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ジャガイモ農家の村娘、剣神と謳われるまで。  作者: 有郷 葉


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171/212

171 狐神戦争 私達の家へ

 私の〈トレミナキャノン〉が直撃すると同時に、ジル先生は猛吹雪を解除した。決着がついたのが分かったからだ。

 トレミナBさんの制御は完璧。もう九尾の狐は数秒も意識を保てないだろう。

 思った通り、ミユヅキさんはすぐに人型になった。

 その背後にはいつの間にかレゼイユ団長が。逃げようとする幼女を捕まえると、定位置の小脇に抱えた。

 途端に大人しくなるミユヅキさん。人型の状態では噛みつこうが毒を放とうが、団長には通じないと承知しているらしい。


 連行されてきた幼女に私は視線を向ける。


「私、これからあなたを見ていますから。行動だけじゃなく、その心のあり様も」

「……うぅ、どんぐりのくせに、神であるわらわをビビらせおって」


 何とも嬉しげにアイラさんが彼女の頭をペシペシ叩いた。


「くく、命拾いしたわね」

「うるさいのじゃ! ……わらわの計画は台無しじゃ。コーネルキアの実権を握るために、あの天才と名高い姫になり代わるはずじゃったのに……。あの天才と名高い、ユラーナ姫に」


 ん? ユラーナ姫?

 説明を求める私の眼差しに、ジル先生はわざとらしく咳払い。


「これまでリズテレス様のなさってきたことは、全てユラーナ様の功績になっています。結局あの方は、裏から物事を動かしつつ、自らも動きたいのですよ」


 そうか、いかにもリズテレス姫らしいと思う。辛い部分はなるべく自分が引き受けるつもりなんだ。

 ただ……、今後ユラーナ姫が大変なことになりそうではある。


 先生の言葉に面食らっていたチカゲさんだが、やがて理解したように笑みを浮かべた。


「先ほど魔導具でお話しになっていたのも、ユラーナ姫ではなくリズテレス姫だったのですね。頭目、これは私共に勝ち目はありませんでしたよ」

「ふん、リズテレスとやらの顔を拝むのが楽しみになったのじゃ」


 ミユヅキさんが悪態をつき、これにて狐神戦争は終結となった。


 だけど、私にはまだやらなきゃならないことが残っている。

 私の妹、モアさんを迎えにいってあげないと。彼女は今、自分が分からなくなってるんだから。


「では、私はモアさんの所に行きます」

「同行させてもらうわ。ああなったのは私のせいだし」


 アイラさんがそう言うと、シエナさん達魔女の皆さんは一斉に拳を胸の前に。


「私達はジル様と一緒に戦後処理に当たります。同志メアリアは?」

「私はロイガを通じて、生き残った虎神達と交渉してみます……。レイサリオンの守護神獣になる気はないか、と……。オージェス、いい……?」

「……通常の【慧虎】でも我が国の騎士達より遥かに強いので、仕方ありません。皆は俺が説得します」


 親衛隊隊長は渋々に了承した。

 コーネルキア騎士のような熟練者ならともかく、普通は人間と神獣じゃ機動力の差が大きい。あの【慧虎】が十頭もいれば、巡察任務はずいぶん楽になるだろう。

 あ、そうだ。


「先生、散り散りに逃げている【霊狐】達とも交渉してみては?」

「ナイスアイデアです、トレミナさん。〈認識擬装〉が使える【霊狐】種は一頭でも多いに越したことはありません。あなた、おっとりが発動していない時は本当に頭が回りますね」


