65 〈トレミナボールⅡ〉
「闇霊よ、しばらく刃に宿ってください」
ロサルカさん、また「しばらく」ですか。その意図は分かりますけどね。
彼女はブオンブオン大鎌を振り、連続で〈ダークスラッシュ〉を放ってきた。
私は〈闘〉からさらに纏うマナを増やす。
闘技場の壁に沿って走り、闇の波動をかわしていく。
受けたらマナを吸収されて、ますますロサルカさんを優位にしちゃうから。
ここから反撃に、ともいかないわけだけど。強化した〈トレミナボール〉でさえ、吸収の上、回避されてしまう。
うーん、どうしたものか。
ジル先生に目をやると、さあどうしますか? という顔。
楽しんでらっしゃる。
この試合自体、私を試すもののような感じがする。
ロサルカさんはまだ本気を出していない。使っている技能もたぶん基本中の基本。その気になれば容易に私を倒せると思うんだよね。
二人共、私に何を期待しているの?
とにかく、降参します、は通用しないということだ。
勝つ方法は、分かってはいる。
それは、大技で一気に仕留める。これしかない。
ロサルカさんって間違いなくナンバーズだろうけど、ジル先生より上には行けていない。先生も彼女と戦う時は強力なので早々に決着させるはず。時間が経てば立場が逆転しかねないから。
と攻略法は分かっていても、なかなか簡単にはいかない。
何しろ私にはそんな大技はないので。
ないので、今から作るよ。
実は私、もう〈トレミナボール〉だけの女じゃない。
あと一つ使える戦技がある。〈気弾〉だ。掌からマナ玉を撃つ技で、〈放〉を習得したからできるかな、と試していたらできた。
そう、マナ玉を掴んで投げる〈トレミナボール〉はこれの強化版になる。
威力で劣る〈気弾〉が何の役に立つのか、と思われるかもしれない。
ところが、とても役に立つんだよ。〈トレミナボール〉と合体させることによって。
「どうしました、トレミナさん。もう打つ手なしですか?」
駆け回っているだけの私に、焦れたロサルカさんが。
「物事には順序があります。今から核心に入りますから」
「え? はい、お邪魔をしてしまい、申し訳ありません……」
では気を取り直して。
〈トレミナボール〉は構築した後は投げるだけ。手から離れるまでの間に別の技能を挿む余地がある。つまりその間に〈気弾〉の発射準備に入り、両者を融合させることができれば……。
なお、合体は絶対条件。
〈気弾〉の速度 = 〈放〉による速度
ボールの速度 = 〈放〉による速度 + 投擲による速度
同時に放っても〈トレミナボール〉時間差〈気弾〉になってしまうよ。
二つを一つに出来て初めて、新たな必殺技と言える。
とりあえず、やってみよう。
まずは精一杯のマナ玉を作成。
これを持っている手に〈気弾〉用のマナを集める。
そして、両方をくっつけて……、あれ? くっつかないな。
マナ玉の方は完成して独立しちゃってるからか。
どうしようかな。
……玉に自分のマナだと誤認させるといいかも?
~ 私の精神世界 ~
ちょっと〈トレミナボール〉さん、まだあなたのマナが残ってますよ。
『いえいえ、それは私のマナじゃありません。全然違います』
え、本当ですか。待ってくださいね……。
これでどうです?
『やや、私のマナがこんな所に、……と思いましたが違いますね』
……厳しいですね。
じゃあ……。〈トレミナボール〉さん、今度こそどうですか?
『おお、私の半身がなぜそこに。しっかり引っつけておかないと』
よし、同調成功。
今、〈気弾〉のマナはボールと私の双方に属している感じだ。
あとはボールが手を離れる瞬間に〈気弾〉を発射すればいい。
あ、〈オーバーアタック〉使ってない。今回はいいか。
それでは、新必殺球、参ります。
「あなたっ!」
叫んだのはジル先生。
この時、私は初めて先生の〈全〉を見た。
どうしたんだろう?
もう投擲動作に入ってるし、投げちゃいますよ。
ロサルカさんめがけてマナ玉を投げた。と同時に〈気弾〉を発射。
新技、〈トレミナボールⅡ〉。
シュパッ! ドッシュ――――――――!
放った刹那、ボールから衝撃波が。
しまった、劣勢だったから考えてなかった。この球は、やばい。
なんて思う暇はなかった。
私、とうとう人を殺して……。
しかし、いつの間にかジル先生が庇う形でロサルカさんの前に。
マナ全開の状態で球をキャッチした。
「くっ! 止めきれない! ロサルカ! 吸収!」
「は! はいっ! 全力で吸います!」
ロサルカさんの〈闇の護り〉が両手を伸ばすように、先生が抑えこんでいるマナ玉を包みこんだ。
その闇の結界、形状変化できるじゃないですか。
嘘つきましたね、ロサルカさん。やっぱり食えない人だった。
と見ている間に私の新必殺球は消滅した。
ジル先生は一息ついたのち、私をキッと睨む。
「……トレミナさん、何を投げたんです?」
……〈トレミナボールⅡ〉です。
何と言えばいいか分かりませんけど、……ごめんなさい。
イメージ的にはボールにジェットエンジンを付けた感じです。
しかし、〈トレミナボール〉さん……。
カオスですが、トレイミー家秘伝の才能です。
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