記憶も共有していますからね。でも、それがどうしたんです?
『私は確信しているのですよ。私の分身達は、マスターがお住まいの国に大いに貢献できると』
…………? はい、頼りにしていますよ。
『ふふ、マスターもすぐにお分かりになりますよ』
……どうして技能が私より先を読んでいるんだろう?
あ、おっとりしてないからか。
~ 現実世界 ~
とりあえず出来たし、リズテレス姫とジル先生に提出しよう。二か月も掛けたから、ちょっとは評価してもらえるといいな。
二人は習得に数日要するらしいけど、解析自体は一時間ほどで終わるというので、理事長室で待たせてもらうことにした。
姫様、学園の理事長だったのか。何となく、そんな気はしてたけど。
窓から校庭を眺める。
季節はもうすぐ夏。私の好きな季節だ。
今頃、ノサコット村ではジャガイモの収穫最盛期を迎えているだろう。今年の出来はどうかな。ゲインよりそっちの方が気になる。
おっと、ごめん、〈トレミナゲイン〉さん。
二十分ほど経った頃、リズテレス姫が突然ガタンと椅子から立ち上がった。
「……これは、大変なものだわ……!」
執務机から飛び出すと、ソファーのジル先生に迫る。
「ねえジルさん! 大変でしょ!」
「いえ、私はまだ時間が……、そこまでですか?」
「そこまでよ! 早く! 早く見て!」
「せ、急かさないでください……」
それからさらに二十分ほど経ち、ジル先生もソファーを立った。
「……確かにこれは、大変ですね……!」
姫様と先生、揃って窓辺の私を見る。
そんなに、大変ですか?
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