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11話 デレの黄金比は八対二の二だから、先はまだ遠い

「ふむ、いい調子ね」

「エクラにだけは塩だけど」

「言わないでよ……」


 執務室から階下を覗くと、精霊達が集っている。

 もう見慣れた風景になった。

 サリュを迎え入れて幾ばかりか、私のとこの精霊とも良好な関係を築き、今ではすっかり馴染んでいる。

 シュリの言う通り、私にだけは塩対応だけどね!


「彼はツンデレなのです。デレの黄金比は八対二の二だから、先はまだ遠いのです。いや彼の場合九対一の可能性も……」

「現実逃避しないの」

「うええ」


 確かに私にだけはとなると、これからのことも踏まえて心配ではある。

 瘴気を浄化するには、サリュ側の受け入れも必要。私を受け入れないということは現状維持になってしまう。

 つまり、サリュの中の瘴気は消えも増えもしないが続く。

 それはよくない。私は彼を救う為にここに連れてきたんだし。


「てかエクラ大丈夫? 最近調子良くないでしょ」

「げ……わかる?」

「んー、まあ今は俺ぐらいかなー」

「ならいいわ」


 よくないでしょ、と窘められる。

 他の子にバレてなければなんでもいいと言えば、苦い顔というより残念なものを見る目を送られる。


「弱音吐いていいって俺ら言ったよね?」

「善処します」


 盛大な溜息が目の前から漏れる。

 今はサリュの浄化の方が先。私の疲れは寝れば治るから後回しでもいいはずだ。

 とは思いつつも、サリュ以外の九人は私にどんどん甘えてほしいらしい。

 これでもお願い出来るようになったのに、まだ甘やかしたいのは何故なのか、曰く愛、愛らしい。

 そういうこと言っちゃうだけの、それだけの癒しがあれば私生きていけるのに。


「瘴気を浄化しながら結界を維持するなんて、今までやってこなかったでしょ」

「そうだね」

「ばーさん達と揉めてたから仕事も終わらないし」

「それは今日あたり目処つくよ」


 これは本当。

 大聖女とのサリュに係わるやり取りはなんとか終わる。

 後はあちらが掲げる期限内にサリュを救えばいいだけ。

 まああのツンデレにどう心を開いてもらうかというとこからなのだけど。難易度高いな。


「今日は早く寝るから」

「ほんと?」


 エクラ、この会話の流れだと守らないタイプのやつだよね、とシュリにぐぐいと詰め寄られる。

 長年一緒だと嘘もばれやすいな。


「鋭意努力するよ?」

「寝ることに努力って」

「ツッコまないで」


* * *


 結局、溜まった仕事をこっそりこなしていたら、もうすっかり夜更け。

 深夜真っ只中。


「あ」


 こんな夜更けに一人、庭にサリュの姿があった。

 今日は月が大きめだから、月の光でよく見える。

 何故、こんな時間に。


「……サリュ?」


 気になって、階下に下りて、庭に出た。

 全然気付かれてないけど、夢遊病とかでもなさそうだった。

 立ち尽くし、星空を見上げている。

 星空見たいから一人で出ました、なんてロマンチックな雰囲気を彼は纏ってない。

 その不穏さに少し嫌な予感がした。


「サ、」

「……」


 声をかけようと言葉を発したところで気づく。

 彼の纏う瘴気が急激に増えている。これ以上はだめ、変わってしまう。


「!」

「っ!」


 声もかけず後ろから彼の手をとった。

 当然彼は驚いて振り返る。その僅かな所作の間に一気に瘴気を浄化した。

 浄化なんて格好いい言葉使ったけど、ようは私の身体に瘴気を取り込んだだけ。その後はその内私の中で消化して消える。

 彼の纏い増えた瘴気が消えて、ほっと胸を撫で下ろすと同時に強い力で手を払われた。


「何故、貴方がここに」

「え? ああ、仕事で起きてたら、庭に出るサリュが見えたから」


 事実だ。

 大聖女を説得するために最終的なやり取りの確認を終えたとこだったし。

 なんとか了承を得て完全に目処がついた。

 サリュを私の精霊として認めるシナリオになりそうだから、やっと解放されそうな雰囲気だけど、そんな言い訳は今の彼には関係ない。


「瘴気を消しましたか」

「うん」

「余計なお世話です」

「残念、私はサリュの瘴気を消して助けるって決めてるから」

「……無駄な事を」

「無駄じゃない。無駄にはしない」


 冷えた視線を寄越して、そのまま無言で私の横をすり抜けていった。

 彼の気配が完全に消えたところで、目の前がぐらりと揺れてたたらをふむ。

 思ってた以上に強い瘴気を大量に取り込んでしまったよう。

 吐き気と眩暈に耐えて、少しその場で踏ん張った。


「エキュ」


 気付かなかった、と思ったら当然か、闇の精霊フォンセが私のすぐ側に立っていた。

 夜のかくれんぼなら敵う者なしだよね、なんていっても闇だもの。


「フォンセ」


 きゅっと私の服の裾を両手で掴んで見上げて来る。可愛いなあもう。

 というか、見られてた。いやだ、見られたくなかったかな、情けないとこだし。


「格好悪いとこ見られちゃったね」

「ん、ん」


 ふるふると首を横に振る。

 幼女に気を遣わせてしまった。


「フォンちゃん、戻ろうか。私、眠くなっちゃったよ」


 正直そんな気分でもないけど仕方ない、ここはフォンちゃんに寝てもらうためにも、そして私が崩れないためにも寝ないと。


「いっしょに、ねゆ」

「ふふ、ありがとう」


 幼女のおかげでベッドの中はぬくぬくになるな。

 部屋に戻って並んで寝れば、何故かとても懐かしい気持ちになった。なんだろう、今までそんなことなかったのに。


「てか、寝るの早っ」


 ベッドに入って数える間もなくフォンちゃんご就寝とは。

 幼女可愛いから許す。


「寝るか……」


 柔らかい髪の毛と頬を撫でながら、私も程なくして意識を手放した。本当、フォンちゃんいてくれてよかった。


 夢を見た。

 戻ってきたことを死んでおけばよかったと言われた。

 けど、それは本音であって本音でなかった。一族として戻ってくる事は歓迎されるけど、一個人として戻ってくる事は望まれていない。そう思われるのは優しさだったと、今になって知った。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


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