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1話 こんにちは、聖女です

 こんにちは、聖女です。

 なんてね。私達は聖女と呼ばれている。

 この世界はアトランティッドという一つの大きな大陸だけで構成され、私達聖女はその大陸を囲うように等間隔に外周に拠点を持つ。

 その点が線として結ばれ、巨大な結界を生み、この大陸を守っている。

 大陸は海の向こうからやってくる魔なるものの脅威に晒されていた。

 私達はその魔を精霊の力を借りて消滅させるのが仕事。


「出だしの語り、中々の出来ね」

「エクラ、何ブツブツ言ってるのさ」

「シュリ」


 精霊達は私達聖女にしか見えないけど、形は様々だ。

 私の名を呼んだ、シュリ……シュリエは土の精霊であり、見た目は私と歳が変わらない男の子の姿をしている。

 人であったり動物であったり、それぞれだ。


「どーしたの?」

「嫌な予感がする」

「ふーん?」

「御先祖様の言葉で言うなら、やばいフラグきてる」

「相変わらず緊張感ないよねー」

「クレームは御先祖様にお願いします」


 私達聖女には遠い御先祖様の記憶がある。

 個人によって影響される御先祖様の記憶は違うけれど、私が一番影響を受けた御先祖様はかなり特殊……いえ、個性的な女性だった。


「御先祖様なら逆に、イベントきたわーって喜ぶやつね」

「本当エクラの御先祖様おかしいって」


 御先祖様は自身のことをオタクだと言っていた。しかもこの世界での生活が癒しやら萌えやらだったらしい。

 沢山ある御先祖様の記憶の中でも、飛びぬけて変わった人生を歩んでいたし、考え方も他とは全然違った。まあそんな御先祖様だからこそ、他の記憶とは別で贔屓目に見てしまうし、影響もだいぶ受けてしまったのだけど。


「今なら私、御先祖様と萌えとかデレがどうこうな話出来る」

「御先祖様死んでるけど?」


 仲間がいて、いつでもオタクトーク出来るのが理想って御先祖様言ってたのだから、それをどうにか私が叶えてあげたいものよ。

 御先祖様に想いを馳せる。たぶんこれだけでも彼女はいいねって言うんだろうな。


「ん?」


 ぶつりとネックレスが落ちた。

 床とぶつかる独特の音を立てて転がる翡翠。


「師匠……」


 ネックレスは師匠から頂いたものだ。

 私が一人前になるまで見習いとして聖女のいろはを教えてもらった。無事期間を終えて聖女として自身の拠点である屋敷をもらった別れの日、師匠は私にお守りだと言ってこのネックレスを渡したんだ。

 恐らく軽いまじないがかかっているはず。それが壊れて落ちるということは、まじないをかけた者の身に何かあったということ。


「主人!」

「ヴァン?」


 風の精霊・ヴァンが慌ててやってくる。

 彼は周囲の様子をいつも見てくれていて、魔が上陸したり、異常があったら伝える役目を担ってくれている。


「聖女が危機に、お、大きな怪我を」

「……どこ?」

「ピランセスさんです!」


 ああもう、嫌な予感なんて当たらなくていいのに。


「師匠!」


 間違いない。

 拾い上げた翡翠を握りしめて、足早に外に出た。


「主人、何を」

「師匠のとこへ行ってくる」

「無茶ですよ! まだ結界が残ってます!」

「でも行く」


 だって結界が消えていないって事は生きているって事だもの。

 正式に許しを得ないと聖女同士でも通る事の出来ない結界、それが聖女の拠点に張られた一つの結界なのだけど、もう出来る出来ない関係なく行くしかなかった。

 大事な師匠の危機にのほほんとここで報を待つだけなんて嫌だもの。


「俺も行くよ」

「シュリ」

「みえてなかったんだろ?」

「……うん」


 私達聖女は多かれ少なかれ未来というものをみることが出来る。

 けど、それは聖女個人の力の差によって大きく変わる。みえる力が全くない者も少なくない。

 私は弱い方、さっきのように嫌な予感程度にしか感じなかった。


「ま、やばそうならすぐ戻ればいいし」

「うん」


 ここから師匠の拠点はおおよそ東南方向に三千キロぐらいだろうか。そこまで遠くない。

 私は大陸の西側に拠点をもらった。聖女の拠点は熟練度とそれぞれの起源が考慮され決まる。


「やるよ?」

「いいよー」


 土に手を当てる。

 地面に現れるのはかつて魔法陣と呼ばれた古い術式だ。

 未来がよく見える聖女がいるのと同じで、私のように少し特殊なスキルを持っている聖女もいる。

 その呼び名は魔法だったり、魔術だったり、能力だったり、言い方はそれぞれだけど、私はひとまずそれを魔法と言っている。

 御先祖様が魔法使いだった事に敬意を払う意味でも。


「よし、捉えた」


 私が使える魔法は転移。

 空間を飛び越えて、移動できる力だ。

 私とシュリぐらいの人数で、距離も遠くなければ、ほぼ成功する。

 それにしても。


「なんだか展開がシリアスっぽいから、真面目にやらないとヤバげかな?」

「エクラ、それわざわざ言わなくていいやつ」

「ごめん」


 ちょっとでも明るい雰囲気になれたらって思ったんだけど駄目だった。

 そう思うと、素でいるだけでなんでもありだった御先祖様は真実凄い人物だ。なんて、ついつい何かにつけて引き合いに御先祖様を出すのはよくないかな。

 この御先祖様の記憶を知っているの、私だけだしね。

たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。


全50話予定ですが、あまり気にせず書いていくので、前々作クール同様増える可能性ありです。

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