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51話 御先祖様昔話(サリュークレ視点)

 エクラを守る。

 エクラの望みを守る。

 勝手なものだなと我ながら思う。


「やあ」

「プリマヴェーラ」


 サンクチュエールの中心、かつてのノッチュ城に人の気配はなかった。

 普段控えている者達がいない。

 大聖女が未来を察した上で場所を作ったことがわかる。


「お帰り、と言うべきかな?」

「私の帰る場所は一つだけです」

「はっ、自分で去って来た癖に何を言う」


 厚顔不遜の大聖女が、かつてと同じ姿で立っている。

 燃えるような赤い髪に、懐かしさを覚えるのは仕方のない事なのか。


「久しぶりだね、ラウラ」

「私はラウラではありません」


 サリュークレ、それが私の名前だ。

 ラウラと同じ金の瞳を有していようが、逆行の力を持っていようが。


「今の名は記号でしかないのに?」

「ええ。エクラが私の名を呼ぶ限り、それは記号ではありません」


 笑う。

 そして、その様子を普段からギフトに見せていればよかったものをと指摘される。

 彼女の前では格好つけたいし、意地を張ってしまうし、素直になれることはそうない。

 それをわかった上で大聖女は揶揄している。

 昔から困った人だ。


「何用でこちらに?」

「なあに、昔話に花を咲かせにきたのさ」

「お断りします。時間が惜しい」


 私の予想というか、予感では、この後彼女が来てしまう。

 先程は不意をついたのもあり、逃れることが出来たが、時間が経てば経つほど、彼女は自分のやりたい事を見出だして動き始める。

 彼女のやりたい事は、私がやりたい事を阻む事であるのは明確だ。

 だからその前に、私はやり遂げなければならない。


「ギフトなら、まだ着かない。エスターテが相手をしているさ」

「……」

「まあ少し付き合え。ラウラの夫は、あまり話をきかなかったから退屈だったんだよ」


 私は元来お喋りが好きでね、と目の前の大聖女が言う。

 さらには年寄りのくだらない話を聞いていきなさいと笑った。

 見た目は年寄りの欠片もないが、最初の鍵の記憶を辿れば、この大聖女は王族が転移してくる前から生きている。


「かつての南の国では魔法が発展していた」

「ギフトの国ですか」

「ああ。この国の王族は驚いていたな」


 瞬時に治る薬、鍵の少女の一族しか使えない一人一つの魔法が、南の国では当たり前のように使われていた。

 今はもう失われた気高い山々が阻んで、南北の国交はなかったが、この城の一族は空を飛べた。

 だから南と交流があった。

 その力の一端を垣間見て、鍵の夫は驚いていた。

 こちらの国は先住の人々と争う傾向が強かったが、南の国は魔法を発展させることで友好関係を築こうとしていた。

 初期の頃は占術士として共に国を建て、魔法を科学として理解をしようとしていた。

 その成果の一例が簡易な逆行だろう。最初のギフトが使ってもいたか。


「あのまま発展を遂げていれば、ギフトと鍵の魔法まで辿り着けていたでしょうか」

「さてね。まあその前に邪魔が入るだろうな」


 南の国は、一時この国と同じように排除の歴史があったものの、この大陸全土で考えれば最上の歩み寄りがあった国と言える。

 もっとも、鍵の夫は本来の歴史を知る事がなかったから、自分達の先祖が何をしたか、ついぞ知る事もなく亡くなったが。

 だが、彼は自分が鍵と共にありたいという願いを叶えた。

 そして何も知らないまま、我々一族と友好関係を築けた数少ない人物の一人だ。


「そもそも何故王族と婚姻を結ぼうなどと」

「あれはディーの差し金だと知っているだろう」

「その人物が異端だったという所ですか」

「そうだね」


 始まりがどこであろうと変わりはない。

 長い歴史の中で、我々一族と王族が結ばれる事は少なくなかった。

 ギフトもそう、鍵だってそうだ。

 プリマヴェーラが王族に好意を向けられていたのも、おかしくはない話で。


「貴方が変えようと思えば出来た事では」

「私は君達程やり遂げようとする意志はなかったのさ」


 王族が空を割って転移してきた時から生きているこの大聖女は多くの犠牲も見てきている。

 それ故に、数多の先祖の意識を無碍には出来ないと眉を寄せた。


「君達はかつてのギフトと鍵のように、気づかないまま役割を果たさない、という事もありえたのだがね」


 記憶の呼び起こしさえ起きてしまえば、かつての二人も役割に気付いたことだろう。

 それが起きなかったのはなぜか。

 気づく要素はいくらでもあるのに。


「あの時代に魔が存在していなかったのも大きかったが……なにより、環境にあっただろうな」

「人間関係ですか」

「だからこそ、今回については我々がだいぶ介入した」


 私が察せる事と言えば、鍵の少女は周囲の人間によって幸せを得た事だ。

 なにより、あの王族と出会った事が、彼女の思考と感情を変えたと考えている。


「そうさ、お前の考えている通り」

「そうですか」


 たったそれだけの事で、かつての鍵とギフトは役割を果たさなかったというのか。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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