21話 エクラの事、好き?(前半シュリエ視点)
「それ、気に入ったの?」
「え?」
身に着けたネックレスの石の部分を掌に乗せて転がしている。
表情はさして変わりもしないのに、その所作が安易に嬉しいと言ってるようなものだった。
「エクラに言ってあげなよ、嬉しいって」
「私は、別に……」
こちらに向けた視線を再び石に戻す。
エクラは彼の事をツンデレって言うけど、結構わかりやすい態度はとってると思うんだけどな。
正直、エクラが嘆く程、塩対応って感じはしなくなってきたと思ってる。
「ねえ」
「はい」
「エクラの事、好き?」
「はい?」
おっとまだ早すぎたかな。
恋愛的な意味でって加えたら、途端否定の言葉が返ってきた。
なんだかなー。
「ありえません。私、は、主として……主として彼女を認めてはいます。好意もありましょう。ですが、それは聖女と精霊としての関係の中での範囲です」
「へー、そー」
素直じゃないな。
まあツンデレだしね。
それか無自覚か、いやサリュに限ってそれはなさそう。
「ま、いいや。そういえばさ、サリュはエクラのこと名前で呼んであげないの?」
「主や主人と呼ぶ者もおりますし、わざわざ名前で呼ばなくても良いのでは?」
「まーそーなんだけどねー」
エクラ喜ぶと思うんだけどー。
「じゃ、ネックレスのお礼にありがとうとか嬉しいって言える?」
「……」
それって言葉に詰まること?
簡単じゃん。
エクラがありがとうも言えない奴に云々怒っていたけど、サリュって本当にそういう言葉使えないの?
なんかそういう制限でもかかってる?
「あー、わかった。そしたらお礼の代わりに名前で呼んでみれば?」
「どうしてそうなるのです」
「さあ」
察してほしいわけじゃない。
ただこのままもどうかと思っただけだ。
サリュの瘴気は浄化されていない。
どこかでエクラと距離を詰めて、浄化というステージに行かないと、それこそ大聖女共々他の聖女たちも納得しないだろう。
それがいくらサリュが魔に堕ちなくてもだ。
「貴方は」
「ん?」
「シュリエ殿は主が好きなのですか?」
エクラも真面目ってサリュの事言ってたけど、本当その通り。
真っ直ぐ真剣にきくことかな?
まあでもそういうのを気にしてきいてくるっていうのは、つまるとこってやつか。
「好きだよ。家族として」
「家族?」
「そ。俺の大事なお姉様ってやつ」
「姉?」
どちらかと言えば、妹ではと言われたけど、残念、姉なんだよねー。
手のかかる姉、いつだって引っ張って前へ進ませてくれる、命の恩人。
そんなこと、絶対エクラ本人には言わないけど。
「旦那達、見てきたぜ」
タイミングよろしくフルールがオールと一緒に戻ってきた。
魔を捉えたから、距離と数と見た目の強さを把握しに、二人に先に行ってもらって、報告と一緒に作戦会議だ。
「んじゃま、ちゃちゃっと終わらせますか」
「ああ」
「油断はするな」
「分かってるって」
「……」
何も言わず頷くだけ。
まあ同じ精霊として力の強さに信用をおいてるから、今回の遠征もすぐに終わるだろう。
そう考えていた。
* * *
「エクラ!」
戻ってくるだろう感覚に庭に出れば、大聖女からもらった魔法陣が現れて、四人が戻ってきた。
その様子に絶句。
オールが右腕に大怪我を負っていたから。
「オール!」
すぐに治そうと近づくと、その前にサリュが出てくる。
「サリュ?」
「私の責任です。私が治します」
「は?」
彼がオールと向き合った途端、金の輪が彼らの足元に現れた。
精霊にも治癒の力がある。
でも、他の精霊の大怪我を治す程の力はさすがにない。そういうのは聖女の仕事だ。
なのに、オールの腕が繋がっていく。傷が消えていく。
「嘘でしょ……」
「エクラ」
その治る様をまざまざ見せつけられる中、シュリが隣に来て事の顛末を説明してくれた。
どうやら把握した敵の中に一際レベルが違うのがいたらしい。
油断していた所を、一番近くにいたサリュが狙われたが、誰よりも早くに気付いたオールが対応しようとして返り討ちにあったと。
返り討ちにあったと同時にすぐ帰還、サリュがきちんと魔の浄化をしたおかげで、そのレベル違いを取り逃がす事もなかったらしい。
「良かった」
光り輝く金の輪は消え、オールの傷も綺麗になくなっていた。
さて、問題はこっちだ。
サリュの隠し能力はあったとしても不思議じゃない。
師匠のとこにいた精霊でチート、レベルを考えたら、そういう付加能力があっても驚かないだろう。
これが真っ当な治癒であれば。
「時間操作……」
そうだ、これは明らかな時間操作。怪我をしてない時間まで戻しただけだ。
てかもう時の精霊でもないのに使えるって何。
師匠から話を聴いた中でも、時間操作という規格外の力は持っているなんて話はなかったはず。
「主」
「……」
「主」
「あ、なに?」
サリュに呼ばれた事に気づけなかった私の腕をシュリがつついて教えてくれる。
すぐさまサリュへ視線をあげれば、申し訳ないと顔に書いてあった。
「私の責任です」
「シュリから話を聴いたよ。違う、サリュのせいじゃない」
「そうだ、旦那のせいじゃない。俺の探索に問題があった」
サリュの背後から、オールを支えたフルールが強く主張する。
傷が完全に消えたオールも口にした。
「それを言うなら、力の差を量り違えた俺のせいだ」
「そんな、」
「はい、やめ!」
うちの子達は本当責任感があること。
「皆無事だったから良しとします!」
「主、」
「口答えは許さん。誰のせいでもない。以上!」
しんと静まり返る。
するとシュリが丁度最後の敵だったから、遠征の魔討伐は済んだと報告。
「なんだ、それなら今日は御馳走にしようか」
「こんな短時間で済んだのに?」
「まあ遠征とは呼べないレベルだけど、頑張った皆に美味しいご飯という名の褒美は必要だよね!」
「それ、エクラが食べたいだけじゃ」
「ノン!」
このやり取りに少し場が和む。
よしよし、ということで、そのまま屋敷の中に戻る。
視線を感じたけど無視だ。それがサリュのものだと分かっていたから尚更。
そんなサリュがご飯後に私のとこに来るのはなんとなく察していた。
「主」
「なに」
「少し、お時間を頂けますか」
「いいよ」
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。




