129 守護神獣の先輩
転生者達との晩餐会は続いていた。
姫様達をこう表現したのには理由がある。この場でリズテレス姫が明かしたからだ。自分達の魂は異なる世界から来たのだと。
セファリスとキルテナはポカンとした顔で話を聞いていた。
そうなるよね。
何度も聞かされている私でさえ、今だにスマホとかアプリとかよく分からないもん。
あ、私の誕生日プレゼント、もしかしてスマホというやつでは? いや、アプリの可能性も。
『マスター、私達の食卓にアプリコットが出現したのですが』
すみません、〈トレミナゲイン〉さん。気にしないでください。
突拍子のない話で固まった空気を和ませるように、ユウタロウさんが小さく笑った。
「あまり深く考えなくていいよ。僕達も別の世界の記憶があるっていうだけで、今は君達と全く変わらないから。一緒という点では、キルテナさんと僕は本当によく似ているね。僕も十歳で修羅の森を渡ったから」
「え、ユウタロウ、さんも……?」
「うん。ああ、トレミナさん達は知らないよね。世界樹周辺の神獣は十年に一度、一斉に子育てをするんだ。その年から十年間、世界樹の周りでは子供達だけでの生存競争が繰り広げられる。基本的に大人の神獣は手出しできないから、保護期間なんて呼ばれているね。その保護期間が明けると、子供達は通常、修羅の森でこっそり息をひそめて生活する。動き回ればそれだけ捕食される危険に晒されるから。まして、森を越えてこちらに来るなんて考えられないことなんだよ」
彼の話をトレミナ熊さんは興味深げに聞いている。
どうしたんですか?
『俺達野良神は内地生まれの奴と接することが滅多にない。情報としては、まだ人間の方が詳しいくらいだ。……俺は、いつか世界樹に行ってみたかった』
そんな夢が……。
現実世界ではユウタロウさんの話がまだ続いていた。
「僕には種族特性があったからどうにかなったけど、キルテナさん、よく【世界樹大竜】で森を抜けてこられたね。その年齢でもう上位進化しちゃうし、君は本当にすごいよ」
「そうかなー、そうかなー? なはははは!」
「そうだよ。キルテナさんのような子がコーネルキアの守護神獣になってくれて、僕もとても嬉しいんだ」
「マジか。私、守護神獣として頑張るぞ! よろしくな先輩!」
よかったね、キルテナ。他ならぬ創国の守護神獣様にそこまで言ってもらえて。
とユウタロウさんはリズテレス姫に視線を向ける。
これに彼女は頷いて返した。
ああ、なるほど。
キルテナの心の内を知っていた姫様がユウタロウさんにお願いしたのか。相変わらず抜け目ないし何だか腹黒いけど、やっぱり優しいところがあるね。
せっかくだから私も知りたいこと、ユウタロウさんに聞いちゃおうかな。
「ユウタロウさんの種族特性って何なんですか?」
すると、ユラーナ姫が「脚力よ」と。
お喋り好きの彼女はそろそろ我慢できなくなってきたらしい。
「ユウタロウは一刻も早くキオ(享護)に会いたいがために〈脚力強化〉に極振りして、修羅の森を突っ切ってきたのよ。キオもこの世界にいる保証なんてなかったのによくやるわ。元飼い主が一途なら、元ペットも一途よね」
「そのおかげでコーネルキアができたんだからいいじゃない」
「まあね、感謝してるわよ。前世でヒマワリの種をいっぱいあげておいてよかったわ」
ヒマワリの種の見返りが王族としての人生なら、もらいすぎな気がしますが。
ユウタロウさんは本当に温和だ。見た目にも優しいお兄さんで……、そうだ、もう一つ尋ねたいことがあった。
「人型の容姿や年齢ってどうやって決まるんですか?」
「外見は本人(神)の好みによるところが大きいね。年齢もそうだけど、こっちは結構精神年齢に依存するかな」
精神年齢か。道理で進化したキルテナの人型が変わってないわけだ。
あれ? 出会った頃よりちょっとだけ成長してるかな?
ドラゴン少女を見つめていると、リズテレス姫がクスッと笑った。
「たぶんキルテナさんの成長速度はトレミナさんと同調しているわ。同じように大きくなっていくと思うわよ。人型といえば明日のことなんだけど、トレミナさん、お願いしていいのね?」
「はい、大丈夫です」
「あなたの精神通話のおかげで儀式はスムーズに進みそうだわ」
そう、明日兎神の一団が到着したら、そのまま六十五頭まとめて人型を作る儀式に臨む。
私はそこで添乗員を務めることになったよ。
翌日――。
私は王都コーネフィタルの外れで一人佇んでいた。
やがて草原の向こう側に黒い毛玉の集団が現れる。
主張するように少しマナを強めると、もふもふ達はまっすぐこちらへ。
『皆さん、お待ちしていました。本日は私が案内役を務めさせていただきます』
『それは心強いな。よろしく頼む、トレミナ』
ルシェリスさんがぐぐーっと頭を寄せてくる。
と、私の中でトレミナ熊さんが毛を逆立てた。
『我が因縁の宿敵! とその弟子共! 望むところだ! まとめて相手してやろう!』
今のサイズじゃ無理ですって。
あなたは体長五十センチ、あちらは小さくても体長五メートルですよ。
ちなみに、当然ながらトレミナ熊さんの声は兎神達には聞こえてない。
ややこしくなるので、ちょっと大人しくしていてください。
『ややこしくとはどういうことだ!』
『こういうことですよ。さ、子熊さん、行きましょう』
『私達が相手してあげますから、子熊さん』
『子熊子熊言うな!』
小さな熊神のボスは〈トレミナボール〉さんと〈トレミナゲイン〉さんに連行されていった。
私はルシェリスさんに向き直る。
『すみません、たてこんじゃって。では行きましょうか』
『……ん? 何かあったのか?』
ルシェリスさんの背中に乗せてもらった私は、そこから精神通話で一行を誘導する。皆さん、きちんと心を開いてくださいね。
王都の大通りを、六十五頭の兎神が大行進。
『右手をご覧ください。あちらの高台に見えますのが、このコーネルキアの王城です。皆さん、ご入城の際には必ず人型でお願いします。そのままですと、色々壊れますので』
『トレミナ、素晴らしい観光ガイドだが……、町に人が全く見当たらないぞ。人型を作るための条件は話しただろう?』
心配そうにルシェリスさんは周囲をきょろきょろ。
『大丈夫ですよ、準備は整っていますから。マナで感知してみてください。この町の広場です』
『こ! これはっ!』
王都の中心部にある広場は相当広々とした造りになっている。
きっといつかこういう日が来ることを想定、いや、願ってだと思う。
程なく私達は広場に辿り着いた。
そこに集まっていたのは、何万人という王都の住民達。
彼らを生贄に人型を……。なんて、恐ろしい話じゃないよ。
必要なのは、皆の体の情報だ。
むしろ生贄になるのは兎達です。
もふもふゆえに。
400万PVになりそうです。沢山のご来訪、本当に感謝です。
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