33話 お風呂でサリュと遭遇(注:ここは全年齢です!)
「あ、やらかした」
余裕が出てきた所に、きちんと仕事が割り振られるのは在り来たりな展開だろうか。
蔵の整理が済んでオンブルに報告を入れると、前の屋敷に行って実況見分したり、状況の詳細を提出したり、ついでとばかりに今の屋敷の前任者が残してた書類仕事なんかがやってきて、一時的にフィーバータイムがやってきた。
てか実況見分って、私がやらかした犯罪ではないのだけど、それはさておき。
シュリに程々にして早く寝るよう言われていたにも関わらず、ノリにノった私は深夜残業に至ったわけで。
「さすがに寝よ」
お風呂にでも入って寝ようとお風呂場へ向かう。
この屋敷のすごい所は大きな露天風呂がついていること。屋根付きで雨の日も大丈夫という優れ設計。
御先祖様のお家というか所有地内にもあったなあ。
そんな我が屋敷の大浴場は、ちゃちゃっと改造して、男女分けて作り直した。
「……そうだ」
しんと静まり返った屋敷内、この時間で起きてる子はそういない。
宴会やってたら話は別だけど、途中通った厨にはメゾンもいないし使っている様子もなかった。
私だけ起きている。
となれば。
「男湯が使える!」
ここの男湯は女湯より大きい。
人数比を考えて作ったのだから、それは仕方ないけど、より広いお風呂に入りたいという欲求を叶えるチャンスがやって来た。
しかも貸し切り!
「これが御先祖様の言う、神よ感謝します的な?」
颯爽と男湯の戸を開ける。
念の為、脱衣所の様子を窺うに誰一人入っていない事を確認。
これはもうやるしかない。
「ふおおお広いいいいい!」
タオル片手に意気揚々と入ると、いつも使っている女湯の三倍はあった。
このあたりの設計と改築はメゾンとシュリに任せていたから完成図も見なかったけど、こんなに広いとは。
身体を洗って大きなお風呂に入れば、いや最高過ぎて言葉を失う。
これが癒しか。
「お風呂、広すぎ最高」
今日も星が綺麗で、絶景すぎた。
風情があるとはこのことを言うに違いない。
静かな所で響く水音を聞いてごらんて。加え有り余る景色。贅沢だわ。
「そうだ、泳ご」
ここまできたら在り来たりな事は全部やっとこ。
泳ぐことと、飛び込むのと、沈んでみるのと、タオルで泡ぶくぶくするやつも。大声で一曲歌ったりもして、風呂桶沢山使ってボーリングとかもしてみた。
粗方全部ヴァンあたりに叱られることだ。
バレなきゃいいよね、バレなきゃ。
「あー、最高だわ」
露天風呂に浮きながら空を仰ぐ。髪の毛も纏めず流してる。
こういう悪い事をたまにするのもいいものだね。
良い子良い大人は決して公衆浴場でやっちゃ駄目なんだぜ!
ファンタジーの世界で許される事だから、やるなら自分で温泉一つ買うとかすればいいかな?
「ふう、満足すぎ。よく眠れそうだな」
そろそろ戻ろうかと思って、ざばっと立ち上がったとこに、がららと戸が開く独特の音がした。
え、戸が開く?
嘘でしょ?
「え?」
「ん?」
湯煙立ち上るお風呂場に静寂が訪れた。
いやいやいやいやちょっと待って、誰か入ってきちゃった?!
戸の方を見れば、湯気ではっきり見えづらい中に見慣れた金色の瞳が覗いている。
「サ、リュ」
「え?」
よりにもよって真面目代表の御入場ですかああああ!
これは駄目だ、けしからん以上に怒られるやつ! 正座で説教で済む問題じゃないやつ!
脳内が壮大に荒れながら焦る所、ついにはあちらも私を視認したらしい。
気配に動揺が走る。
これはやばい。
「え、あ、主?」
明らかに戸惑いを見せているサリュ。
そりゃそうだよ、私が男湯に入ってるわけないものね!
くっそう、脱衣籠逆さにして服隠してきた私が馬鹿だった。
ヴァン対策に入ってない風を装うんじゃなかった、本っ当どうしよう、ガチで危機。
「いやいやいや」
一瞬湯気の向こうに全年齢的に見てはいけないものを見そうになって視線を逸らした。
前隠して前!
いや、今はそこをツッコんでる場合じゃない、そういうことじゃないぞ、私。
「あ、も、申し訳ありません、出、ます」
「あ、いや、こっちが出る! から! サリュはうおっと」
「主!」
焦るとよくないのは、いついかなる場所でも同じだよね。
大きく踏み出そうとした私はそのまま足を滑らせて、背中から勢いよくお風呂の中に転げ落ちた。
うわ、鼻に入った、きっつい。
「主!」
いやいやいやいやこっちくんなし!
盛大に飛沫あげたから心配かもしれないけど、真面目はこれだからさあ!
ここは距離詰めたらアウトなとこでしょうがあああ!
「ま、」
「無事ですか!?」
ぎゃああああ! 来んなし!
叫ばなかった私を誰か褒めて!
考えてもみてよ?
いくら視界が不良とはいえ、イケメンが裸で駆け寄ってくるっておかしくない?
やばいでしょ、ちょっと。
視界の暴力!
注意事項、ここは全年齢です!
「待っ」
「主」
止めようと出した手首をとられて引っ張られた。
これ以上は近づかないで下さいの手がサリュには助けての手に見えたの、止めてこれ以上はやめて。
逃れようと思って手を引いた。
「え」
「あ」
そうだった、ここ足場ゆるいんだった。
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