200 [コルルカ]身長191センチになる
ここでメイティラ様について話しておこうと思う。
最初にあの方を見掛けた時に分かった。上位種にあるまじき弱さだと。
リズテレス姫から特務部隊の話をもらった私は専属になってくれる守護神獣様を探している最中だったが、彼女だけはないと確信していた。そもそも【霊狐】の方々とは、私は性格が合わない気がする。
やはり上位種にはこだわらず、【古玖理兎】のどなたかにお願いするべきだろうか。
そう考えていた矢先、リズテレス姫から呼び出しを受けた。
騎士団本部の一室にて、彼女の口から発せられたのは信じ難い言葉だった。
「あなたの部隊の専属守護神獣なのだけれど、メイティラさんはどうかしら?」
「…………。あの方、すごく弱いのですが……」
「ええ、でも彼女には一つだけ抜けたものがあるのよ。アイラが教えてくれたわ」
メイティラ様は名付け親のアイラ様に鍛えられることになったが、その訓練のあまりの厳しさに逃げ出そうとしたそうだ。
その際に使ったのが、【霊狐】の種族特性の技〈認識擬装〉。その完成度は高く、あのアイラ様が危うく取り逃がすところだったらしい。
「彼女の力はきっとコルルカさんの隊を助けてくれるはずよ」
リズテレス姫はそう言った後に私の顔を見つめる。
「うかない表情ね」
「はい、人を欺く能力というのがどうも……」
私が言葉を濁すと、姫様は小さく笑みを浮かべた。少しの間をおいて話を続ける。
「コルルカさん、なぜあなたの名前が入った特務部隊を創ったか分かる? あなたには騎士の心があるからよ。それは先代の騎士達から受け継がれてきたもの。ずっと国を守り続けてきた彼らを見て、この道を志した者は多い。皆、コルルカさんの中に感じているのよ。かつて憧れた騎士達の姿をね」
「私の中に……。本当に備わっているのでしょうか?」
「私はそう思うわ。だから特務部隊の件を公表した時、誰も反発せず、むしろ祝福と共に受け入れた。けれど、国を守るには様々な力を結集させる必要がある。あなたが先頭に立ってそれをなすことが大事なのよ」
「……分かりました。やってみます!」
そうだ、国を守るのは容易なことではない。己の好みになど囚われている場合か!
なお、メイティラ様の〈認識擬装〉がそれほどの技になった原因は、どうも母親のミユヅキ様にあるらしい。
彼女には沢山の子供がいるが、どの子も力をつけるとすぐに親元から旅立った。長く留まっているとろくな目に遭わないと知っていたのだろう。
ただ一頭、逃げ遅れたのが末娘のメイティラ様だった。
生まれた時は一頭だけ名付け忘れられた気の毒な彼女は、さらなる過酷な運命を背負うことになる。ミユヅキ様の小間使いとして雑用を押し付けられ、彼女が問題を起こした時には巻きこまれて殺されそうになり。
メイティラ様が生きるためにひたすら磨きをかけたのが〈認識擬装〉ということだ。その一点においてはチカゲ様をも凌ぎ、ミユヅキ様の目も欺けるほどなんだとか。
つまり、メイティラ様の〈認識擬装〉は神クラスの神獣にも通用する。
現在、私はブレンギラ配下の将軍、ザンデュガの屋敷にいた。
その応接室にて、目の前には当のザンデュガが堂々たる空気を纏って座っている。彼は私の頭上の空間をまっすぐに見つめた。
「コルルカといったか。もう一度説明してくれ」
「だから、しばらく旅暮らしが長かったから、久々にいい宿に泊まりたいと思ったんだ。高級ホテルに見えて入ったのが、まさか守護神獣様のお屋敷だったとはな」
「そうか、まあいい……。しかし、お前のような女は珍しいぞ」
彼はため息と共に視線を一旦下げ、それから再び私の頭上に戻す。
「お前のように、背の高い女はな」
「うむ、身長は百九十一センチある」
「……俺と全く一緒だ」
そうだろうとも、ザンデュガ。体格のいい男性人型を使っているお前に合わせたんだからな。
椅子に座る私の背後にはメイティラ様がいて、今はその〈認識擬装〉を使ってくれている。この技に長けた彼女は自分の周囲数メートル内のものの認識も変えられるそうだ。
当然ながら私の身長は百四十一センチのままだが、ザンデュガには五十センチ高く見えている。
また、奴にはメイティラ様の姿も、もう一人の姿も見えていない。
「メイティラ様、マジですごいな……。今なら人型のこいつをこっそり仕留められるんじゃないか?」
エレオラの言葉に、メイティラ様は首を横に振った。
「だからそれは無理だって言ったでしょ。〈認識擬装〉は不干渉の技。少しでも攻撃の意思が生じた時点で解除されるわ。手練れが相手だと防御されるわよ。それでもママならやるだろうけど」
さすがにそれは卑怯だし、神獣の状態で倒さないと意味がないだろう。
ちなみに、二人の話し声もザンデュガには聞こえていない。
本当にすごい能力だ。私の姿も自在に変えられるというので、せっかくだから相手と同じ身長にしてもらった。
まさか、私が身長百九十一センチになれる日が来ようとは……。
いや待て、実際に背が伸びたわけじゃないし、私自身の認識も以前のままだ。
何一つ変わった気がしないのだが……?
書籍2巻とコミックの書報が出ました。
書影を下に貼りましたのでご覧ください。
書籍の方、タイトルロゴを少しこだわってみました。
こだわって、……ポテチ色にしてみました。
どちらも10月13日発売です。
よろしくお願いします。
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