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48話 じゃあ、いってくるね

「好きです」

「え?」


 突然降ってきた言葉は、私が墓まで持って行って、生涯伝える事はないだろうと思っていた言葉である同時に、彼から貰いたいものと同じだった。

 まさかこのタイミングで?


「エクラが好きだから、この世界から件の一族を排除します」

「え、」

「これは私の勝手です」


 すっきりした顔したサリュが微笑んだ。

 近づいてくるのに反応できない。

 額に柔い感触。

 少しだけ、身体に力が入った。


「今まで、有難う御座いました」

「サリュ、」


 離れて再度目を合わせたサリュの金の瞳は蕩けていた。


「さようなら」

「ま、」


 最後まできかず、瞬時に消える。

 結界から出たのを感じて、彼が本当にここを去ったことがわかった。


「お、おでこちゅー」


 とんでもないことをしていった。

 ついでにいうなら勝手がすぎる。

 精霊が額にキスを送る意味は、祝福。

 私は今、精霊の祝福を授かった。

 それは永年における守護を得たのと同義。

 つまり、彼は私を守り抜く事を、今の行為で示したというわけで。

 告白なんて飛び越えて、プロポーズされた気分よ。


「……すごい」


 というか、最後にデレてくのはなんなの。

 最後だから? 吹っ切れるにしても、落差がひどい。

 通常運行塩対応はどこへ行った。



* * *



 サリュが去ってから、割とすぐだったと思う。

 彼を追いかけても、まだ間に合う時間、やって来るのは一人と一匹。


「エクラ?」

「シュリ」


 私の顔を見て全て察してくれたらしい。

 困ったように笑う。

 トレゾールが足元にきて、身体を寄せてくるから撫でてあげた。


「サリュ、行ったんだ?」

「うん」

「エクラも行くの?」

「うん」


 サリュが座ってた所とは反対側に座って月を見上げる。


「そーなるよねー」

「皆に言っておいて」

「オーケー」


 自分でお酒をついで飲み始めた。

 見た目、割と爽やかに笑っている。

 かつて御先祖様の妹だった人と飼い犬は、きっと私についてきたいと思うけど、それは出来なかった。

 これは御先祖様関係なく、私とサリュの問題だ。


「あのネガティブ、相変わらず自殺志願でね」

「はは、それを言うなら、俺の御先祖様のが死にたがりだったよ」


 それでも彼女は驚異的なメンタルで回復に至ったのだけど。


「まあ、そうだね。一発殴りに……いやタコ殴りにしてくるわ」

「程々にね?」

「おう」


 根性叩き直しをする。

 やっぱり彼は死にたがりだ。

 そもそもギフトという私の存在無しで、所謂復讐は果たせない。

 無理にしようものなら、サリュ自身の身がちぎれる。

 それは見過ごせない。


「世話焼けるのは、どっちなんだろうね」

「エクラでしょ」

「え、ひどい」


 存外にして即答だった。

 確かに今まで散々世話焼かせてきたけど、今回のは違うと思うんだけど?

 一切私の入る隙間なく、勝手をすると言って出て行ったのだし?

 あれ言い方がなんだか不良息子家出するみたいな感じになってるな。


「サリュのは反抗期みたいな?」

「それはそれで大変じゃん」

「それもそっか」


 互いに笑う。


「やっぱりひどくない?」

「頑固だよねー」

「本当それ!」


 あんないっつも塩対応で、デレが黄金比で。

 水まきの時だって。

 肩ズンの時だって。

 お風呂の時だって。

 蔵整理の時だって。

 壁ドンの時だって。

 手合わせの時だって。

 買い出しの時だって。

 追いかけっこの時だって。

 今日の晩酌も前の晩酌も全部。


「全部、サリュってば意地張って」

「ん」


 ああ、もうなんなの。


「ツンデレのくせに」

「はいはい」

「好きだって言って、言い逃げなんなの?」

「サリュらしいよねー」

「言ってすっきりしたーみたいに去っていくのなくない?」

「はは、笑える」

「まあそうなんだけど!」


 私への扱いの雑さときたら。

 本当彼の言う通り、勝手がすぎる。

 そう思うと逆に笑えてきて、すでにネタ扱いして笑っていたシュリと笑い合うことになった。


「あーもう、笑うしかないってこと?」

「いいじゃん、時間かかりすぎだし。それに、すっきりしたでしょ?」

「そうだね」


 やっぱり大事だから。

 聞こえないぐらいの小さな囁きを、シュリはきちんと聴いていた。

 そうだね、と優しく返してくれる。


「存分笑って解消したし、いくわ」


 笑い尽くして、やっと立つことが出来た。

 これだから、シュリは私を元気にしてくれる。


「シュリ、刀貸して」

「使う気?」

「斬らないよ。殴り合いのパフォーマンスの一つで使いたいだけ」


 そう言うと、トレゾールがするりとシュリの方にやってきて、刀に息を吹きかけた。

 刃がなくなる。

 鉱物の精霊すごい。刀の加工も思いのままってことか。


「ただの鉄の塊みたい」

「それでもエクラが強化して戦えば殺傷力あるからね」

「気を付ける」


 あちらはまだ金の剣を所持している。

 それを破壊するぐらいは出来るだろう。

 まあ私が武器なしで向かってきても、彼は剣を使わないと思うけどね。


「じゃあ、いってくるね」

「いってらっしゃい」


 サリュと帰ってくるところはここ。

 それだけは違えない。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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