32 成金少女
トーナメント大会の翌日。
学生は今日から一か月程度の休みに入るけど、私の日常は変わらない。
いつも通り学園に登校し、ジル先生と剣の手合わせ。私は型が身につき始めたところで、日々の稽古を怠らない方がいいらしい。
「純粋な武術の腕は、トレミナさんは騎士の中では平均レベルです。自惚れてはなりませんよ」
「自惚れませんよ。昨日騎士になったばかりなんですから」
「マナの量や操作力、精神の安定性を加味すれば上位に入ってきますが、まだ上がいます。決して自惚れてはなりませんよ」
「自惚れませんって。先生にも全く勝てそうにないんですから」
「当然です。私は副団長、ランキング二位ですよ」
打ち合いながらお喋りするのもいつものことだ。
しばらくして、「ところで」と先生は手を止めた。
「姫様から異世界の話は聞きましたね?」
「はい、転生者の方達にも会いました」
「言っておくと、そこまで姫様のご計画です。あの方々の事情を知るのは王国でもごくわずか。あなたは最高位の国家機密を聞かされたのですよ」
「それってどういう……」
「もう易々とは逃げられないということです」
……聞かなきゃよかった。
確かに、この国の建国者が異世界人なんて大変な秘密だ。
どんどんリズテレス姫の術中にはまっていく気がする……。
私が事の重大さを理解したのを見て、ジル先生は笑みを浮かべた。
「では、今日の訓練はここまで。あなたが帰郷するまで毎朝やりますよ」
「……了解です。あ、セファリスがまだ帰ってこないのですが」
結局、一晩明けても姉は戻らず。
いったいいつまで訓練しているのか。
「レゼイユのバカが連れていったのでしたね。……まあ、生きているでしょう」
「え……」
セファリスが帰ってきたのは、さらに翌日になってだった。
服は一昨日のまま。あちこちほつれてボロボロに。
鮮やかなオレンジの髪は少しくすんでボサボサに。
彼女は私の顔を見るなり泣き出した。
「うぅ! お姉ちゃん、もう二度とトレミナに会えないかと……っ!」
どうやらこの二日間は訓練なんて呼べるものじゃなかったみたいだ。
レゼイユ団長は国中を巡って野良神を狩っていたんだとか。連れ回されたセファリスは何度も死にそうな目に。
騎士の上位ランカーは度々応援要請を受ける。一位ともなればそこかしこから声が掛かるだろうし、神獣も手強くなるに違いなかった。
「お姉ちゃん、結構マナ増えてない? 神獣食べたでしょ」
「それしか食べる物がなかったのよ!」
「とりあえずお風呂に入ってきて」
何はともあれ、姉が無事でよかった。ようやく村にも帰れる。
私の騎士の任務も休みが明けてからでいいと言われているので、一か月のんびり過ごせるよ。ジャガイモが私を待っている。
でも、発つ前に皆へのおみやげを買わなきゃ。
一番喜ばれるのはやっぱり魔法具だ。
その名の通り、魔法が付与された道具で、すごく便利。例えば、炎を出す火炎板や、入れた物を冷やせる冷却箱など。
効果は大体数か月くらい続くので、かなり重宝される。
その分、なかなかいいお値段するんだけどね。安くても数万ノアはくだらない。
「火炎板と冷却箱は外せないけど、村に五個ずつでいいわよね? ……お姉ちゃん、お財布が心もとないのよ」
「ううん、村に五十個ずつ買っていこう。私が全部出すから」
「私ほんとにお金ないわよ! トーナメント賞金は買いたい物が……」
「大丈夫。私、今お金持ちだから」
ここ数日で私の口座には多額の振り込みがあった。
まずトーナメントの賞金。
二年生の部、優勝で二百万ノア。
四年生の部、優勝で四百万ノア。
騎士の契約金五百万ノア。
騎士の支度金五百万ノア。
トーナメント二つ優勝で跳ね上がった学生としての月給百八十六万ノア。
騎士としての初任給六十五万ノア。
そして、謎の口止め料二千万ノア。
私はあまり物欲がない。
こんな時しかお金を使う機会はないと思う。
「やっぱり百個ずつにしようかな」
「それ! 一家に一個超えてるわよ!」
ちなみに季節は春です。
学生は年に一回、この時期だけ長期の休みがあります。
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