59話 かっこいい作戦名は
「現王も了承してるんじゃないんですか?」
「ああ、その通りさ」
そうでないと、この聖女システムと前準備ができるものか。
偏見があったからといって、大陸外側に近いところに一人も諸一族が居を構えていないというのもおかしすぎる。
転移しやすいよう、王都中心に人を集めた、これが現王が選んだ今だ。
「今の王は少なくとも、前王よりは話ができる人だったんですね」
「そうだね。前王が行った魔女狩りの後、こちらに謝罪に来たよ。けれど、その時には手遅れだったからね。選択肢を与えたさ」
「民の死なくして転移を許容するか、魔に食い潰されるかを?」
「八割以上死滅しつつ転移するか、という選択も加えてな」
最後の選択なんて、とってつけただけでしょうが。
まあその上で、この聖女システム作ったなら、前準備よすぎてすごい。
逆に鮮やかですね、と褒めたたえてもいい気がしてきた。
いやだめか。
褒めるなら、サリュが痛い目に遭わないルートの時だけだな。
「お前達が個であるなし関係なく、次元転移の魔法を選択し、魔法の成立という結果を出さない限り、この魔法はいつまでも消える事がない」
「そういう初期設定にしたんですか?」
「というよりも、聖女達の意識が魔法の撤回を許さない」
はいはい呪いおつですわ、と思いつつも、仕方のないことだとわかってしまう。
サリュだって、この捨てられなかった御先祖様達の記憶を鑑みて、一人でも復讐を遂げようとした部分がある。
そんな簡単に消えるものでもないし、無視していいものでもない。
「消したいんですか」
「最初のギフトと鍵の失敗があってから、我々は幾度も話し合った。本当にそれがあるべきものなのか」
あの二人は、その身をもって、件の一族と共存できることを証明してしまった。
その姿と生き様を、今現存する聖女達は知っている。
それこそ、御先祖様の記憶によって。
「その上でみえた未来がこれですか」
「可能性の一つだよ。ああ、そんな話を以前もしたねえ」
懐かしそうに笑う。
「なら私は存分に、その力を借ります」
「ああ、いいだろう」
「てか、人払いをしている時点で、いいってことですよね?」
頷く大聖女二人。
どうやら、いつ私がやっても対応できるようだ。さすが大聖女。
この城は転移に影響されず、この世界に残るエリアにあるけど、内周のラインに程近いところに位置している。
ここからなら、件の魔法がかなう姿がよく見えるだろう。
しかもこの城には大聖女だけしかいない。
監視者たるオンブル達もどこかに避難させたか。
色んな所で準備万端なのがよくわかるわ。
今回ばかりはオンブルから情報漏れなかったあたり、かなり慎重にやったわけね。
「やるのか」
「やりますよ。時間を遡った上で次元転移を。大聖女と他の聖女たち、精霊たちの力を借りて、次元を繋ぎ、転移の圧なしの犠牲者ゼロでやりましょう」
もっとも、その転移を犠牲者無しでしたところで、王族達があちら側で快く生きていけるのかは分からない。
だって世紀末だし。
「内周の聖女と精霊、こちらは秋と冬を寄越すよ」
「お二人は残るんですか」
「私達の役目は、五つ目に導く事が主だった」
「そもそも寿命はとうに迎えているからね。この地で安らかに眠らせてもらおう」
寿命を超えても生きてる大聖女なんなの。
まあ四人の大聖女の内二人も助けてくれるなら行幸というやつかな。
あちらは知ってる上で問題ない人数を配置してるわけだし。
「あ、格好いい作戦名考えようかな?」
「はは、面白いことを」
「気持ち的に盛り上がる方を選びたいじゃないですか」
次元繋ぎをする聖女と精霊は、一緒にあちらの次元へ行ってしまう。
その聖女と精霊たちが手助けしてくれるかも分からない。
そう思うと、王族たちの苦しむ様をわざわざ見に行こうとする聖女たちはある種、好戦的なのかもしれない。
いや、ここはあちら側に行っても、助けてくれる慈悲深い聖女たちが行くと思っておこう。
何事も良い面を見るのは大事だからね。
だからこそ、前向きな作戦名が必要だと思うわけで。
「やっと五つ目の選択がきたか」
「そうですね」
この長い歴史、どうしても御先祖様達の悲劇を止められないというのなら、この時限式の魔法を達成してしまえばいい。
束縛されないところでは足掻くけどね。
そう思うと、折衷案にしては中々だと思う。
一人うんうん頷いていると、サリュが出来るのかと至極真面目にきいてきた。
どこまでも真面目に捉えてくるんだから。
もうここは、できるの? やったーうぇーいやるわーうぇーいなノリでもいいと思うよ。
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