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61話 シュリは私限定でみえてる

「エクラ」


 大聖女が去ってすぐ、聴き慣れた声に振り向くと、私の精霊が全員揃って現れた。

 さすがにメゾンはあの屋敷で待機だけど。

 大方、大聖女の転移の魔法できたのは分かったけど、どうして。


「なんとなく、わかってるでしょ?」

「……そうであってほしくない」


 シュリが苦笑する。

 わざわざここにきたということが証明してるのだけど、どうしても認めたくなかった。


「俺達もさ、実は前に、どうするか決めてたんだよねー」

「何を突然」

「言わなきゃ分からないよねー。サプライズ的な?」


 わかってる。

 次元繋ぎを選ぶか、この世界に留まる事を選ぶかの話だ。

 シュリの目を見れば、どの選択をしたかが分かってしまう。

 伊達に長年一緒にいるわけじゃないもの。


「俺とトレゾールは次元繋ぎで、一緒にあっちにいくよ」

「シュリ……」


 てっきり皆一緒だと思っていたところに降ってきた言葉。

 よりにもよって、一番長く一緒にいた二人が?


「ほら、俺って唯一ギフトと一緒に、あっちとこっちの世界を行き来したんだよ? 繋がりやすさなら、一番なわけ」


 あっさり言ってくれるわ。

 ギフトだから出来る、あちらとこちらの転移を、ギフトが連れ帰る形で、その妹でも成し得てしまった。

 ギフトの妹も特別な存在になった。

 元々、魔法使いの祖一族である以上、あの妹にもギフトの候補たる素質はあるわけで。

 ギフトの魔法が使えなくても、潜在能力は同等的な。


「トレゾールは、そんな俺の御先祖様の魂入ってたし、似たようなものだよねー」


 見て見ぬ振りしていた最後の項目に目を向けるのが今なの。

 トレゾールが心配そうに私を見上げて寄り添う。


「シュリ、トレゾール……」


 うん、分かってる。

 適任なのは分かってる。

 けど、そうじゃない。

 小さい頃からずっと一緒で、ずっと支えてくれたのに。

 それこそ、傍にいるのが当たり前だったのに。

 こんなにあっさり来られても困る。


「シュリ、やだ」

「俺、この記憶が贈り物だって言ったよね?」

「……うん」


 何故その話を今、と思ったら、シュリが明るく教えてくれる。


「御先祖様の記憶、つーか、意識がこの繋ぎの手伝いもしてくれるんだよ」

「それって」


 聖女と精霊の意識そのものに力があるなら、確かに次元繋ぎも担えるだろう。

 ということは、オリアーナというギフトの妹は初めから、この次元繋ぎの役割を担う気でいたってこと?


「俺の御先祖様、もう一度出来るなら、ギフトの助けになりたいって思ってたんだよねー」

「もう一度?」

「そ。意識になってからね」


 余程強い精神の持ち主だったのだろう。

 シュリが私の元へ来てすぐに記憶起こしがあった時点で明らかだし、御先祖様、好かれるところから相当好かれてたから、あってもおかしくない。


「シュリは」

「勿論、俺が力になりたいのはエクラだけ」

「シュリ」

「だから、エクラの選択がうまくいくためなら手伝うってこと」


 それに御先祖様達の贈り物はもらっておきなよ? とシュリが笑う。

 御先祖様の意識も記憶も、全部が全部、今この時のこの選択の為にあったということ。


「御先祖様たちは知ってたの」

「の上で、エクラの選択を支持するってことでしょ」

「私の」

「それが幸せになるものって分かってるってこと」

「そう……」


 それは、御先祖様達が幸せな未来がくると認識してたが故に訪れた現実だ。

 ああ、御先祖様。実はもう私達オーディオコメンテータリーできてたってことじゃないですか。なんてことだよ。


「それにね、俺ら本当は全員で、あっち行くつもりだったわけ」

「え?」


 シュリ以外の皆が?

 皆を見れば、頷かれる。ヴァンが静かに口にした。


「主人の精霊である限り、僕達はギフトの力を有している事になります」


 聖女と精霊のつながり。

 彼彼女から力をもらうのと同じで、私の力も精霊に届く。

 だから、私の精霊はギフトの力を受けている。

 次元繋ぎにはシュリとトレゾールについで適任ということ。


「そんなの、」

「エクラの望みを知ってたから、俺とトレゾール二人を代表にしたんだって」


 二人以外は残る。

 でも、シュリとトレゾールは行ってしまう。


「もー、折角独り立ちしたと思ったのに」

「え?」

「お嫁に出した気分だった的な?」


 んー、ふむ。

 そっちでいくわけ。


「……パパ、私やっぱりお嫁にはいかないっ!」

「はい?!」


 いやまて、どうしてここで、サリュがそんなに動揺するの。

 それ見て盛大にシュリ吹いたし。


「やば、サリュいいわー」

「え、あの」

「エクラも権利ギリギリ攻めなくていいから」

「名言で返ってくるって、期待してたのに」


 ふざけあっての掛け合いだと気づいたらしい。

 気まずそうに視線をそらしたサリュの耳が僅かに赤くなっていた。

 パパって言った時点で気づきなよ。

 によによ笑いながらサリュを突くと唸られた。

 いいねえ、ぶれませんねえ。

 そんな私とサリュを見てシュリは呆れたように、けど穏やかに笑って私を呼んだ。 


「エクラ」

「ん」

「ね、大丈夫。落ち着いたら戻ってくるよ」

「シュリ」

「ほら、エクラの御先祖様が好きな漫画にあったでしょ。大団円迎えた後に、互いの次元を行き来できるようになった子達の話」

「ああ、あれ」


 懐かしい話をもってくるな。

 しかもシュリってば、犠牲がない次元繋ぎの意味をきちんと理解している。


「次元が開いてれば、これがより俺達とエクラを繋げてくれる」

「開き続ける気ではいたけど」

「やっぱり?」

「シュリ、みえてんじゃん」

「まーね、ま、それがあれば大丈夫ってこと」


 刃のない刀と青い石を指して言う。

 刀は土の中にある鉱物を元に作っているから、シュリとトレゾール二人の力が宿っている。

 そして意図せず作った青い石には私の力が宿っている。


「それに、ここに残る俺達も力になれるぜ」

「フルール」


 私が次元を開き続ける選択をして、いつでも行き来できるようにすればと気づいた上で、より帰りやすくするための媒体をこんなに用意したと。

 そういえば、ギフトの妹もギフト限定でみえる子だった。

 それがここにもいかされてる。

 シュリは私限定でみえている。


「ここまで用意されてるなら、仕方ないか」

「みえてた俺の勝ちだね」


 今生の別れではないけど、気持ちとしてはきつい。

 私の修業はまだまだなのか。

 試練はもういらなかったんだけどなあ。


「ここまでくれば、俺とエクラで出来ないわけがないっしょ」

「そうだね」


 近すぎたからか、離れるのが嫌だけど、私の皆といたい気持ちをシュリはわかってる。

 分かっている上で、これを選ぶなら、私はシュリをあたたかく送り出したい。

たくさんの中からお読みいただきありがとうございます。

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