49話 中ボス、大聖女
サリュが向かう場所は分かっている。
サンクチュエールだ。
かつて越えられないとされていた気高い山々の中にあった城。
鍵の御先祖様の城だ。
「やっぱりいますか」
「また会うと言っただろう」
「中ボスにしては難易度高くありません?」
大聖女の一人。
私の御先祖様の祖先。つまるとこ私の祖先。
かつて御先祖様が魔法使いの祖だと言って探していた人物。
「てか、御先祖様と話してた時、おばあちゃん死ぬみたいなこと言ってたのに、生きてたんですか?」
「死んだよ。その後甦っただけさ」
「え、ゾンビ?」
「違うね」
相変わらず面白い思考をしていると笑う。
いや、表現としては間違ってなかったと思うのだけど。
あ、そうか。死んだまま起き上がったわけじゃないのか。
「サリュは」
「この先だよ。城の奥、大広間に」
「簡単に行かせてくれる感じしないんですが」
「いや通してやるさ。少し時間を与えてやりなさい」
「時間?」
「鍵がプリマヴェーラと話す時間さ」
「ところがどっこい、私は今すぐにでもサリュのやることを止めたいんですよ」
「ならば決裂だね」
あちらはあくまで笑顔だ。
これからやることは大陸全土にかける魔法。
大量に人が死ぬし、無理にやろうとすれば、サリュの命すら危ぶまれるのに。
「少しばかり話をしようか」
「だから嫌なんですけど」
「ここからをお前が認識するかしないかで未来は変わるぞ」
つまり私が、平和が訪れる未来を描ければ、サリュも止まると言いたいのか。
「そんなの簡単でしょう? 大昔に異世界転移してきた王族が、先住民だった私達一族を長い歴史の中で虐殺→そこを嘆いた私達は大聖女を中心に時限式の魔法をかける→それが今起動して私とサリュでスイッチをいれて長年の復讐を果たす今ここって、こんなとこじゃないんですか?」
おばあちゃんは笑う。
よく思い出したと。
過去のたくさんの御先祖様の魂が全てを語ってくれた。
「実に短絡的に理解をしているね」
「百字以内に回答できる話じゃないですかね?」
「粗筋の如くか」
お、なかなか話がわかる。
言い回しは完全にギフトの御先祖様だからね。
ちなみに、大昔から今ここまでで九十八字。私すごい。
「奴らは自分達の世界に近い条件で場所を探してきた。自然も残り、人が住むには充分だった。ここはうってつけだったのだろう。我々とも友好関係を築き、共存するつもりでいた」
「けど、歴史の中で幾度か争いが起きてますよね」
「そうさ。そもそも奴らは、自分達の世界と同じように、大陸を割って各代表に国として統治させた。最初の鍵とギフトが現れた時期が、よりその色を反映している時期かね」
「なんでわざわざ、こんな回りくどいことしたんです?」
当事者と関係ない私やサリュが役割を持つ必要はなかった。
それはもちろん、最初の鍵とギフトも同じだ。
それこそ、大聖女が本気をだせば、異世界転移者である現王族達を簡単に排除できたはず。
「誓約があった」
あちら側と聖女側で交わされた誓約。その拘束力たるや、もはや呪いの類なんじゃないの。
まあそのぐらい強い力があった誓約だったからこそ、それに縛られない者と魔法に托すしかなかった。
誓約に縛られていた一族はあくまで大聖女、そしてそれに準ずる最初の一族。
つまり、一定以上血が薄まれば、誓約の範囲から外れるということ。
だから御先祖様達は大丈夫だった。
「一族が外れていくのを嫌がってたくせに」
「はは、痛いところをつくねえ」
その裏の意図をおばあちゃんは話してくれない。
もしかしたら、誰もあの山の集落から出なければ、御先祖様はギフトとして生まれてこなかったのかもしれない。
それはさすがに性善説すぎるか。
だってそうだったら、おばあちゃんは復讐を望んでいないことになる。
今、この時、率先して復讐を成そうとしているくせにだ。
「ギフトと鍵の条件は、我々一族が直近十年以内に八割以上の人口減少があった時に現れる。二つの距離は七百キロ範囲内、年齢誤差は十年以内、ここサンクチュエールを基軸にしてな」
最初の鍵とギフトは隣国同士で、年齢差もそんなになかった。
「ギフトと鍵は私とプリマヴェーラの血筋から出ると決まっていた」
血が薄まれば誓約の範囲外なのに、排出するのは一番濃そうな血筋って中々矛盾してる。
一族というくくりの中でやるから、こうした点で逃げ場がないのだけど。
それでもまあ確かに御先祖様も私も一族の血としては薄い。
なにせ、あちら側の王族の血が混じっている。
青い瞳がその証拠。
「その条件の元、最初に発現したのが、オルネッラとラウラという少女達だったよ」
けれどオルネッラの名には毒がなく、ラウラに至っては名に鍵はどこにもない。
「能力は満たしていた」
けれど、盛大な復讐は起きなかった。
彼女たちに記憶の呼び起こしもなければ、役割を果たす気持ちもなかったから。
「誤算はチアキだったねえ」
その名は御先祖様、オルネッラが異世界転移した時に変異したとされる新しい魂、人格。
「違うね」
「頭の中読まないでくださいよ」
「本来、鍵とギフトに個はない」
「数多の御先祖様の集合体なんでしょ?」
「そうさ」
個性というものが現れることがないはずの個体。それがギフトと鍵。
ぱっと見える個性とおぼしきものは仮初、いつしか消えていく入れ物の外枠。
私やサリュが割と最初の鍵とギフトに個性がよっているのは、そこが理由でもある。
御先祖様達と私とサリュを比べたって全然違うけどね。
そもそも最初の鍵とギフトは確実に個があった。
それ故に復讐の道を違えたとも言える。
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。