 おっとりをマイナス技能のように言わないでください。

 いや、まさかあれは私の精神的負荷をやわらげるための……、どうでもいいか。


「でしたら、そちらは私共が適任です。お任せください」


 チカゲさん達、影月忍者部隊がザザッと駆け出した。

 と思いきや、子忍者が二人残ってる。


「ミカゲはトレミナ様のお供をします!」

「リカゲも!」


 すると、部隊からチカゲさんだけ慌てた様子で戻ってきた。


「娘達の初任務なので私も同行させていただきます!」


 ……別に構いませんけど。

 こうして、私の影達とその過保護者、アイラさん、私の五人でモアさんの元へ向かうことに。


 モアさんの所在はマナ感知で把握できている。近付くにつれ、力尽きた【霊狐】や【慧虎】の姿を多く目にするようになってきた。

 森に漂う死の空気に、いつの間にかミカゲさんとリカゲさんは父親に寄り添って並走。

 何だかんだ言っても、二人共お父さんを頼りにしてるんだ。今回は保護者同伴で正解だったかな。


 やがて木々の開けた広場に出た。

 命を散らした沢山の神獣達が横たわっている。

 その中央には、一頭の兎神。

 目を見開いたまま、ただ宙の一点を凝視していた。


 ……モアさん、戦いに飲まれすぎちゃったんだね。


「トレミナ様、これ以上は危険です。あれは、殺意そのものに他なりません」


 チカゲさんがサッと手を出し、注意を促した。

 そう、ここから一歩でも近付こうものなら、モアさんはきっとすぐに襲いかかってくる。

 アイラさんが大きめのため息を。


「もう力づくじゃないと無理ね。私がやるわ」

「いえ、ここは私に任せてもらえませんか? お願いします」


 私がそう言うと、狐の姉妹が引き止めるように抱きついてきた。


「ダ! ダメです! トレミナ様! 私達にも分かります!」

「分かりますとも! あの兎は殺意の塊です!」

「違いますよ。彼女は、私の家族です」


 二人の肩に柔らかく触れて落ち着かせる。

 モアさんを元に戻す、いい方策があるわけじゃない。あえて私の家族だと口に出したのは、自分なら大丈夫だと信じたいだけなのかもしれなかった。

 アイラさんが今度は呆れ気味のため息。「ちゃんとマナは纏ってね」と。

 下位種だからと侮れないのは私も承知してる。〈闘〉を維持しつつ、それでも、マナに敵意だけは込めないことにした。

 歩みを進めようとしたその時、内側から声が。トレミナGさんだ。


『モアさんは〈トレミナゲイン〉を使っていますわ。私の力でマスターを彼女の心までご案内できるかもしれませんこと』


 なんと、そんなルートがあるんですか。

 ぜひ案内してください。


『ただし、私がお連れできるのはおそらく扉の前まで。モアさんが開けてくれるかどうかは……』


 分かってます。行きましょう。

 妹を取り戻すべく、私は一歩前に踏み出した。



[モア]


 ……暗い。暗くてよく見えない。

 けど、分かる。周りは敵ばかりだ。

 殺さないと。

 もっと殺さないと。

 また誰か来た。敵だ。

 きっと敵だ。殺さないと。

 ……………………。

 敵だ。殺さないと。殺さないと!

 …………ち……が…………。

 敵は殺さないと! 殺さないと! 殺さないと!

 ……ちが……あの、人は…………。

 敵は殺さないと殺さないと殺さないと殺さないと!

 ……ちがい、……ます!

 あの人は! 私のお姉ちゃんです!

 ――――――――。


 気付けば、目の前にはトレミナ様がいました。

 あろうことか私は勢いよく彼女に飛びかかろうと。

 とととと! 止まれませんっ!

 とととと! とりあえず人型にーっ!

 七歳児の姿になった私は、ポフッとトレミナ様の胸へ。

 顔を上げると、そこには懐かしい穏やかな笑顔がありました。前に見てからそんなに経ってないはずなのに、とても懐かしい……。


「トレミナ様……、私、もっと戦わないとって……」

「もういいんですよ。モアさん、頑張りましたね」


 その声を聞いた瞬間、涙が溢れてきました。

 涙と一緒に、解き放たれたように色々な感情も。

 私、怖くって! でもやらないとって! 逃げちゃいけないって! 本当はすごくトレミナ様に会いたくって!


「うぅ! うぅ! うわ――――ん!」


 温かな手が私の髪をそっと。


「モアさん、ううん、モア。

 戦いは終わったよ。私達の家へ帰ろう」

狐神戦争、終結です。

次回から新展開になります。


トレミナパーティーの後半はもう少しお待ちを。

日曜か月曜くらいには出せると思います。

今後の展開なんかも少し書く予定です。

よろしければ私のマイページまで。

トレミナ達も登場するカオスなブログ(になりました)を連載中です。

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― 新着の感想 ―
[一言] トレモアちゃん…まだまだ修練が足りませんね… 精神修行頑張りましょう!(笑)
[一言] トレミナゲインさん優秀すぐる
[一言] そういえば養子やったから何かしら功績の必要性あるっけ… でもその内容の中身が激重そうw
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