82 ドラゴンバーガー
新学年が始まって一か月。
私とセファリス、キルテナは寮を出て一軒家を借りることにした。
理由は色々とある。
お姉ちゃんが買い物しすぎて、物が部屋に収まりきらなくなったから。
お姉ちゃんとキルテナが頻繁にケンカして物を壊すから。
キルテナが頻繁に寮の食料を盗み食いするから。
……寮にいられなくなった、と言った方が正しい。
お金には余裕があるので、結構大きい家を借りた。
いずれジャガイモを植えようと思って庭は広め。あと、キッチンもかなり広いよ。これは家を選ぶ際の大事な条件だった。
最近、私の元にはしょっちゅう巨大な肉の塊が持ちこまれるもので……。
主にチェルシャさんだけど、ジル先生とロサルカさんまで持ってくるように。
それで皆、調理のお礼にって肉を分けてくれるから、うちの大型冷凍箱(冷却箱の強化版)には稀少肉がぎっしりだ。
今日は初めてナンバー10のライさんがやって来た。
リオリッタさんに食べさせるハンバーガーを作ってほしいとのこと。
彼女は私と姉のせいで二度もランキングが下がっているので、受けないという選択肢はない。
大量のハンバーグを作り、冷凍箱に入れて渡した。
それとスパイシーなソースのレシピもね。ピリ辛で神獣の肉だってことを誤魔化すらしい。さすがにマナとか増えたら分かると思うんだけど。
でも、ライさんはどうして十位なんだろ。
実力的にはリズテレス姫と同じくらいなのに。不思議な人だ。
そういうわけで、我が家の夕食もハンバーガーになった。
付け合わせはピクルスとフライドポテト。
ポテトを付けないという選択肢はない。
真っ先にドラゴンバーガーにかぶりついたのはキルテナだった。
躊躇なく共食いを。しかも元同僚でしょ。
「人間の価値観で計るな。魂の融合は崇高なるものだ。同族であることは、むしろ望ましいことだぞ。しっかし、うまいな。何個でもいけそうだ」
崇高なる野蛮な神は食欲旺盛だね。
ハンバーガーに次々手を伸ばすキルテナを見て、セファリスが吠えた。
「あんた! 囚われの身のくせに何がつがつ食べてどんどん強くなってるのよ!」
言われてみれば確かに。
「けちけちするなよ。いっぱいあるじゃないか」
「稀少肉は平等にね。ほら、ポテトもいっぱいあるから」
とドラゴン少女の皿にフライドポテトを盛った。
「えー、肉くれよ肉。ポテトなんて」
私はスッと彼女の顔を覗きこむ。
「ポテトなんて、……何?」
「……ポ、ポテトなんて、……大好きだ。……Ⅱは許してくれ……」
よかった。お姉ちゃんはあまりイモを食べないから、キルテナは好きでいてくれて嬉しいよ。
すごい勢いでフライドポテトを。
うんうん、本当に好きなんだね。
彼女はピタッと手を止め、ゆっくりこちらを見た。
「……ハンバーガーも、食べていいでしょうか?」
「もちろん、どうぞ」
「はぁ、大変なものを踏んだ気がする……。けどこのハンバーグ、マジでうまいな。さっきの美人の兄ちゃん、甲竜系の肉って言ってたのに。防御力の高い甲竜系は肉も硬くて美味しくないんだ、普通は」
「硬い肉質でもミンチにしてハンバーグにすれば、程よい歯ごたえになって美味しいんだよ。ジル先生が適度に脂の乗った所を選んでくれたし」
話を聞きながらバーガーを齧っていたセファリスがふと。
「キルテナって何竜なの? そういえば」
「私は【世界樹大竜】だ。神獣の中で一番巨大になるぞ、ゆくゆくは」
「体に木が生えてるの? へんてこなドラゴンね」
「生えてるか。偉大なる世界樹で生まれ育った、高位の竜族だ」
キルテナは今、一次進化の最終段階にいる。
【世界樹子竜】
↓
【世界樹竜】
↓
【世界樹大竜】
【世界樹魔竜】
【世界樹角竜】
【世界樹甲竜】
【世界樹毒竜】
この後は他の竜族と統合されて、大竜の二次進化ルートを進む。
現在、ドラグセンにいる守護神獣はほぼ全て二次進化形態。
それも当然。
一次進化形態では修羅の森を抜けられないことは人間だって知っている。
「だが! 私は成し遂げた!」
誇らしげに胸を張るキルテナ。
でも言い換えれば、守護神獣の中で最下級ってことじゃない?
トレミナファミリー、あと一頭くらい増やしたいところです。毛のあるの。
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