4.義妹からの謝罪
「それではミデン様、私たちの拠点にご案内いたします」
テセラは俺の腕をつかみ、そう言った。
たしかに気になる。
陰の組織の拠点、想像が膨らむ。
だけど、その前に知りたいことがある。
「ありがとう。それじゃあ、俺は荷物を片付けてからすぐ追うから、先に奥のほうで待っていてくれるか?」
「ええ、分かりました。それでは、少し先のほうでお待ちしております」
「ああ、すぐ行く」
ディオン、トリア、テセラ、ペティの4人は先に奥へと進んでいった。
そして1人……エナだけは残っていた。俺が何故先にみんなを行かせたのか気が付いたのだろう。
そう、俺はエナと……いや、琴音と話がしたかった。
今は組織の主『ミデン』としてではなく、『三谷翔悟』として義妹である三谷琴音と話がしたい。
「「…………」」
数秒間の静寂。
先に口を開いたのは琴音だった。
「あの、お兄ちゃん……」
「えっ」
初めてだった。
琴音が俺のことをお兄ちゃんと呼んだのは。
ますます意味が分からなくなる。
琴音は俺のことを嫌っていたはずではないのか?
「今まで本当にごめんなさい!!!」
驚きのあまり、転びそうになる。
琴音が俺に対して謝罪?
昨日まで俺に罵声を浴びせていた琴音が?
一体どういう心境の変化だ?
「なんで急に」
「今まで何度も謝ろうと思ったことはあった」
「それにしては毎日罵声を浴びせられたけどな」
「ほ、本当にごめんなさいっ。でも、自分の意志でそんなことをしていたわけじゃないの。これだけは信じてほしい!」
え、自分の意志じゃ、ない?
「それはどういう意味?」
「お父さんとお母さんには絶対に言わない? 特にお母さんには言わないでほしい」
「ああ、約束する。絶対に言わない。誰にも言わない」
「わかった。それじゃ、言うね」
「……ああ」
その場に緊張感が漂う。
琴音は一度大きく深呼吸をしてから、話し始める。
「私が今までお兄ちゃんに酷い態度を取っていたのは…………《《お母さんからの指示》》なの」
「は?」
琴音の言葉に耳を疑った。
あの優しい母さんの指示?
それは一体どういうことだ。
それに、琴音は父さんと母さんが居なくても罵声を浴びせてきたじゃないか。
「嘘だと思うかもしれないけど、本当なの」
「で、でも、父さんと母さんがいないときも罵声を浴びせてきたじゃないか!」
「気づかなかった?」
「何に?」
「実は私たちの家、たくさんの盗聴器が仕掛けられてるの」
「マジで?」
「うん」
つまり、母さんによって盗聴器が仕掛けられているから、母さんがいないときも俺に罵声を浴びせていた、と。
俺の中の母さんのイメージが崩れていく音がした。
信じられないような話だけど、琴音の表情は真剣に見える。嘘をついているようには見えない。
にわかに信じ難い話だが、とりあえず今は一旦琴音を信じてみることにする。
「信じ難い話だな」
「そう……だよね……。信じられないよね、私の言葉なんて……」
「だけど、とりあえず今は琴音を信じてみるよ」
「へっ……!? い、いいの?」
琴音は大きく目を見開いて驚いているようだった。
自分のことを信じてくれるとは思っていなかったのだろう。
まあ、そりゃそうだよな。俺が同じ立場でも同じような反応をしていたかもしれない。
「完全に信じるってことは、今の俺にはできない」
「……うん」
「だけど、とりあえず今は一旦少しだけ信じてみる。どのみち家に帰ってから真実が分かるわけだしな。完全に信じるのはその時でもいいだろ?」
「う、うん! 今はそれでもいい」
琴音は嬉しそうな笑顔を見せてから、俺に抱きついた。
少し……少しだけ涙を流してしまいそうだ。
今まで一般的な兄妹とは掛け離れた関係だったから。こうして琴音を身近に感じることが出来ている今、幸せを感じている。
「これからは本当の意味で俺たちは兄妹になれるな」
「うん! これからよろしくね、お兄ちゃん」
「ああ、よろしく」
俺はぎゅっと琴音を抱きしめた。
まだ琴音の言葉が真実かどうかは分からない。それでも、俺は信じたいと強く思った。
「それじゃ、みんな待ってるから行こ」
「ああ、そうだな。でも、みんなの前では兄妹ではなく、組織のメンバーと組織の主ってことを忘れないようにな」
「ふふっ、わかったよお兄ちゃ……じゃなくて、ミデン様っ」
「口を滑らしそうだな」
「そんなことないよ」
俺たちは他の4人が待っていることもあり、急いで奥へと向かった。
♢
「あら、遅かったですわね。というか、なんでエナはミデン様のところに残っていたのかしら?」
俺たちが皆のもとに着くと、ディオンがエナにそう尋ねた。
エナはもじもじして今にも口を滑らしそうでハラハラする。
「い、いえ、ミデン様の手伝いをしていただけです」
「あら、そう。それならいいわ」
それならいいって、何ならダメだったんだろう。
気になったが聞かないでおこう。何故か聞いてはいけないような気がする。
「それでは、みんな揃ったことですし、拠点へと向かいましょう」
エナが皆の先頭に立ち、拠点へと歩みを進め始める。他の4人と俺はその後ろをついて行く。
一瞬振り向いたエナの頬が少しだけ赤くなっていたような気がした。




